【2016|2015|2014|2013|2012|2011|2010】
良いコミックがお送りする年1企画、『この装丁がすごい!~漫画装丁大賞~2017』の発表です。好きな作品を紹介するにしてはタイトルがすさまじいなと他人事のように思いながら企画を続けて8回目、中身は大体いつも通りになっています。それでは紹介数ベスト100+α、どうぞご覧ください。
●対象:2016年12月1日から2017年12月4日に発売された作品
●画像をクリックするとamazonに飛びます。
●画像下に▲マークが付いている作品は、
画像の上にポインタを乗せると別画像に切り替わります。
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【1位】 寿命を買い取ってもらった。
一年につき、一万円で。 全3巻 / 田口囁一,三秋縋,E9L
不思議な店で寿命のほとんどを売り払ってしまい、残った余生を過ごす男と店から送られた監視員との
奇妙な共同生活を描いた、小説『三日間の幸福』コミカライズ作品。こちらは2巻。
1巻、そして3巻。コミカライズにあたり長文にしたタイトルを、後半部分を強調する形で大小を付けて大胆に配置。加えて、英文タイトルを白(小)とシルバー(大)で2個、タイトル前半部分や巻数マークと色を合わせた三角の装飾多数、そしてコミカライズなのでクレジットのノルマも必然的に多く、総じて装飾アイテム増し増し。それらが描き込みの細かい風景込みのイラストの上に乗せられるわけで、過剰に盛っているような説明になってしまうが、実際には文字が色分けや縦書き・横書きの使い分け、そしてレイアウトによって整えられ、別のレイヤーを意識させるような形で綺麗に浮き出て、イラストと上手く調和しているように感じられた。
背表紙にJCマークを背負った新書版ジャンプ・コミックスの一つになるが、その雰囲気は同レーベルの作品郡の中でも何となく異質。理由を考えてみて、ジャンプらしさがまず前に出る傾向があるこのレーベルの中で、こちらは川谷デザインさんの川谷デザインらしさがもっと前に出ているから、と個人的に納得した。田口先生の希望があって川谷さんにオファーが届いたらしく、今後のジャンプ+作品とか、ひょっとすると三秋縋小説とか、フラグ的なものもひっくるめて田口先生グッジョブです。
出版:集英社
装丁:川谷デザイン []
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【2位】 北北西に曇と往け 1巻 / 入江亜季
▲カバー全景
クルマと話ができる青年を主人公とした、アイスランドが舞台の探偵活劇。
愛車を止めて水溜りが空を映す道路に足を下ろす、バックパッカーのような出で立ちの青年。彼を取り巻く鳥や野生の動物。水平を大きく斜めに傾けて描かれたイラストは、表紙の限られた面積の中でどこまでも見通せるアイスランドの広大な地を見せている。カバーには凹凸があり手触りが良く、さらに文字部分には黒箔が押されて高級感と存在感を出している。背表紙には表紙の青空が描きかけられたようにラフにかかって青と白のコントラストを生んでいる。表紙にいるヒツジのほか、ペットボトルや方位マークなど他で使われていないアイテムなども飾られていて、背表紙単体での見栄えにも拘っている様子が伺えた。
カバー下、本体表紙はクラフト紙(画像右上)。表紙をめくった先には、質感の面白いグレーの遊び紙あり(画像右下)。イラストもデザインも加工も、ここまで全力だを出していると気持ちが良い。
出版:KADOKAWA
装丁:BALCOLONY. [/]
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【3位】 だからオタクはやめられない。 / パカチャン
▲カバー全景
テニミュをこよなく愛するアラサー中堅オタクの作者がアルパカの衣を身にまとって己の生態を語る、エッセイコメディ作品。
表紙は黄緑、白、黒の明確な3色構成。カバーは目で確認できる程度にデコボコしており、シンプルすぎるアルパカの白にモフモフ感を与え、その存在感を高めている。黒色部分には光沢加工があり、手に取ると整った文字が品良く浮き出る。
カバー下はオレンジ色(画像右上)。目次ページにはアルパカのシルエットを使用している。
出版:KADOKAWA
装丁:hive 金子歩未 []
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【4位】 夜回り猫 1・2巻 / 深谷 かほる
涙の匂いを辿って、その猫は現れる。Twitter発8コマ漫画で、KADOKAWAより1巻を刊行した後、発表の場を講談社のモアイに移して改めて1巻から発売された。
二本の足で歩く人間くさい猫・遠藤平蔵を中心に猫たちが集まっているイラスト。本編ではディフォルメを利かせたシンプルなタッチで描かれる遠藤平蔵さんであるが、表紙では人間的な貫禄を感じさせる程度にリアルに描かれており、濃ゆくて目立つ。タイトルロゴは、すっきりしたフォルムの文字の中にささやかに星が散りばめられ、イラストを見せるべく旧版より小さくなっているが、イラストのタッチとの差も手伝って、こちらもしっかりと見やすい。とにかくイラストが強いと感じたこちらの表紙はA5判サイズで大きいこともあり、平積みで大きな存在感を放っていた。
出版:講談社
装丁:VOLARE []
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【5位】 崖際のワルツ 椎名うみ作品集 / 椎名うみ
▲カバー全景
『青野くんに会いたいから死にたい』著者・椎名うみ、初の作品集。3篇を収録。高校演劇部で強烈な個性を持った二人の新入生が15分の演劇に挑む表題作より、カバーイラストには手を握りポーズを決めた二人のイラストを使用。カバー全体(▲)で見るとイラストは安定するが、表紙単体だと左右の情報が落ちることで、アクロバティックな見え方をして全景を気にさせるような、絶妙な位置取りが行われているように感じた。目次(画像右下)にあるように、表題作はラストに収録される。作中でタイトルの意味、そして何をイラストに持ってきたかがわかったときにニヤリとできたことも合わせ、印象に残る表紙となった。
出版:講談社
装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/]
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【6位】 アイアムアヒーロー 22巻 / 花沢健吾
▲カバー表裏
都会だった場所の真ん中で銃を構える主人公。人物部分だけを普通に着色。その他の部分にはシルバーをあてがっており、タイトル、作者名、巻数は建物の看板やディスプレイに溶け込ませている。
装丁への印象と作品内容は相互に影響を与えるもので、投げっぱなしジャーマンに対するアマゾンレビューの惨劇にしかたなさを感じながらも、最後に得られた一つの物語の収束感はとても自分好みだったこともあり、単行本初期のデザインを踏襲しつつ、極端の境地に達した最終巻カバーと合わせて良い物を読めたという気持ちはお伝えしたい。
出版:小学館
装丁:井上則人デザイン事務所 [/]
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【7位】 ルーヴルの猫 全2巻 / 松本大洋
ルーヴル美術館で働く人たちと美術館の屋根裏を根城にする猫たち。絵の中に消えてしまった少女をめぐる、一匹の白猫の不思議な冒険を描いた作品。
美術館に佇むオッドアイの白猫。上部の帯エリアは上巻・下巻でイラストに合わせて白と黒を振り分け、美術館の昼の顔と夜の顔を見せている。フランス語のタイトル部分は銀の箔押し。キャンバス地のような凹凸と手触りを持つ紙と合わせて絵画のように仕上げつつ、漫画作品のそれとしても違和感を感じさせない絶妙のバランスのカバーに感じられた。
作中に登場する絵画として上巻、下巻の両方にカラーで収録された『アモルの葬列』にはちょっとした仕掛けあり。
出版:小学館
装丁:孝橋淳二 []
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【8位】 潜熱 1巻 / 野田彩子
▲カバー全景
バイト先のコンビニに来るヤクザに恋をしてしまった女子大生の前途多難な恋模様を描いた作品。
タバコを挟んだ無骨な手でアゴを押さえられ、引き寄せられる女性の図。単体で見るとフェティシズムを感じさせるようなイラストを青色をベースにスタイリッシュにまとめた表紙。上体をそらした人物と合わせるように、斜体を使用した巻数や筆記体を使用した各種文字情報の密集地帯のレイアウトが美しい。中扉(画像右上)、目次(右下)、カバーの各部分など何らかの形で直線を盛り込んで生んだ本全体の統一感もポイントになっている。
出版:小学館
装丁:BALCOLONY. [/]
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【9位】 ゼリゐ文明の書 / タカノ綾
現代から遠い未来まで、生み出されたゼリィ生物によって繁栄した文明の足取りを追うファンタジー作品。
2人の人物が見つめ合うイラストを収めた正方形のエリア。枠外は均一にグレーが敷かれ、タイトルロゴなどの各種文字や装飾が白抜きで配置されている。
「邂逅(Encounter)」というタイトルが付いた表紙イラストは作中の1コマがベースになっているが、そのコマを引きたてる、グレーと白のシンプルな要素による「文明の書」というタイトルに合った書物的なアレンジが上手いと感じた。
出版:駒草出版
装丁:Pri graphics 川名潤 []
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【10位】 エマは星の夢を見る 1巻 / 高浜寛
▲カバー全景
元ミシュランガイド調査員の実体験を基に、知られざる彼らの日常を描いた作品。
テーブルで上品に料理を口に運ぶ女性。ミシュラン⇒フランス⇒トリコロールということで、背景には青・白・赤のパターンが敷かれ、そこにバラエティ豊かな料理を並べている。タイトルは枠に入れられ上部に配置されることで、メニュー表のような印象も受ける。食べる瞬間をイラストに収めた同時期のグルメ系作品のなかでも特に上品でありながら、トリコロールが程よく目立ち、作品の個性でもある異国性を伝えていて興味をそそられた。このトリコロールパターンはカバー全体(▲)に広げられていて、シンプルに鮮やかさを添えている。
出版:講談社
装丁:10.柿木原政広 []
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【11位】 サザンウィンドウ・サザンドア / 石山さやか
▲カバー全景
建て替えが進み、新旧入り混じった景色が広がるとある団地を舞台に、そこに住む人々の日常を切り取った団地オムニバス短編集。
建物のベランダを背景として全体に広げた表紙。構図としては縦横がきっちりしているが、イラスト自体はフリーハンドとざっくりとした塗り分けで適度に柔らかい印象を与えており、それを正確な四角形のタイトル枠が引き締めている。本企画で何度か紹介しているこのタイプの構図の中では、手前に人物を置くことで建物を大きく見せていることが特徴かもしれない。イラストはカバー全体(▲)で1枚絵になっていおり、裏表紙の途中から外の景色が広がって開放感が加わる構成も良かった。
出版:祥伝社
装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/]
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【12位】 カニメガ大接戦! / なかま亜咲
▲カバー袖
『健全ロボ ダイミダラー』作者の初期作である4コマ漫画。
特撮映画のポスター風のダイミダラー表紙から時代を遡って、今回はレトロな日本映画ポスター風。題字風のタイトル、当時のポスターのマークや煽りなどを模擬したアイテムを散りばめてレトロ感を前面に出しつつ、文字色の統一、視認性や可読性を上げる枠使い、絵柄との調和、文字部分への独特な質感を与える加工など、しっかり元ネタを現在のデザインに落とし込んでいる。痴女レベルで露出させたヒロインの描いてはいけない部分だけをお約束的な鉄壁ガードで隠したイラストはとても際どいが、その露骨さはレトロデザインに紛れ込んで程良く中和されている。丁寧な仕事ぶりと頭の悪さを楽しめる表紙。
