法人減税しても社会に還元されず

 朝日新聞(2008年9月20日)に、公賓社会シリーズ、「企業節税村 オランダに」という記事が掲載された。ネット上にはアップされていない。重要部分をメモする。

# 法人税率25.5%は最も有利、日本に利益還流せず

  • 日本の法人税率は30%、法人事業税など地方税を加えた実行税率は約40%。
  • 日本企業400社以上が、オランダに欧州本社や欧州統括本部を置く。「日本の企業はみなオランダだ。」と財務省幹部は嘆く。
  • オランダの法人税率は25.5%。この税率は日本企業にとって最も有利。不当な税負担軽減を防ぐ日本の「タックスヘイブン税制」*1は、税率が25%以下の国・地域に適用される。
  • 日本企業が海外現地法人にため込んだ利益は残高が17兆円強(06年度)。年に1兆円単位で増えている。
  • 有価証券報告書から計算した07年度減税効果は次のとおり。
    • HOYA、約190億円
    • 松下電気産業、約300億円
    • キャノン、約200億円
  • 移転価格税制を巡る巨額のトラブルが相次ぐ。
    • ホンダ、1400億円申告漏れか*2
    • 武田薬品、申告漏れ1223億円*3
    • ソニーとその子会社、申告漏れ744億円*4


# 支援の自治体、恩恵薄く

  • 02年末の税制改正で、経済界の主張を受けて研究開発促進税制がまとまった。*5年間で6000億円もの、屈指の規模だ。
  • 研究開発は規模や納税額が多い大企業が中心で、メリットもそこに集中した。有価証券報告書から計算した07年度減税効果は次のとおり。
    • トヨタ自動車、約800億円(単体)
    • キャノン、約350億円(連結)
    • 武田薬品、約200億円(連結)
    • 松下電気産業、約50億円(連結)
  • 「強い企業を支援すれば日本経済に恩恵が及ぶ」(財界関係者)のが減税の狙いだ。ただ、思惑通りに運ばない例もある。


# 法人減税、社会への還元カギ

  • 経済成長のために企業の税負担を軽くすべきか、企業の社会的責任として応分の負担を求めるべきか、議論は続いている。
  • 84年に43.3%だった法人税率は段階的に引き下げられ、99年以降は30%となった。*6
  • 減税を求める経済界や経済産業省と反対の財務省との間で激しい綱引きが続いている。その象徴が02年、経済財政諮問会議での論争だ。税率は引き下げないが、企業のIT投資や研究開発投資を促す1兆円規模の減税という折衷案で決着した。
  • 財界からの「減税コール」の背景には、世界中で起きている法人税負担の引き下げ競争がある。企業を引き止めようと、06年には米国、フランス、カナダが研究開発減税を拡大し、07年にはオランダ、08年には英国、ドイツ、中国が法人税率を下げた。日本は実行税率が約40%で、国際的に最も高い水準にある。*7
  • 経産省は日本の法人税制が国際競争の足かせになっている現状を強調する。また、経団連も「日本と海外の税率格差は無視できない水準。企業活動の活性化は雇用や所得の拡大に直結する」とし、法人実効税率を30%まで下げるように容貌。社会保障の財源確保のための消費税増税とセットで提言している。
  • ただ、法人減税が実際に雇用・所得の拡大につながるかどうかは不透明だ。
  • 日本企業の多くは過去最高益を更新した。国内企業の経常利益総額は06年度までの4年間で約1.8倍に膨らんだ。
  • 一方、「労働分配率」は02年から下がり続け、内部留保金や株主への配当が増加した。07年度の法人税収は14.7兆円で、バブル期の89年の3/4どまりだ。*8
  • 企業の負担軽減が社会に還元される道筋を示すことができるかどうか。法人減税に国民の理解を得るカギとなりそうだ。


 公賓社会というルポは、しっかりとした調査に基づいている。今回もオランダになぜ「企業節税村」ができたのかタックスヘイブン税制の仕組みから分かりやすく説明している。企業がその本質上、利益創出を優先していることが実例を通じて示される。企業の社会的使命を果たすことが後景に追いやられ、基盤整備を行っている自治体や国に後足で砂をかけるようなことをためらわずに行っていることが明らかにされている。


 ただし、本ルポにも問題がある。結末部分で、法人税減額がやむをえないと示唆している点である。
 確かに、日本の法人税実効税率は世界最高水準である。法人税の税収に占める構成比*9も、国民所得に占める法人税率の割合*10も高い。
 一方、社会保険料負担は世界最低水準である。*11、*12
 法人税が高く、社会保険料事業主負担が低いことより、グローバルな活動を行っている大企業は次のような行動をとっている。付加価値の高い製品を作る場合には、社会保険料の低い日本で生産する。できれば、非正規雇用を増やし、社会保険料も自らは支払わない。一方、法人税は税率の低いオランダなどの海外で支払う。社会保険料事業主負担が低いことには触れず、法人税が高いと宣伝する。
 法人税減税を行う場合に必要な最低条件は、他の先進国と同程度の水準まで社会保険料を増やすことではないか、と私は考える。当然のことながら、低所得者層への配慮は不可欠である。労使折半が原則となっている社会保険料負担も事業主負担をより引き上げるべきではないか。
 経団連の主張はどおり、法人税減税、消費税増税、年金を税方式に切り替えたの税方式への切り替えを行った場合、企業主権国家になり、格差社会がどうしようもないところまで行き着くのではないかという危惧しているする。

<追記(2008/9/23)>
 結論部分が日本語としておかしいことに気づいたため、修正します。
 多数のブックマークありがとうございます。正直驚いています。また、貴重なご意見が、コメントやトラックバックとして寄せられています。今後のエントリー記載の参考としたいと存じます。今後ともよろしくお願いいたします。

*1:国際課税関係

*2:ホンダ多額申告漏れ 移転価格税制で

*3:武田薬品、1223億円の申告漏れ

*4:ソニーとSCEI、ゲーム事業で申告漏れ744億円--異議申し立てへ

*5:経済産業省 研究開発促進税制の経済波及効果について

*6:法人税率の推移

*7: 法人所得課税の実効税率の国際比較

*8:主要税目の税収(一般会計分)の推移

*9:所得・消費・資産等の税収構成比の国際比較(国税+地方税)

*10:租税負担率の内訳の国際比較

*11:医療費財源-国庫負担の拡充と保険料事業主負担の増大が鍵

*12:平成19年度医療政策シンポジウム 脱「格差社会」と医療のあり方、68ページ