出版:KADOKAWA
装丁:BALCOLONY. [/]
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【13位】 累 / 松浦だるま
▲10巻を前に
祝映画化。
デザイン本で紹介した時は書影を5巻まで掲載しており、「並べると壮観の一言」というコメントを添えていた。物語がクライマックスに近づくにつれて壮観ぶりに拍車がかかっており、この辺りまで並べたかったという気持ちになってくる。
出版:講談社
装丁:hive []
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【14位】 でらしねをどり 1巻 / ごうだ あぶく
戦乱の世。人とは異なる時を刻む"永命族"の少年の数奇な運命を辿る作品。
半透明カバーを用いており、カバーには人物、そして枠で囲った各種文字が印刷されている。カバー下本体には表から裏にかけて3つの時代の人の世が描かれ、ピンク⇒黄色のグラデーションで色づいている。カバーをかけると、左から右へと進む人物たちの背景に移り行く時代の景色が薄っすらと現れて、永き時を渡る者たちの行く道を暗示する。
出版:KADOKAWA
装丁:円と球 []
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【15位】 スペシャル 2巻 / 平方イコルスン
前回紹介した1巻は黄色で、今回紹介する2巻はピンク。そして色を充てている領域が小さくなった。ここで一番伝えたいのはそれでも十分なくらいに表紙を明るくしている蛍光ピンク部分の発色の良さなのだけれども、悲しいかな、用意した画像では伝わらないので(amazon,kindleの書影もNG)、是非とも現物をご確認ください。
出版:リイド社
装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/]
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【16位】 スペクトラルウィザード / 模造クリスタル
▲カバー表裏
魔術師ギルドの壊滅によって居場所を失った魔術師の1人・スペクトラルウィザードが、低いところで浮き沈みを繰り返しながら世界を救ったりもするメランコリック・ファンタジー作品。
印刷が若干白みがかるような、さらさらとした手触りの紙を使用。魔術書をイメージさせる装飾の入ったグレーの背景に、無形の剣を持つ主人公を魔術師たちが囲むファンタジー感を出した表紙。登場人物がわんさかいるようにも見えるが、ピンク色のキャラ達は分身を使える実質1人のキャラクターだったりするのが突っ込みどころであり、うまくやっていることろでもある。
話はそれるが、こちらの作品は内容がかなり好みだったのにきちんと読んだのが2018年明けでだったため、しかるべきタイミングで推せなかったのが心残りになっている。
出版:イースト・プレス
装丁:川谷デザイン []
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【17位】 甘木唯子のツノと愛 / 久野遥子
▲カバー表裏
『花とアリス殺人事件』ロトスコープアニメーションなどアニメーション作家としての活動も行う作者初の短編集。
イラストは、表題作に登場するツノの生えた少女の横顔、そして伸ばされた手、植物と虎。塗り重ねてできたイラストのアナログ感は均一な白色部分によって際立って見える。枠や白抜きの文字のフチは銀色。公開されているカバーイラストの制作過程を見てみると、「横顔と手」、「植物と虎」は別々に描かれており、完成した表紙と比べると、銀色の枠が、横顔以外の見せる部分を制限して、イラストを表紙らしく仕上げていることを確認できる。
画像右上は薄茶の紙にシルバーの印刷を載せた中扉。画像右下は短編のタイトルページ。右端に寄せられた文字間スペースに余裕を持って配置されたタイトルの下には初出情報が添えられている。物語の入り口や出口のシンプルな文字組みの中にも作品を引き立てる仕事が見える良い1冊だった。
参考:祝・重版決定! 久野遥子『甘木唯子のツノと愛』のカバーイラストができるまで
出版:KADOKAWA
装丁:セキネシンイチ制作室 森敬太 [/]
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【18位】 大江戸国芳よしづくし / 崗田屋 愉一
江戸時代末期の浮世絵師・歌川国芳を主人公に、その若き日の運命を変える出会いを描いた1冊完結の時代劇作品。
歌川国芳の出世作となった『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』シリーズの各イラストを折り重ねてグレーの枠を形成。中心には、主人公と猫(国芳は猫好きとしても知られる)を隙間から見せるように配置している。
タイトルは2行に分けたものを曲線でつなげており、こちらも枠を形成。枠として消費されるイラスト部分に何気に情報が詰まっていて、全体を眺めながらデザインが贅沢だという感想が出てきた。画像右上はカバー下。画像右下は奥付。コードデザインスタジオさんの装丁鑑賞は、奥付まで楽しんで完結する。
出版:日本文芸社
装丁:コードデザインスタジオ [/]
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【19位】 バイオレンスアクション 2巻 / 浅井蓮次,沢田新
▲帯
簿記の専門学校に通う傍ら、派遣型殺し屋で指名No.1の座につくゆるふわ女子大生を主人公に、裏社会の人間の生き死にを過激に無機質に、かつコミカルに描くアクション作品。
1巻から4巻まで黄色の背景、ラフな格好のヒロインと拳銃、少しの血痕を散らす構成で統一。 明るさと血生臭さが混じって目を引いた一連の表紙の中で特に紹介したいのが2巻。銃をいじる行為とゴルフウェアのミスマッチ感、折りたたみ椅子とクーラーボックスによる構図の安定、背景を入れずとも伝わる場所感など、とにかく一番かっこよく感じたのが2巻だった。
裏表紙には、ピンナップに仕立てた作中カットとあらすじ(画像右上)。各話のトップには数字オンリーのページ(画像右下)。元々各話にはタイトルが振られていないが、目次ページを設けず、番号だけ伝える黒いページで各話を区切る構成が何気に大胆かもしれない。帯も大きめでよく作りこまれていた(▲)。
ちなみに、原作者である和歌山出身在住の兼業主婦沢田さんの正体が、『秋津』『レイリ』の作者・室井大資先生だったことが明かされ、新人女性漫画家を名乗るロリエロ漫画家と同じパターンかとびっくりした(87位『もしもし、てるみです。』の話はしていない)。
出版:小学館
装丁:GENI A LOIDE 小林満 [/]
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【20位】 デザイナー 渋井直人の休日 / 渋谷直角
▲帯
布のようなしっとりとした手触りがちょっとしたリッチさを感じさせるカバー。主人公の顔は簡略化されてアスキーアートのように線で描写。この顔部分とタイトル、作者名が金の箔押しで構成されている。イラスト部分が記号的なので、ほぼ文字だけ使用しているシンプルな表紙に見え、その表面の質感や箔押しの存在感が際立っている。帯(▲)は大型。カバー下(画像右上)や中扉(画像右下)も同じくアスキーアートの顔を使用している。
出版:宝島社
装丁:渋谷直角,大島依提亜
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【21位】 青野くんに触りたいから死にたい / 椎名うみ交際2週間で彼が死亡。触れ合うことは叶わず、それでも寄り添うふたりの青春と忍び寄る暗い影を描いた、純愛シュールホラーラブコメミステリー作品。
単体では毒を持たないイラスト、そこにぎりぎり読めてしまうほどに暴れたタイトルが合わさって、純真な狂気があふれ出すようにまとまった表紙。1・2巻で文字位置は完全固定。
出版:講談社装丁:川谷デザイン [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【22位】 怒りのロードショー / マクレーン映画バカな高校生たちが集まって、際限なく映画愛にだけあふれたムダ話を繰り広げる日常作品。
おそらく、好きな映画から合いそうなものを持ち寄って一つのド派手なアクション映画風のポスターに仕立てた、合作的パロディ表紙。最近賑わってきた映画語り漫画の中でも目に付いた表紙で、意外と中身も伝わりそうに思える。見てぱぱっと元ネタを説明できる知識、あるいは有志の元ネタ解説ページが欲しい(「ランボー 怒りの脱出」と「ケーブルガイ」が入っていることだけ確認できた)。レタッチ・カラーリングはarcoinc池田さんが行っている(前回紹介した『宇宙のガズゥ』も同じパターンで、彩色で個性を付けている)。
出版:KADOKAWA装丁:arcoinc [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【23位】 雑草たちよ大志を抱け / 池辺葵高校に通う生徒の中でも地味で平凡な女子たちにスポットを当てた、一人1話で5話構成の青春連作集。
お花畑に立つ赤い制服の5人組。それぞれの物語を予感させる、ばらばらの目線。光の表現が美しく、夕暮れ時の空気を感じられる装画。飾り気のない黒字のタイトルは少女達に向けられているようでもあり、表紙に力強さを与えているように感じられた。
出版:祥伝社装丁:Pri graphics 川名潤 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【24位】 また、片想う。 1・2巻 / タチバナ ロク幼なじみの三角関係に世界線的なアレが加わってそうなっていく、“少し不思議”なラブコメディ。
1・2巻共に目元から上をカットした顔が見えない系の表紙。見えないと言いつつ、口元に感情がこもっていて表情を読み取れるのがポイント。書き文字風のタイトルも手伝ってセンチメンタルな空気かもし出されている。
出版:KADOKAWA装丁:阿閉高尚 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【25位】 Levius/est 4巻 / 中田 春彌無印含めて3度目の紹介となるバンド・デシネ風左開きスチームパンク作品。
人体と機械を融合させた2人の拳闘士が向き合い、顔を近づけたイラスト。1色の線画をシンプルに載せた白地の背景をベースとして人物イラストの使い方には変化を入れているシリーズで、こちら4巻のみイラストを横置で配置。タイトルは通常通りに配置し、他の文字情報はイラストに合わせて半時計回りで90度傾けている。トリッキーなイラスト配置が見た目に面白いというのはありつつ、その効果を解釈しようとすると中々難しくて、とりあえず25位、26位に横使いを並べてみた。
出版:集英社装丁:gift unfolding casually [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【26位】 姉なるもの 1巻 / 飯田 ぽち。少年の願いによって「姉」という形を得た邪神。契約で結ばれた姉弟、その夏の日々を描いたクトゥルフ系ホームドラマ。
二本のツノ、尖った耳。首元から生えた無数の眼球がグロテスクな、人ならざるお姉さんのイラスト。イラスト、タイトル共に横向けで配置されているが、作者名、巻数、英語表記のタイトルなどは普通に配置されているため、横にして見るというより、あくまでイラストとタイトルが横になっていて視覚を刺激するであろう表紙。イラストはエロティックに描かれているが、横置きになっていることで知覚できる情報が変わって、おそらく正位置でイラストを眺めるよりも幾分性的なイメージが緩和されるであろう、そういうバランス取りをこの構図設定に感じた。
出版:KADOKAWA装丁:imagejack 團夢見 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【27位】 かよちゃんの荷物 新装版 / 雁 須磨子阿部かよ子、通称かよちゃん(30歳)のマイペースな日常を描いた作品。元全3巻、そして上下巻で発売された新装版。
手荷物を持った人々を散りばめて街中のような賑わいを見せる表紙。チェックと言うか大きめの白枠を作る間隔で敷かれた薄めの色合いののラインが程々に主張して個性と華を加えている。
出版:竹書房装丁:CHProduction [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【28位】 棺担ぎのクロ。~懐中旅話~ 6巻 / きゆづき さとこ物語もいよいよ佳境。
通巻でタイトル位置を固定し、四隅に飾り枠のついた
フォーマットデザインを続けていて、
6巻でいきなり紹介したのはつまるところ、
6巻がとてもかっこよくないですか、という話。
長く続いたからこそ必然的に発生する終盤的なよさ、あると思います。
出版:芳文社装丁:コメワークス 木緒なち [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【29位】 何モナイ君タチヘ 全2巻 / 鳩也 直己の「渇望」によって生み出される、人の形をした『ソレ』が巻き起こす騒動を描いた作品。
太いカギカッコの中にキャラ、そしてカギカッコに収められたタイトルを収めた入れ子構造的な表紙。大胆な余白使いで、大きなカギカッコがブランク状態(何モナイ)になっている。色使いが白黒、黒白と対にしてまとめた全2巻。
出版:KADOKAWA 装丁:LIGHTNING □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【30位】 あげくの果てのカノン 4巻 / 米代恭1巻で青空、2巻・3巻と空が黄昏ていって、4巻で夜。
前回の記事で大きく紹介したので
細かく言うことはないが、とても良い。
ちなみに月刊MdN 2017年12月号の川谷さん特集で、
米代先生のインタビューも含めて
本作品のデザインが大きくピックアップされていた
(月刊MdN 2017年12月号、とてもおすすめ)。
出版:小学館装丁:川谷デザイン [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【31位】 かたわれワルツ / 鈴木 翁二 漫画雑誌「ガロ」で活躍し、安部慎一、古川益三と並び〝三羽烏〟と称された作者による、1970年代発表作の多い詩情にあふれる文芸的な短編集。
「夕凪広場のだれもおぼえていないと言う」というタイトルの付けられたイラスト。白のスペースには簡潔にタイトル、作者名、出版社。表面は少し凹凸の付いたマット加工。ハードカバーなので、表紙を外さなくても本の上下からは厚みを持った本体表紙の紫色が顔を覗かせる。シンプルな構成で、今はなき景色が静かに感慨を引き起こす。
出版:而立書房装丁:南伸坊 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【32位】 ロッタレイン 2巻 / 松本剛すべてを失った男の前に現れたのは、14年前家族を捨てた父と、血のつながらない義妹。衝動と愛情が交錯する、ひと夏の儚い恋の物語、全3巻。バックベアード様AA略。
ベースは白黒、瞳の部分には着色あり、そして文字や巻数マークとイラストの一部分に各巻固有の1色を割り当てている。2巻の固有色は水色。この特徴のある色分けは作品の雰囲気も言語の外で伝えていて、例えば白背景でヒロインが水色の傘を持っていて構成の近い『恋は雨上がりのように』1巻と比較すると柔らかさがごっそり削られているのがわかる。
出版:小学館装丁:NARTI;S 新上ヒロシ [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【33位】 ゆるキャン△ 3巻 / あfろJKゆるふわ本格アウトドア作品。
ロゴの右端でテントを模している△(サンカッケー)、これも正式なタイトルの一部。1巻から5巻まで作中の季節は冬、なのでどの巻もばっちり着込んだキャラが特徴になっている。5巻まで出ると、巻毎の構図とアングルへのこだわりが見えてきて、原付バイクをメインに据えて間接的にアウトドア巻を出した3巻が特に好みだった。
なお、アニメ版ではタイトルデザインが変更されているが、OPでは原作デザインの△部分が単独でアイテムとして用いられ、終盤にはサザエさんチックに躍動することで妙な存在感を出していた。
出版:芳文社装丁:TWINTAIL 川村将 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【34位】 舞妓さんちのまかないさん 1・2巻 / 小山 愛子元舞妓さん候補の「まかないさん」を主人公に、日々のごはんから舞妓さんたちの素顔を描く作品。レトロな佇まいの台所(
京都のゲストハウスにモデルあり)を舞台にしたイラストの左側に色つき帯を添えて鮮やかさを加えた表紙。四方がくぼんだイラストエリアは、台紙にはめた写真のよう。色合わせ、ロゴデザイン、カバーの質感など、和風テイストが程よい。
出版:小学館装丁:ベイブリッジ・スタジオ 特重甫 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【35位】 悪魔のメムメムちゃん 2・3巻 / 四谷啓太郎寄生と増長と諦観が得意な押しかけ女房系のポンコツ悪魔・メムメムちゃんがトラブルとエッチを引き寄せるコメディ作品。
どの巻もまともな表情をしていない主人公の絵面と、パステル調の色あわせ、シンプルな塗り分けが特徴的。こちらも1位と同様にジャンプ+連載の新書版ジャンプ・コミックスで、書店で王道な表紙と隣り合うと変化球具合が際立つ。
出版:集英社装丁:BALCOLONY. 竹内はるか [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【36位】 午后のあくび / コマツシンヤひとつの町を舞台に、移り行く季節の中のメルヘンな小話を集めたファンタジー作品。
あくびをイメージさせる気泡の中に、沢山の情景が納まったイラスト。『8月のソーダ水』に続く川名さんデザインで、青と白の美しいバランスは健在。今回は一つ一つのカットを泡というアイテムとして扱うことで自然に白エリアが発生。風景タイプの情報量の多さと白背景のすっきり感のいいとこどりをしている。
『8月のソーダ水』のロゴはコマツ先生作、そしてこちらのロゴは川名さん作。「コマツ先生が作りそうな感じでマネをした」とのこと。
出版:亜紀書房装丁:川名潤 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【37位】 麻衣の虫ぐらし 1巻 / 雨がっぱ少女群職探しをする主人公・麻衣と、農家で働く友人との畑の手入れをする日々。農業と虫を題材にした田舎のガールズ・コメディ。
草むらで頬杖を突いてテントウムシを眺める主人公、それを眺める友人の構図。緑色と空色で偏らせた景色の中で、1匹のテントウムシによって挿された赤色がアクセントを加えている。
各種文字情報を一箇所に集めた家形の枠タイトルデザインが面白くて、イラストを邪魔しないながら程よく目立つことで、1枚絵のイラストをしっかりと漫画の表紙に仕上げているように思えた。
出版:竹書房装丁:arcoinc 楠目智宏 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【38位】 どこか遠くの話をしよう 上巻 / 須藤 真澄「物」と話ができる少女の納屋に倒れていたのは異国の男。奇妙な出会いが少女にもたらすものは…。南米の緑豊かな山岳の村を舞台にしたファンタジー長編。
鮮やかな民族衣装をまとった褐色肌の少女。アルパカが放牧された平原、岩肌の露出した険しい山脈。ざらついた輪郭を持つタイトル文字は、飾るより先に、昔話を始めるように語りかけてくる。珍しい舞台の異国情緒を静かに感じられる表紙。上巻マークの装飾と同様の加工がされた各話扉の話数表示、焼けのようにほんのり色づけされた袖や幕間、奥付ページなど、主張しないながら行き届いている部分が多く、本全体の感じもよかった。
出版:KADOKAWA装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] ▲カバー下□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【39位】 浜咲さんなら引いている 1巻 /
瀬戸内ワタリ、 水谷ふみ都心にある女子高通いの浜咲さんが都内の釣り場を漁る、釣りガール作品。
青空に海と、青色をベースに、巻数マークやリボンなどちょっぴりの黄色。主人公は普段、剣道用具入れに釣具を隠していて、竹刀袋から抜刀するように釣竿を抜き出す瞬間をイラストにしている。「この商品を買った人はこんな商品も買っています」に並ぶ競合釣りガール作品合わせて4作品の表紙を比べてみると、それぞれの個性が見えてきて、こちらはというと「釣り」を入れないタイトル、糸を見せない竿、具体的な地形情報なし、など抽象的な材料で釣り感を演出して特色を出していた。
出版:小学館装丁:ベイブリッジ・スタジオ 黒木香 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【40位】 漫画として現れるであろうあらゆる恋のためのプロレゴメナ / 窓ハルカチンコグロ漫画を描く漫画家志望女子とアニメと下ネタを好む男子。アヴァンギャルドな話運びで変り者2人の純愛恋模様を描いた作品。
ヒロインの顔を右半分だけ使用し、空いたエリアにタイトル、そしてオシャレアイテムとして抽象化したタマと棒。デザイン本で紹介させそうなデザインと言うべきか、実際MdNの川谷さん特集内で見開き2ページを使って紹介されており、「グラフィカルにオブジェクトを構成する」「80年代の少女漫画的なあしらい」など必然的な真面目一辺倒の記事にシュールさを感じながら、デザインの意図がわかる丁寧な解説を堪能できた(
月刊MdN 2017年12月号、再度おすすめ)。
出版:リイド社装丁:川谷デザイン [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【41位】 勘定吟味役異聞 1・2巻 / かどたひろし,上田秀人若き剣豪が狼藉者と不正な会計処理を切り裂く、時代小説のコミカライズ作品。グレー背景かつ侍の袴も同系の色でまとめ、一部を赤にしてアクセントを加えている。鞘から伸びた紐(下緒と呼ぶらしい)がイラストに動きを与え、赤色の面積を広げている。同ジャンル作品の中でもすっきりしていて、かつイラストの力強さを引き立てているデザインが気に入った。
出版:リイド社装丁:crazy force 竹内亮輔 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【42位】 あしあと探偵 全2巻 / 園田ゆり「人探し」にスポットをあてた探偵ドラマ作品。奥行きを持った地面をメインにした独特の構図、地面を黄色、足跡を水色という独特の色選びで鮮やかに足跡を浮かび上がらせた1巻、青空をメインに一気に解放感を出し、黄色、水色のバランスも反転している2巻。完結2巻作品をまとめる風変わりな対のデザインアプローチを楽しめた。
出版:講談社装丁:VOLARE 関善之,村田慧太朗 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【43位】 片恋グルメ日記 1巻 / アキヤマ 香出版社の漫画編集部員が、憧れのダンディ営業部員との妄想にふけるため、彼の食べたものを調べて食す"食事ストーキング"にチャレンジしていく、変態リアクション系のグルメ作品。
主人公の眼鏡に写り込む、大盛の牛丼を食べる彼の姿。正面を向いた人物の眼鏡や瞳にその人物が見ている対象を写り込ませる表紙は近年たびたび目にする機会あり。中でもこちらは見ている人物だけディフォルメで描いて、眼鏡を大きくして、写り込みの面積を広げているのが特徴。1アイディアを強調するアイディアが光っていた1冊。
出版:双葉社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【44位】 眼鏡橋華子の見立て 1巻 / 松本救助銀座にある眼鏡専門店で、客に最もふさわしい眼鏡を選んでいく店主・眼鏡橋華子の眼鏡愛を若き雑誌記者雑誌記者の視点で描く、眼鏡うんちくドラマ作品。
柄の派手な和服を着た眼鏡美人が眼鏡を差し出すイラスト。白抜きの文字は縦横が揃えられて、ちょうど手前の眼鏡と同じくらいの距離感で綺麗に浮きでている。巻数マークは多分、視力検査風。ちなみに、今回の記事では意識したわけでもなく眼鏡キャラが単独で表紙を飾っているものが9作品入っていた(前回は4作品)。
出版:講談社装丁:chichols 山田知子 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【45位】 不滅のあなたへ 1巻 / 大今良時朝焼けに染められた氷の大地を踏みしめる少年とオオカミ。切り絵作家・大橋忍さんの切り絵により制作されたタイトルロゴは、当然1色で構成され、中身をくり貫くことで装飾が与えられている。ロゴが切り絵という情報があると、パーツを繋ぐ線の意味もわかり、なるほど1枚の紙を切り抜いて成立させることができていると納得。大きさも存在感もある割りに重さがなく重ねやすい切り絵と、イラストとのコラボレーションに新鮮味を感じた表紙。
出版:講談社装丁:hive 久持正士 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【46位】 1518! 4巻 / 相田 裕高校の生徒会を舞台にした、挫折と再生の青春群像劇。
5巻まで発売されている現在、タイトルロゴの形と大きさ、文字周りのデザインは固定で、イラストは複数カットの組み合わせや一枚絵と毎回アプローチを変えている。そして、季節が初夏に移り、生徒達が夏服に衣替えしましたよと白背景が登場したのがこちら4巻。フリガナをアクセントにした数字と記号だけのタイトルロゴのデザインが面白いことを再確認できた。あとは『GUNSLINGER GIRL』初期の白タイプの表紙でジャケ買いしたことを思い出した。
出版:小学館装丁:川谷デザイン [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【47位】 3月のライオン 13巻 / 羽海野チカアニメのエンディングで下から上へじりじと昇ってきそうな構図の、強キャラ達感の出た棋士大集合の表紙。男性キャラを複数出すのは何気に13巻が初。そしてここしばらく乙女チックな表紙が続いていたので、将棋っぽい表紙は約5年ぶり。最近、若き才能が脚光を浴びることのリアリティは現実世界で担保されてしまったので時流的にタイミングがいいとも言える。にしても、現実の事件が今の、そしてこれから生まれる将棋漫画にすごい影響を与えてしまうのではないだろうかとドキドキしている(装丁外の話)。
出版:白泉社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【48位】 私と彼女のお泊まり映画 1巻 / 安田剛助百合漫画、食漫画、魔法少女漫画、ゾンビ漫画が新規性を獲得すべく、合体ジャンルを求めてうごめく気配を感じている今日この頃。こちらは映画が百合に吸収された。
映画紹介は1話毎に設けられたレビュー記事に任せ、本編では部屋で映画を見る2人の交流に重きを置いたこちら。表紙に特定の作品を連想させる要素(例:22位)は盛り込まず、「2人で部屋で映画を見る」シチュエーションをだけを伝えるイラストを起用。タイトルロゴは、連載元くらげバンチで見れる映画用カメラの入ったものとこちらの単行本のものを別物にしていることも合わせて、表紙では百合層に狙いを定めているように感じた。
出版:新潮社装丁:アーテン 井川直子,内田祐乃 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【49位】 はなまる魔法教室 1巻 / 井上 知之魔法使いを育成すべく押しかけてきた魔女先生のクラスで巻き起こる不思議な騒動と生徒達の成長を描いた学園ファンタジー作品。
夜の景色と共に箱庭的に描かれた教室の中で魔法の練習に励む生徒たち。空、というか上のレイヤーには大きなカラスのくちばしに腰掛けた魔女先生は、主線を紫に染めて存在を際立たせている。タイトル枠の中には方眼紙状の模様あり。
アプリ(マンガワン)のサムネイルが目に入った時点では気にならず、この表紙に惹かれて初めて読み始めることになった、そんなわけで大変感謝している表紙(続いて欲しかった)。
出版:小学館装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【50位】 まどからマドカちゃん 1・2巻 / 福田泰宏ある時はすし屋、ある時はバーテン。お茶会、お花見、釣堀を開いたりもする4次元部屋の住人・マドカちゃんが窓からおもてなしする、窓際コミュニケーションコメディ。窓から見える部分だけ描いて無地の部分が壁の役割を果たす白系デザインの表紙。イラストは見下ろし視点で、見ていると自然と部屋を覗き込んでいるような感覚になる。ロゴの中にも「窓」入り。
出版:講談社装丁:大日本タイポ組合 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【51位】 サーカスの娘オルガ 1巻 / 山本ルンルン旅のサーカス一座に引き取られた少女・オルガ(←強キャラ)の奮闘、そして大富豪の息子へ芽生えた恋心。20世紀ロシアを舞台にした歴史恋愛ロマン。
1輪のバラを背中に隠した少年と、傘を差し出すサーカスの少女。舞台幕を枠のように配置して演劇チックにまとめた表紙で、背景にはサーカスのテントやロシア建築が小道具のように描き込まれている。文字には一部ロシア語を使用。色使いは全体的に暗めながら演劇的な華やかさを感じさせ、1枚の表紙に作品の雰囲気がよく現れている。山本先生のファンシーな絵柄にハルタコミックスの作りこみがマッチしていて、本全体の雰囲気も良かった。
出版:KADOKAWA装丁:ベイブリッジ・スタジオ 黒木香 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【52位】 芋虫少女とコミュ障男子 / 三三「こんな私なら恋人にしてくれる?」 振った完璧な幼馴染みは大きな芋虫になって帰ってきた。人外系青春作品。
ほっそりとしたラインのタイトルを左右に分けて配置し、中心には、椅子に座る主人公と芋虫少女を椅子の裏側から後姿を見る視点で描かれたイラスト。一歩、二歩引いた目線、芋虫のフォルムを際立たせる白背景、芋虫の中に少女らしさ、人間らしさを見出させる椅子や鞄と絡めた構成など、芋虫ヒロインという個性の強いアイテムの調理の仕方に感心した。中扉はカラーで、ヒロインを人間姿に置き換えたイラストを使用している(
▲)。
出版:KADOKAWA装丁:- ▲中扉 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【53位】 タイニードライブ 1巻 / 大石 まさるしっかりものの妹、エキセントリックな姉。再婚で突然姉妹になった2人が激しい白日夢のような日々を謳歌する、SF?日常?4コマ?漫画。
イラストの状況だけ説明すれば田舎の屋根付き停留所に置かれた自販機で姉妹がジュースを買う1シーン、という普通の説明になるが、宙に浮かぶ謎キャラ、油絵タッチのうごめくような空など「奇妙」を感じさせる要素あり。そこに、認識可能なレベルぎりぎりまで崩された英字タイトルロゴが絡まり目だっている、さらさらしたカバーの質感も手伝って形成された牧歌的な雰囲気の中に程よく異質が同居いるところが好み。中身は多分、好き勝手スイッチが入った時の大石作品(好み)。
出版:少年画報社装丁:川谷デザイン [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【54位】 百年のワルキューレ 1巻 / 三月薫強大な力をただ一人の男に授ける剣乙女(ワルキューレ)を巡る戦乱を描いたファンタジー作品。
最近目にする機会が増えた印象がある、正面を向いた2人の人物を左右に顔半分ずつ収めた構図(目が片側だけ入る)。その中で、こちらは肩の部分を重ねて表紙に入るイラストの密度を上げているのが特徴的。イラストは白目の部分などを含め全体的にオレンジがかっており、イラストに重なった大きなタイトルの白さが際立ち、綺麗に浮き出ている。肩の部分だけ見える衣装、タイトル間の装飾など、やや間接的に伝えられるファンタジー感に惹かれた。
出版:講談社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【55位】 楽園の羊は泣きかたを知らない
1巻 / 奈々巻かなこ16歳までしか生きられぬ、触れてはならぬ禁忌の少年たち。宗教に支配された島国を舞台に描かれる、アジアンファンタジー。
ウロコ状の刺青をまとい、煌びやかな金の飾りを頭に付けた少年。作者名、英字情報、巻数、タイトルにはイラストと合わせて右に傾き、巻数を中心として1つのアイテムのようになまとまりがある。「目力とエロい果物でいこう!」という担当さんのインプットがあり、アウトプットがこちら、ザクロ(っぽい果物)潰し。
出版:講談社装丁:arcoinc 永井さやか [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【56位】 双亡亭壊すべし 6巻 / 藤田和日郎前半のクライマックス巻。
枠+背景、大きなタイトルロゴ、詩と、
デザインを通巻で決めたルールに合わせながら、
この巻のみ生存キャラをぐっと押し込めた集合イラストを用いることで
クライマックス感を演出している
(7巻以降は再び通常の、キャラ1人表紙で進行している)。
出版:小学館装丁:ベイブリッジ・スタジオ 黒木香 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【57位】 春と盆暗 / 熊倉 献4編の恋愛譚を収録した短編集。
[好きな子ができた。同じ職場の女の子。それも誰もが認める「いい人」キャラ。しかし僕は、彼女のとんでもない“頭の中”を知ってしまう]、これはamazonに載っていた収録作『月面と眼窩』のあらすじ。カバーイラストはそのエピソードをモチーフにしている。月面に突き刺さった大量の道路標識、その1本を掴む一人の女性。黄色い空、水色の地面。風変わりな心象風景が広がっている。表題作にファンタジーな要素はなく、読み進めていくと何を表紙にしたのか、そのなるほど感が与えられる。
出版:講談社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【58位】 爆音列島 1巻 / 髙橋 ツトム1980年代。不良達の青春群像劇。元『アフタヌーン』掲載の完結作品で、現在『ヤングキング』でリバイバル連載中。
背景は黒一色、イラストは闇に溶け込ませるようにグレーの着色。文字も1色で1巻は黄色。タイトルロゴのデザインは旧版のものを踏襲しているが、小さくなり、着色、装飾、全てシンプルになって静かになったが、そのギラつきは変わっていない。
単行本は愛蔵版的位置づけになるのか、通常の2冊分程度の厚さあり。背表紙には4文字のタイトルをどでかく大胆に配置していた。
出版:少年画報社装丁:LOGGIA 川瀬豊 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【59位】 地球のおわりは恋のはじまり 4巻 / タアモかわいい双子の妹と比較され「じゃない方」扱いを受けてきた主人公に高校入学早々、謎のイケメン里見蒼が急接近。ネガ少女と×押せ押せイケメン学園ラブコメ。
名和田さんが手がける白背景タイプの表紙という点は前作『たいようのいえ』と共通。本作では4行に分割されたタイトルの位置と星型の巻数マークの位置は通巻で完全に固定。巻毎の個性は主にイラスト配置にクセを持たせることでを作りあげていて、4巻では、1人がもう1人の背中を見つめるイラストが傾きを持って左上に配置され、右下に広い空きスペースがある状態が新鮮で目を引かれた。
出版:講談社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【60位】 たとえとどかぬ糸だとしても 1巻 / tMnR兄が結婚したその時、義理の姉への恋心を自覚した少女。3人暮らしの中で強まる想いへの葛藤を描いた百合作品。
夕日が差し込む部屋で1人座り込む少女。その表情は笑顔のまま、髪に隠れた瞳からは一筋の涙が落ちる。タイトルは1文字1文字を小さく、スペースに余裕を持って等間隔に配置され、同じく白抜きで「糸」を散らしている。イラストは裏表紙まで続いており、広げてみるとより切なくなる印象を受けた。また、背表紙部分にちょうど窓枠が入り、白抜きのタイトルを見やすくする枠として機能しており、どこまで狙ってこうなっているのか気になった。
カラーページの恩恵を受けた目次ページがシンプルかつ美しい(
▲)。
出版:一迅社装丁:川谷デザイン [] ▲目次 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【61位】 斑丸ケイオス 1・2巻 / 大野ツトム人々が森で神と共存する時代、神殺しから始まる大和ファンタジーサバイバルバトル。斑丸の読みは「ぶちまる」。
タイトル、巻数等の各種文字は通巻で固定。背景は黒。タイトルは1巻が赤、2巻が紫。その他文字部分は白。色味を抑えたキャライラストを引き立たせ、見づらくない程度に暗がりのかっこよさを演出できていると思えた。
出版:白泉社装丁:NARTI;S 浜崎正隆 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【62位】 とんがり帽子のアトリエ 1・2巻 / 白浜 鴎描いて魔法を発現させる魔法の世界を描いたファンタジー作品。一風変わった菱形枠を使った表紙で、タイトル枠はもちろん菱形。四隅に三角の枠を設け、イラストエリアをはみ出した菱形のように見せ、枠外は装飾で埋めている。枠や文字、装飾など一部分には金色が使われ鈍く光る。数巻まとめてみるとフォーマットの個性がよくわかる。
出版:講談社装丁:SAVA DESIGN [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【63位】 親愛なるA嬢への
ミステリー 1・2巻 / モリエサトシ断筆中の小説家探偵が、本好き少女と共に身に降りかかった事件を解決していくミステリー作品。
枠+イラスト型。1巻は紫+赤紫、2巻は青+オレンジと、イラストの特定箇所(主に背景)とタイトル「A嬢」部分を2色のグラデーションで塗り分け、その他黒部分を薄くする、個性的な色分け方法が美しさを生んでいる。
出版:講談社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【64位】 ひとりぼっちの○○生活 3巻 / カツヲ卒業までにクラス全員と友達にならないと幼馴染みと絶交!?超絶人見知り少女の友達作り奮闘コメディ。
中身は1ページを4コマ×2に分割していて、だいたい4コマ目にふわっとオチが付く広義の4コマ作品であり、表紙には4コマ漫画をアイテムとして使用している。縦長になる4コマエリアとその他のイラストエリアを分断せず、デッドスペースになりがちな4コマの隙間などを最大限に利用することで、4コマ漫画と大きなキャライラストを共存させているのが特徴。
出版:KADOKAWA装丁:沢田雅子 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【65位】 新・血潜り林檎と金魚鉢男 2巻 / 阿部洋一1巻を紹介したのいつだったかと遡ってみると2011年の記事。『電撃コミック ジャパン』から『コミック アース・スター』に移り、3冊の新装版に続き2巻が加えられ堂々たる完結を向かえた本作。気が付けば、阿部先生の作品は本企画でだいたい並べており、今回は水中を金魚と、金魚すくいと共に沈んでいく表紙を今年の"水どぼーん"枠として紹介することにした。
おそらく次に単行本化されるであろう『それはただの先輩のチンコ』(通称:それたち)も凝った装丁になりそうというか、太田出版さん、よろしくお願い致します。
出版:泰文堂装丁:枡田祐起 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【66位】 おたく漫画家が
みんなとご飯食べるよ! / 袴田めら袴田めら先生ご自身の食エピソードが語られる、漫画家生活エッセイ寄りの食マンガ。
横長のワイドなコマ割りで4コマ漫画を展開して、作品のノリを視覚的に説明している。4コマ目の料理部分以外はパーツごとにベタで色を塗り分けており、ベースの黄色が鮮やか。こちらは4コマ作品ではなく、上の作品のように中身チラ見せの意図を持たせず、視覚効果として4コマを利用しているのがポイント。
出版:芳文社装丁:Double Trigger 田中秀幸 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【67位】 熱海の宇宙人 / 原百合子SF成分多めの短編集。
表題作は、熱海にて不時着した宇宙船から現れた宇宙人と小説家との一期一会を描いたもの。快晴の熱海を背にした、人間の形を保った宇宙人のイラスト。癖のある欧文フォントを添えた白抜きのタイトルロゴには黒い輪郭によって重みが与えられ、ロゴと絡まった人物部分を浮かせて引き立てている。カバー下や袖にもタイトルロゴが部分的に使われていて結構な存在感があり、ロゴの装飾アイテム的な存在感に気付いた。
出版:KADOKAWA装丁:川名潤 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【68位】 バケガミ―化神― 1巻 /
藤異 秀明, 岸本 みゆきヤマトタケルの魂を宿す伝説の神剣「クサナギの剣」を手に入れた少年が襲いくる怪物やバケガミたちと激闘を繰り広げる、異能バトル作品。『読売KODOMO新聞』発で、レーベルは『てんとう虫コミックススペシャル』となっている。
勇ましい表情をうかべ、クサナギの剣を構えるハチマキがトレードマークの少年。漢字、英字を挟み込んで1つにまとめた4文字のタイトルロゴは少年の体に乗せられ、ロゴの一部分には剣が重なることで、豪華なフォルムの剣の存在が際立っている。赤い背景には印章やかすれた装飾枠が敷かれ、トータルで古代とファンタジーが交じり合ったデザインに仕上がっている。
出版:小学館装丁:arcoinc [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【69位】 BLUE GIANT SUPREME 2・3巻 / 石塚真一舞台を海外に移し、「SUPREME」(最上位の、最高位の)として新たに1巻から再スタートさせたこちら。巻ごとにデザインを変えてく無印版のスタイルは踏襲されたので、今回は触れ幅の大きい2巻(遠景イラスト使用)と3巻(キャラの右半身を文字情報で構成)を並べてみた。
出版:小学館装丁:ベイブリッジ・スタジオ 新井隼也 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【70位】 非合法アンダーランド / 西塚 em 少女が足を踏み入れたのは、大きすぎる生物がうごめく、生物研究園。漫画とイラストで一つの物語を形作ったオールカラーのコミック&イラスト集。
脳みそに腰掛ける少女と巨大な芋虫。品の良いラベルのようなタイトル枠。イラストは動脈、静脈をイメージさせる赤青のチューブによる曲線的な枠で囲まれ、枠外には薄くパターンが敷かれている。色々描き込まれているが、やはり目に入ってくるが芋虫、キアゲハの幼虫。作中で山ほど登場する芋虫イラストにも言えるが、図鑑で見ると鳥肌が立つ造型の虫たちが見慣れるというか、リアルに描かれていてもおそらく写真よりはディフォルメされているからか、美しく見えてきて、なんだか新しい趣向を開拓させられた気分になった。
出版:実業之日本社装丁:NARTI;S [] ▲カバー下 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【71位】 人形の国 1巻 / 弐瓶 勉『BLAME!』『シドニアの騎士』作者新作。奇病のよって人形と化した人類が徘徊する極寒の地を舞台にした、設定・用語満載のくダーク・アドベンチャー・ファンタジー。主人公は「正規人形」と呼ばれる存在に生まれ変わり、作中で「パーツの細かいアダルトな仮面ライダー」のような姿に変形する。そして表紙で赤く染まっているのは強力な射出能力を持ったその変形後の腕。白背景に黒タイトルに、白の防寒服を着込んだ人物と、全体的には色味を抑えつつ、巻数、片腕、そして片方の瞳にピンポイントの赤色。まず作中の描写が世界設定に合わせてとても白くなっているので、この白基調のカバーは必然的にそうなったとも言えるかもしれない。
出版:講談社装丁:ASOBISYSTEM 2BOY [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【72位】 常盤さんと井上くんの妄信 1巻 / 杜若わか両片思いをテーマにした、アンジャッシュコント的な勘違いループ4コマ作品。背中合わせの男女を基準に背景を薄いグリーンとピンクに色分け。男子にはハトの入った吹き出し女子には魚の入った吹き出しを付けていて、これは「常盤さんはハトが好き」「井上くんは魚が好き」という双方の勘違いをイラスト化したもの。背景部分にも妄信を表すような吹き出しが散らばっているが、これらは部分的なPP加工により色味を変えてできたものであり、ぷっくりと浮き出て程よく表紙を賑やかしている。PP加工は文字部分にもあてられて立体感あり。こういった作品を手に取ると、単行本は3次元であることを改めて実感させられる。
出版:KADOKAWA装丁:- □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【73位】 魔王の秘書 1巻 / 鴨鍋かもつさらってきた秘書の働きぶりが人類の平和と魔物達の平穏を脅かす、魔王軍の内側系コメディ。
敏腕秘書のバストアップイラスト+枠+吹き出し。枠と文字周りの色使いを黒と黄色に統一。吹き出しの中も黄色で満たして、作品の内容を一言で理解させる台詞を強く強調している。
魔王と秘書をドットに起こし、ファミコンチックに仕上げた目次ページ(
▲)や(デザイン的にも)手の込んだカバー下など、要所の作りこみも目立った1冊。
出版:泰文堂装丁:コメワークス 高橋忠彦 [] ▲目次 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【74位】 ヒャッケンマワリ / 竹田昼明治22年生まれの作家、随筆家である内田百間をめぐる文芸エッセイ作品。
カバーにはさらさらした、わら色の紙を使用。中心に黒色のタイトル枠を置き、周りに内田百間の人物絵、そして鉄道、船、プロペラ機、ビールにお膳、ゲラなどエピソードにちなんだ大小様々なアイテムを箔押しで並べている。ムラのあるわら色の地の上で箔によって浮き出たアイテムは銀色でありながらフリーハンド的な荒さがあって柔らかい印象あり。タイトル枠に入った「楽園コミックス」の文字はおそらく必須でないし、和のテイストでまとめた表紙の下に入った英字についても「printed in Japan」が字数を増やしていて、こういうところがバランスなのだろうと思った。
出版:白泉社装丁:simazima 平谷美佐子 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【75位】 おとなとこども、あなたとわたし。 1・2巻 / 糸なつみ 3組の"歳の差"から生まれたオムニバスストーリーを追っていく全3巻の作品。主要人物、情報、本編モノローグなどを配置し、オシャレな構成で内容をイメージさせる、趣向を凝らした漫画のコマ風表紙。本編の最後にはエピソード毎の次回予告漫画が入る構成とデザインが作品を盛り上げていた。
出版:KADOKAWA装丁:コードデザインスタジオ [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【76位】 スタンドバイミー・ラブレター / 増田 里穂「ごめんなさい」から始まる恋模様を描いた1冊完結の青春作品。
上部にタイトル配置用の白い帯エリア、残りがイラストエリアという構成は近年よく見かける印象があるが、鮮やかすぎす絶景すぎず程よく爽やかな海辺のイラストに粗く角ついたロゴが合わさったこちらはトータルで見るとレトロな品の良さを出し、懐かしさを感じさせるように思った。
出版:集英社装丁:川谷デザイン [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【77位】 血の轍 1巻 / 押見 修造これを「毒親」とカテゴライズすべきか、猛毒と言える異常性を持った母を持つ少年が、日々の平穏を失ってく物語。
幼子を抱きかかえた母親。写実的なタッチと塗りで古い写真のような雰囲気の出したイラスト(カバーを広げると写真であることがわかる)、それ単体は平穏そのもの。そこに意味深なタイトルと作者名が赤字で載せられることで、約束された不幸感がまとわり付く。装丁は押見先生とのタッグにお馴染み感の出てきたhiveさん。13位『累』のタイトルロゴと合わせて観察してみると、その不吉デザインアプローチの方法が見えてくる。
出版:小学館装丁:hive [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【78位】 ストレンジ・ファニー・ラブ / チョーヒカルほんの少しだけ現実とズレた世界で、その世界の不思議と交わる恋のはなしを描いたオムニバスSF恋愛作品。
正面を真っ直ぐ見据える女性、その顔の一部はひび割れ、空いた穴から宇宙が顔を覗かせている。背景は鈍く光る銀色。顔の右下には作者名と共に読む用のタイトルを入れつつ、イラストには顔の部分を避けながら直線的でくせのあるタイトルロゴを大きく重ねて視覚に訴える。
ちなみにグロテスクささえ感じる装画に対して作中のタッチは軽く、基本的に収録されているエピソードはどれも明るい。
出版:祥伝社装丁:円と球 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【79位】 ここは今から倫理です。 1巻 / 雨瀬シオリ倫理教師が生徒たちの抱える問題と独自のスタンスで向かい合う、現代の教師物語。
倫理の教科書を手に、教卓に立つ1人の教師。イラストは表紙から裏表紙まで配置され、そこを黒枠が囲んでいるため、表紙単体で見たときに右が抜けた枠になっている。右側に寄せた人物に対し、不思議な語感が印象的な口語調のタイトルは、大きく左側に配置。タイトルロゴというか、このかしこまった文字列は、強い意志を秘めた教師の台詞のように感じられた。
出版:集英社装丁:VOLARE 関善之 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【80位】 カラスのいとし京都めし 1巻 / 魚田 南食通の長生きガラスが人の姿を得て京都めしとバイトに精を出す、京都上手い店めぐり系のグルメ作品。
地べたで竹かごの弁当箱を抱え込んで、いなり寿司と巻き寿司をほお張るカラスの青年。ラフな主線やざっくりした色あてに味わいがあるイラストにあわせるように、背景の枠線は部分的にかすれ、各種文字用の枠線も定規を使ってペンで書かれたように幅にムラがある。手描きで整えたような文字も合わさって、アナログの味わいを感じられる表紙にまとまっている。
余白を大きく取ってシンプルにまとめた飲食店情報のページも見所(
▲)。
出版:祥伝社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] ▲飲食店情報ページ □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【81位】 INGRESS:TOKYO ANOMALY 全2巻 /
木村 太熊, Niantic,Inc.スマホ向けオンライン位置情報ゲーム『Ingress』の公式コミック。1巻の緑、2巻の青はゲーム内陣営のカラーに由来。白抜きのタイトルとは別に、暗くしたイラストの一部エリアを明るくしてキャラと背景色を見せる、そのエリアもタイトルロゴを形成している。
出版:KADOKAWA装丁:朔田フトシ [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【82位】 私の百合はお仕事
です! 1・2巻 / 未幡お嬢様学校の生徒を演じるコンセプトカフェを舞台に、虚構と現実、二つの百合を折り重ねたキマシタワ作品。ウロコの目立つ上品な文字を菱形の入った縦線と上下の飾りでまとめたタイトルがクラシカルでイラストをとてもよく引き立てていると思った表紙。そして4行固定のデザインと思い込んでいたため、2巻で違和感なく2行に変形していて驚いた。
出版:一迅社装丁:I.S.W DESIGNING 柊椋 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【83位】 すこしふしぎな小松さん / 大井昌和SF小説をこよなく愛するすこしふしぎ系女子・小松さんを観察しながら、そのディープな世界を垣間見る、読書コメディ。ど根性ガエルの娘の旦那さんの作品。
実写で書店のSF小説コーナーを背景にして、キャライラスト、タイトル・作者名用の枠を兼ねた、丸みを帯びたピンク色の星を散りばめている。タイトルの文字も角が丸みを帯びているものを使用し、一部を星に加工している。ヒロインはふわっと浮くように描かれており、その浮遊感が実写背景との組み合わせで際立って、「ふしぎさ」が強調されている。ロケーションは三省堂書店(神保町本店)、撮影は中庭愉生さん。
出版:白泉社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【84位】 映画大好きポンポさん
/ 杉谷庄吾【人間プラモ】若き敏腕映画プロデューサー・ポンポさん、そして彼女に集う才能たちが1本の映画を作り上げる道のりを描いた作品。
光が差し込む機材置き場で、カチンコ(映画の撮影にカチンと鳴らすアレ)を携え折りたたみ椅子に優雅に座るポンポさん。緻密な背景描写、安定した構図、3行構成がかみ合い見やすく目立つタイトル。本編で活躍する、その小さい人物の貫禄が上手く出ていると感じた表紙。中では、登場人物の好きな映画3本を紹介するコラムが充実、そして好きな映画3本を添えたスタッフロール風スタッフ紹介ページを締めに持ってくる構成と作者の『アイカツ!』3点推しが見所。
出版:KADOKAWA装丁:有馬トモユキ [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【85位】 こうふく画報 / 長田佳奈大正時代の日本。当時の人々の幸せな日々の暮らしぶりをやんわりと食に絡めて描いたオムニバス形式の作品。
表紙を飾るのは、和菓子屋主人の世話を焼くお手伝いさん。気の台の上に鋳物コンロと、今ではない台所の景色を収めたイラストを飾り枠で囲み、丸みを帯びた枠にはタイトルなどを収めてラベルのようにまとめている。イラスト、装飾エリアなど全対的に薄い茶色、薄い緑でまとまったその色合いが、温かみのある過去のイメージを伝えている。
出版:ぶんか社装丁:井上則人デザイン事務所 安藤公美 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【86位】 ランウェイで笑って
1・2巻 / 猪ノ谷 言葉「パリ・コレ」モデルを目指す158cm少女と、ファッションデザイナーになりたい貧乏少年。夢を追って走る二人の物語。
切り取り線のように、糸のように、点線を活用した表紙。背景色薄めで人物重視のイラストを枠に収めつつ、周囲にはモノクロでファッションを連想させるアイテムを散りばめている。華やかさの中に落ち着きを感じた表紙。
出版:講談社装丁:hive [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【87位】 もしもし、てるみです。 1巻 / 水沢 悦子通話機能だけを持った電話を扱う会社"もしもし堂"、そこで働くネット嫌いのてるみさん。週刊ビッグコミックスピリッツの巻末掲載の2ページショートショートをまとめたフルカラー単行本。
過去の遺物となった黒電話を抱えて電話をしているてるみさん。イラストを引き立て、文字配置エリアも兼ねる帯は、上側はピンク地に白文字、下側は白地にピンク文字と対照的。やわらかなフォルムの文字が横書きで上下に振られたタイトルロゴからは、句読点の付いた口語調のタイトルの電話越しの雰囲気が視覚的に伝わってくる。
出版:小学館装丁:川名潤 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【88位】 血と灰の女王 2巻 / バコハジメ噴火した富士山の灰を浴びてヴァンパイア化した者たちが、世界を支配する王の座を賭けて夜な夜な殺し合いを繰り広げるバトル作品。
ヴァンパイアへの変身の途中の主人公イラストを用いた2巻表紙。正義感溢れる本作の主人公は、仲間中一番人間を喰いそうな面構えの異形に変身し、その姿に見慣れるまで多少の時間を必要とする(※個人の感想です)。その点を人間の顔を半分残して上手く解決したと感じたのがこちら。ちなみにこの作品は一時期打ち切りのSOSを発していて、毎週火曜日の楽しみ消滅の危機に声を上げるべく紹介を決めたが、更新が遅れに遅れて今現在、敵幹部が1話で全滅する心配がなくなるくらい人気が出て、主人公のフォームも変わった。
出版:小学館装丁:RedRooster 下山隆,長谷川佳代 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【89位】 おくることば 1巻 / 町田とし子何故俺を殺したのか。幼なじみの手によって「事故死」させられた男子高校生の視点から事件の真実を見せていく青春ミステリー。
暮れなずむ町で夕日に照れた少女、その瞳に映るのは少年の後姿。ひらがなで構成されたタイトルは引きちぎられそうな形で歪んでおり、少女の笑顔、そしてタイトルの意味に含みを持たせている。ミステリアスな雰囲気をまとったドアップ系の表紙。
出版:講談社装丁:SPICE 柳川価津夫,大野祐介 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【90位】 月曜から金曜の男子高校生 1・2巻 / 森つぶみ至って普通な4人組の高校生活をコミカルに描いた日常作品。仲良し4人組が楽しげに集まる様子を淡い色彩で描いたイラスト。物体的な区切りでスムーズに形成した白エリアが際立たせる4行のタイトルは、明朝体をベースにしつつ、個々のパーツがイラストに置き換わっておりコミカル。遊び紙を使った扉ページの奥行き演出も紙で見て欲しいところ。
出版:日販アイ・ピー・エス装丁:coil 世古口敦志 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【91位】 甘々と稲妻
8・9巻 / 雨隠ギドクリーム色の背景に父と子を収める定期観測作品。既刊の表紙は大体伸長差が強調される引きの絵タイプ、子を大きく描いて親がはみ出る高密度タイプに分けられ、8巻後者。9巻では新たに遠近法を用いて二人の全身を納めるというタイプが登場。変化の付け方に毎回感心する。
出版:講談社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【92位】 カメントツの漫画
ならず道 全2巻 / カメントツ大物漫画家インタビュー、印刷所や製本所への取材、自信が受けたストーカー被害の紅白、等など。漫画界のあれやこれやに挑んだ漫画ルポ漫画。
2巻共に主線を含む4色構成。コミカルかつくせのある作者キャラと独特な色選び、うねった背景模様が合わさって味と圧が出ている。
出版:小学館装丁:AYOND 佐々木俊 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【93位】 四天王-1 / 咲竹 ちひろ「我々四天王、その中でも奴は最強だった…。」 残された四天王3人の奮闘を描いた、魔王軍の内側系コメディ作品。
コミカルなファンタジー世界のキャラ達がワチャワチャとしてテンションの高さを感じられた表紙で、どこに惹かれたかというと多分、胸の大きい顔穴少女のインパクトが8割。遺影も表紙アイテムとして優秀かもしれない(大体、本人が本人の遺影を持っているパターンが多い)。
出版:KADOKAWA装丁:NARTI;S 新上ヒロシ,久保夏生 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【94位】 高倉くんには難しい
1巻 / 一條マサヒデ,サブリック登校、着席、食事、部活、テスト、トイレ…。日常あらゆる事象から「どうしてこうなった」を発生させる・高倉健(たかくらたける)の殺人的な不器用を描いたギャグコメディ。
表紙イラストは、不器用なため教室をチョークまみれにしてしまった自己紹介シーンをモチーフに描かれており、タイトルロゴはチョークで塗ったような色むらをつけてシーンに合わせている。巻数には禁止をイメージさせるマークを付けており、こちらのマークを盛り込んだ目次ページも小道具が良く作りこまれていた(
▲)。
出版:秋田書店装丁:NARTI;S [] ▲目次 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【95位】 今日も女の子を攻略した。 1・2巻 / むくイケメン少女が、パーソナルスペースの狭さで無自覚に女の子たちの好意を獲得していく日常系作品。主人公を飾るように、その周囲に縦書き・横書きを駆使して配置されたタイトルが個性的。略の文字にも入ったチェックマークが本全体で活用されていて、没タイトル『イケメン女子は自分がわからない。』だったら別物になっていたと考えると面白い。
出版:KADOKAWA装丁:島田成彬 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【96位】 死にあるき 1巻 / 了子あの子が歩くと人が死ぬ。とある少女の周囲で起きる不審な死の連鎖の謎に迫るサスペンスホラー、よく揃うビンゴ付き。
スカートの裾をつまみ、生足で血だまりを歩く少女。血しぶきを枠にした巻数マーク、透けた骨、「死」の文字を大きく強調したタイトルなど、不吉な要素を詰め込みつつ、白背景の明るい配色でまとめ、暗さを使わない怖い雰囲気作りを行っている。青色の塗り分けで描かれた上半身に対し、血のついた左足だけ肌色があてがわれ、この部分だけが妙に生生しい。中扉(
▲)には、人物の顔まで見える表紙イラストの全体像が掲載されており、「怖い表紙」として、イラストの大きさや角度をどのように調節しているのか考察できて面白い。
出版:小学館装丁:Beeworks 木内さほり [] ▲中扉 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【97位】 俺を好きなのはお前だけかよ
1巻 / 伊島ユウ,ブリキ,駱駝 「鈍感ラブコメ主人公」を装う腹黒な男子高校生を主人公にして、彼の身に降りかかる騒動を描いた学園作品で、同名ライトノベルのコミカライズ。
装丁は原作と同じく伸童舎が担当し、タイトルの「お前」に矢印を付けて、ヒロインを強調した構成を踏襲している。地味(を装った)ヒロインは原作1巻の表紙では一番前に出ていたが、矢印で強調されることを加味すると、後ろにひっこめてサブヒロインに前を譲ったのは良いアレンジと思えた。
出版:集英社装丁:伸童舎 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【98位】 とある新人漫画家に、
本当に起こったコワイ話 / 佐倉色新人作家を襲った信じられない出来事(『桜色フレンズ』騒動)の顛末一部始終を作者自ら赤裸々に描き綴った、マンガ業界暴露エッセイ。
ピンク色の背景で、白抜きの長文タイトルが、Gペンを装備して身構える作者を取り囲み、辺りには原稿が宙を舞っている。雑な縁取りと絶妙な手書きらしさの加減でタイトルそのものはコミカルに見えるが、作者と一緒に敷き詰められることで圧迫感もあり、切実な状況を暗くならずに伝えられている表紙になっていると感じた。
出版:飛鳥新社装丁:G×complex 久藤敦司 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【99位】 マイホームヒーロー / 山川直輝,朝基まさし金銭目当てで娘に近づいた半グレを手にかけた父親が、家族を守るため罪を葬る、その奮闘を描いたクライムサスペンス。
表紙に描かれているのは妻と娘を持つ営業職の平凡な会社員で、作中ではお風呂で人体をバラしはするが、雨に打たれて泣き叫んだりはしていない、そういう意味で主人公に降りかかる過酷な試練のイメージを表紙イラストにしたことになる。小さめの赤字タイトルタイトルと、血しぶきのついた巻数マークが控えめにスリリングさを加え、激動のドラマを予感させる表紙。表紙の雰囲気のわりに描写はコミカルで読みやすかったりもする。
出版:講談社装丁:スラッシュ 福村理恵 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【100位】 ポプテピピック 2巻 / 大川ぶくぶ中指を突きたてたリアルな手の描き込みはそのままに、赤ちゃん衣装を着せて手とキャラのミスマッチ感をアップさせ、よりロックな表紙になった2巻。ベースカラーもピンクと可愛らしく、作品が怨敵と定める"サブカルクソ女"層にも訴求力がありそうなデザインとしてまとまっている。巻頭のカラーページには、『星色ガールドロップ』が収録されている。
放送されたアニメの中ではこちらのタイトルロゴが有効活用されていているのが原作のデザインを尊重しているようで少し嬉しかった。
出版:竹書房装丁:deconeco 小石川ふに [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
ランキング発表(本編)はここまで。
最後に、カバー下や特殊加工など別なところに注目した作品を別枠で20作品紹介していきます(本番)。
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【裏表紙賞】 好奇心は女子高生を殺す 1巻 / 高橋 聖一デコボコJKコンビの頭脳と元気が襲い来る不思議を迎え撃つ、1話完結タイプのすこし(どころではない)ふしぎ作品。
薄いピンクの色を持つ紙に濃いピンクと黒を乗せた、ピンク統一カバー。表紙で、とびきり賑やかなイラストを限定的な色選びでまとめたその効果を考えてみるのも面白そうだが、今回は裏表紙に着目してみた。
そこには何があるかというと3コマ漫画があり、バーコードを含めた書籍情報がある。そして3コマ漫画は横長に大きく枠を取っているため、1コマ目は必然的に書籍情報に陣取られる形になる。しかし、ここでは書籍情報はコマの中に「もの」として扱っており、右から走ってきた主人公がぶつかり2コマ目で盛大に飛散、そして襲ってきたロボットに降り注いでロボットは退散、めでたしめでたし?と書籍情報をアイテムとして組み込んだ漫画を形成している。
バーコードをシール化した講談社作品や、帯にバーコードを付けるなど一部の特殊な作品を除き、そのほとんどに存在するこの裏表紙の邪魔者問題に上手く対応している作品の中でも、こちらは漫画という媒体にぴったりな方法で素敵に迎え撃っている。
カバー袖+奥付。
カバーの袖には4コマや間違い探しと、ここにも整った小ネタあり。また何気なく、間違い探し、裏表紙3コマ、奥付とおまけ部分に連続性を持たせている。
出版:小学館装丁:Wel 吉村英仁 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【カバーレイアウト賞】 いに怪することなく、
獣じつしたひび 2巻 / 野良しごと昨年紹介した1巻は昼+ガメラ。そして完結巻となる2巻は夕方+ゴジラ。力強さだったり、猛々しさだったり、そういった言葉が似合う巨大な存在が、使い方次第でエモーショナルなアイテムになるんだなと感じ、開いたカバーを見てほしくなった。
シン・ゴジラを添えた袖と、作中のコマを抜粋して2コマ漫画っぽく加工したカバー下表裏。連載開始後にタイミングよくシン・ゴジラが上映されたこともあって、シン・ゴジラを観に行くエピソードを最終話に入れえることができ、表紙をゴジラで締める流れにも繋がった。
改めて1巻。裏表紙に描かれた別の教室も昼と夕方で変化が付けられている。
出版:講談社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【中表紙賞】 先生! 休ませてください! 1巻 / 吉辺あくろ保健室おさぼりコメディ4コマ作品。
フレーム構図と呼べばいいのか、ベッドの上で主人公がサボっている様子をカーテンという必然性を持ったアイテムでチラ見せするイラストを採用した表紙。大きく取ったカーテンの無地エリアには口語調に合わせた、くだけたデザインのタイトルと緑十字(安全と衛生の象徴)の巻数マーク。カーテンで情報を抑えつつ、保健室というシチュエーションがはっきり伝わる、これが画像左の表紙説明になる。
そして画像右、こちらがカラーの中扉。ページをめくることでカーテンもめくられ、保健室の全景と共に、漫画にストックや各種おかしが見えて本腰を入れサボリ具合もわかる仕掛けになっている。さらに、表紙と中扉で人物の表情にも変化を加えることにより、時間の流れを作って保健室に入っていくような臨場感も与えている。
目次ページ(画像左)は中表紙の続きとなるサボリ確定カット。裏表紙(画像右)は表紙同様のチラ見せ構図。
出版:KADOKAWA装丁:LIGHTNING □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【特殊装丁賞】 銃座のウルナ 4巻 / 伊図透作中で舞台が豪雪地帯から切り替わった4巻から、カバーのフォーマットも一新。3巻までは黒い帯に挟まれる形で横長に設けられていたイラストエリアが全面に広げられて解放感が生まれた。今回はカバーに半透明の紙を使用しており、主人公や風景などは本体に印刷されている。カバーには文字と共に木葉が配置されている他、カバーには透過度が高い部分があり、これが本体と合わせた時に木陰となる。このようにカバーと本体を合わせて擬似的な奥行きを生んでいる。
イラストは表紙から裏表紙へと続く。
見返し、中扉も青色。
奥付。
目次や奥付、各話タイトルページなど、黒ベタ+白抜きで構成されていたページは
基本的に黒ベタをやめて本全体が明るくなっている。
カバーの路線変更が丁寧に中身にも反映されている、さすがのBEAM力を感じさせる1冊。
出版:KADOKAWA装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【特殊装丁賞】 CL 1 / 菜園モノクローム / 水谷フーカ漫画雑誌「1月と7月」連載中、5億人に1人という確率で黄緑色の髪を持つ少年とその親友の何気ない日常を描いた[Cl」に短編「菜園モノクローム」を併録した1冊。こちも半透明カバーを使用しており、イラストのみ印刷されたグレーの本体に黄緑のタイトル枠が重なって表紙が完成する。
こちらは表紙。背表紙には併録された2タイトルが載っているが、それぞれの表紙は表、裏に分かれている。
そしてここからが本題。
こちらは「Cl」1話の冒頭2ページ。その「黄緑症」の少年の髪は、そして瞳は黄緑色に印刷されている。あとがきより「2色刷りやりたい」という気持で生まれた冊子(同人誌)第1話がきっかけで雑誌連載がはじまり、こうしてところどころに黄緑色が入り込む1冊にまとまった。黄緑色が当てられるのは大半が少年で、LINEの吹き出しや目立たせたい看板などその他の部分が少し。当たり前の説明になるが、白黒のページにおいて黄緑色は少し入っただけでも目立ち、作中でその少年とすれ違った人が振り返り目で追ってしまうその感覚を読者は直感的に共有することになる。2色刷りの表現に可能性を感じさせる1冊だった。
出版:1月と7月装丁:pajama design 多治見武昭,高田麻理 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【特殊装丁賞】 ふたりモノローグ 1巻 / ツナミノ ユウネクラオタクとギャル。10年ぶりの再会を喜び距離を縮めたい2人が、勘違いとすれ違いを重ねて悶え苦しむシチュエーション・コメディ作品。
キャラの思考を覗く作品なので、タイトルにも心の中タイプの吹き出しを組み込んでいる。イラストは目線を合わせた二人横並びでおかしいところは見当たらないが、ここに仕掛けがある。
左のキャラは紅潮とよだれ、右のキャラは縦線と涙目の光沢加工。無色なので光に当たるとこれらが現れる。顔に汗を一つ加えると困り顔になるように漫画記号は非常に便利で、隠された加工が見えるとその表情は大きく変化する、このような遊びにも応用できる。
白地の背景部分、こちらには2人のモノローグがびっしり。一見さっぱり、そして手に取ると情念が渦巻く、そんな落差が楽しいカバーになっている。
出版:講談社装丁:BALCOLONY. 騎馬啓人 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【特装版賞】 宝石の国 7巻 / 市川春子自著の装丁を手がけるし、小説のイラストも描くし、限定版のグッズデザインもするし、ポケモンデザインの原案をまかされる漫画家、というのは前回の紹介文。そして現在、アニメ化の実績解除も加わった市川先生。本企画で名前を出すのも4度目になるが、今回はこちらの作品ではじめて特装版に手を出したのでその付属品の方を紹介してみる。
7巻に付いてきたのは、こちらイラストレーションブック。サイズはコミックと一緒に本棚に収まるB6サイズ。なんですぐに割れてしまうんでお馴染み、砕けて破片を散らす主人公のイラスト。主に断片化して細かく塗り分けられた部分にツルツルした光沢加工がほどこされていている。イラストの一部や主線はゴールド。文字はローマ字を斜体用いて、薄いカラーのイラスト全面にかかるよう大きく配している。漫画が右開きなのに対し、カバーは外せて本の作りは漫画本体と一緒でありつつも、ホログラム加工で安定した本体とは違った宝石らしさの演出を堪能できた。
中には、6巻までの単行本表紙イラスト全景にカバー下イラストやアフタヌーンの表紙イラストなどを収録。「ロゴの位置に顔がきてはいけないという呪いが発生します」という1巻表紙へのコメントが何気に収穫で、どこかで見かけたデザイナーさんの「イラストを毎回○○にしなくてはいけないデザインにしてごめんなさい」的な冗談交じりのコメントを思い出した。結果的に縛りが発生するのは、よくある話なのかもしれない。
▲カバー全景ついでに8巻。とても好き。
出版:講談社装丁:市川春子 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【ホラー賞】 ジンメン 1~5巻 / カトウタカヒロ突如発生した人間の顔を持つ動物「ジンメン」が町を蹂躙する恐怖を描いたサバイバル・ホラー(サンドスターは関係ない)。
スペースを空けて大きく置かれたタイトルの真ん中らへんにジンメンの顔がくる、とにかく顔・顔・顔が主張する表紙。ホラー作品の表紙として特徴的なのが、その明るさ。怖いものと闇は相性が良く、ホラー系の表紙は暗かったり黒かったりするものが必然的に多くなるが、こちらはその真逆。昼夜を問わず活動するジンメン達がひっきりなしに登場するため出し惜しみする必要もなく、1・2巻の青空背景をスタートとして明るい場所で恐怖の対象をはっきり見せている。はっきり見せずに恐怖を煽る表紙の場合、いざ作中に本体が出てきて拍子抜けする可能性も出てくるが、その点ジンメンは表紙でも作中でも十二分に気持ち悪い点もポイントが高い。パワー系ホラーデザイン。
出版:小学館装丁:志村泰央 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【ホラー大賞】 報いは報い、罰は罰 上下巻 / 森泉岳土行方不明となった妹の身を案じて女性が訪れたのは妹の嫁ぎ先となる古い洋館。森に囲まれたその場所で巻き起こる血塗られた惨劇を描いた、ゴシックホラー作品。
イラストと言うべきか模様と言うべきか、カバーには破かれた紙を貼り絵のように重ねたものが全体に広がっており、作中のカットを含みながら、パーツの大部分は黒なので、とにかく暗いモノクロの表紙。タイトルや作者名など白抜きの文字部分は鋭利な刃物で分断されて歪んだようにデザインされている。特筆すべきはその手触り。すべすべしていながら、指を滑らせたときに引っかかりを覚えるようなマットな質感の手触りが、表紙のデザインと相まって、本に不気味な質量を与えている。
上巻、カバー全景。
そしてカバー袖。袖の横幅が広く、見返し部分に大きく重なり、本体を包み込こむカバーの存在感が増している。見て怖い、触ってより怖い、語感で味わえるホラー装丁を堪能した。
出版:KADOKAWA装丁:白い立体 吉田昌平 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【通巻賞】 古見さんは、コミュ症です。 1~6巻 / オダトモヒト極度のコミュ症をわずらった口下手美人の古見さんが、友達の輪を広げていく友達作りコメディ作品。
古見さんがその一歩を踏み出す黒板を使った会話シーンをモチーフとしてタイトルデザインはチョーク絵風になり、イラストは教室からスタート。以降、横書きタイトル真ん中置き固定で、各巻の大きなイベントを中心にエピソードをチョイスして表紙イラストにしている。
最近ライトノベルの表紙を調べていて、男性キャラを入れつつその優先順位を下げる方法として、奥に引っ込める、見切れさせる、ちびキャラ化させるなどいくつかパターンの目星を付けた。そういた観点で見ると、こちらもで主人公の只野くんをそれとわかるように盛り込みながら、後ろ向きにする、見切れさせる(この後第8巻の話)の他、男性をのっぺらぼう化させるなど露骨な方法が意外と違和感がなく、風景込みイラストを用いながら女性キャラ優先タイプの表紙を自然に組み立てているように感じた。
出版:小学館装丁:ベイブリッジ・スタジオ 石沢将人 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【完結賞】 エリア51 / 久正人祝完結。企画での紹介もこれで6回目。
ラストは、単行本の発売日で換算すると2011年6月から
2017年9月までの約6年間、15冊の軌跡を並べてみる。
お疲れ様でした。
出版:新潮社装丁:crazy force 竹内亮輔 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【全2巻賞】 NKJK 2巻 / 吉沢緑時表紙。
そして裏表紙と背表紙。
他所で既にオススメ漫画として紹介しているものの、装丁と絡めて解説を入れようとすると余計なことを言ってしまう気がしないでもないので、吉沢先生が「この表紙で攻めたいというワガママを汲んで下さった担当さんに、改めて感謝しております」とツイートした表紙をただ並べておく。
出版:双葉社装丁:アルティザン 倉地悠介 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【パロディ賞】 うちのクラスの女子がヤバい 3巻 / 衿沢世衣子前回1巻、2巻を名画パロディであると説明をつけて紹介した後、パロディは元ネタと一緒に並べたいと思った。そしてミュシャ展が開かれていたあたりでミュシャパロディ特集を組むため絵画のパブリックドメインについて調べてみると、こちらの該当作品も並べて紹介する分には問題なさそうだということで、1巻、2巻もあわせて手っ取り早く並べてみた(比較のためのトリミングあり)。
3巻:『ラス・メニーナス』(スペイン語で「女官たち」の意)、1656年、ディエゴ・ベラスケス作。
1巻:『民衆を導く自由の女神』 1830年、ウジェーヌ・ドラクロワ作。
2巻:『ヴィーナスの誕生』 1483年頃、サンドロ・ボッティチェッリ作。
こちらの作品は一目で名画のパロディになっていることに気付いたが、以前この企画で紹介した『やみのさんしまい』が洋楽ジャケットのパロディになっていることは紹介後に指摘されてわかり、最近では『ゴールデンカムイ』の作中のコマに唐突に登場した名画パロディも説明を見て理解したりと、案外パロディは気付いていないだけで思っているよりも沢山ひそんでいるのかもしれない。
出版:講談社装丁:BALCOLONY. [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【スピンオフ賞】 金田一少年の事件簿外伝
犯人たちの事件簿 1巻 / 船津紳平 難事件解決の裏に存在する真犯人達の涙ぐましい敗北への道を描いた、『金田一少年の事件簿』スピンオフ作品。金田一少年はかなり好きな漫画に入るが、その好きという資産もこのブログでは中々使う機会がないな~と思っていたところ(
『僕だけがいない街』の推理記事ではちょっとだけ活用できた)、格好の餌がやってきた。
イラストは本家(画像右)を踏襲しつつ、堂々と3事件分の真犯人を加えるという歴史がありすぎる作品だからできる芸当を披露。デザインもできる限り再現し、過去に少年マガジンコミックスの背表紙を飾っていたマスコットキャラ・ピモピモはパロディではなくそのものを使用。2巻の第2刷以降で修正されたため1巻にだけ残されたローマ数字の巻数もトレースしている。
袖の作者コメント、裏表紙のあらすじの入れ方など、カバー全体で見てもそっくりに仕上げている。裏表紙で、怪人のトレードマークや凶器などキーアイテムが置いておどろおどろしさを演出する場所に金田一の顔を置いているのがポイント。
カバー下のテンプレートパターンも再現しつつ、裏表紙側で犯人達にメタな突っ込みさせながら
パロディになっていることをさりげなく説明している。
読者が、担当編集の存在やさとう先生の性別、ふくろう趣味などの情報を得られた楽屋裏漫画のパロディ。主要キャラのコスプレカットが真犯人のコスプレカットになるという、やはり今だからできる芸当。
再現部分としてさりげなく力が入っているのが、巻末のコミックス既刊案内ページ。
ただ1作残った『はじめの一歩』が時の流れの速さを伝える。
出版:講談社装丁:banjo 坂上和也 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【合体賞】 総合タワーリシチ 上下巻 / あらた伊里JK×JK。つぼみwebコミック発で元 まんがタイムKRコミックス。そして少年画報社から完全版として発売され、YKレーベルとなった百合作品。上下巻同時発売であることを活用した合体表紙。タイトルデザインを小さくして可能な限りイラストを見せる顔アップ系の表紙でもあり単巻でも目を引きつつ、並べたときの二人の密着感は、一枚絵で収めたときよりも強い(気がする)。
中扉と背表紙。
YKマークを挟む上下の二本線は黒が多いが、二色分けもしてよいらしい。
(他の作品はどうだったか確認していると『善悪の屑』も二本線を弄っているのを見つけた)
出版:少年画報社装丁:1LDK [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【愛蔵版賞】 少年は荒野をめざす
愛蔵版BOXセット 全3巻 / 吉野 朔実1985年から1987年にかけて少女漫画誌「ぶ〜け」に連載されていた全6巻作品を3巻にまとめた愛蔵版BOXセットで、サイズはA5判。
各巻の表紙。等間隔配置して縦線でまとめたタイトル、色つき巻数。イラストエリアも各種文字も小さめ。各巻の背表紙にはイラストなし。本のサイズが大きいため、イラスト部分の小ささは感じさせないが、それでも余白は広く、普通のコミックの2巻分の厚みもあるため、全体的に白さが際立っている。
天、地、小口も真っ白。ページの端まで印刷があるとそこが黒くなるので、大体の作品はその部分は黒が混じってマダラになる(4コマ作品などは白くなりやすい)が、こちらはページの端に余白を入れることで完璧な白い側面を作り上げている。ここまで徹底しているとそれだけで気持ちが良い。
出版:本の雑誌社装丁:名和田耕平デザイン事務所 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【完全版賞】 暗黒神話 完全版 / 諸星 大二郎父の死の謎を追う少年が、日本全土をめぐる旅の中で自らの宿命と対峙する伝奇アクション。1976年に週刊少年ジャンプで連載された作品で、画楽.mag(ホーム社)で2014年から2015年にかけて連載された完全版をベースに加筆や描き下ろしを加えた愛蔵版。本体はハードカバーで、スリーブ付き。最初の画像は本体をスリーブに収めた状態の表、そしてスリーブの裏。スリーブは黒とメタリックで構成されており、主人公イラスト、タイトル、作者名が印刷されている他に、謎の文様が切り抜かれており、文様部分からは本体が断片的に見えている。
スリーブ単体と本体。スリーブの内側は赤いため、本を抜くことで文様部分が赤く浮き出る。本体は、一部に布が貼られており、そこに箔押しのタイトル、作者名。イラストはヤマトタケルのレリーフと、本体だけで見ると漫画らしうからぬ書籍感が出ている。
本編についても一部に銀のインクをあてがうなど凝った仕掛けが随所に見られ、要約すると「祖父江さんらしい」に落ち着く。装丁の解説は、公式情報で確認可能。
参考:
暗黒神話 完全版 商品紹介ページ /
諸星大二郎特集・前編 (集英社コミックシンク)出版:集英社装丁:コズフィッシュ □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【良いコミック賞】 ハード・コア 平成地獄ブラザーズ 全4巻
/ 狩撫麻礼,いましろたかし男2人とロボット1体。埋蔵金発掘のバイトで日銭を稼ぐアウトロー達の哀愁を描いたストーリー作品。
カバーに使われている紙は元々色付きで色ムラあり。印刷は黒、巻数マーク用の白、そして枠内の背景部分に各巻固有の1色。各種文字は等幅のものを使い、絵的な装飾のないシンプルなものを上部に集めて配置し、巻数のみ癖のあるフォルムのものをイラストに重ねあわせて目立たせている。いましろ先生の絵柄は渋くて愛嬌があるが、このカバーを手にして感じたものはかっこよさだった。
こちらは3巻のカバー下、中表紙、目次。
他に見返し等を合わせて、3巻固有の黄緑色を各所に使用している。
元はグランドチャンピオンで1993年まで連載していた作品で、ビームコミックスとしては2000年に上下巻で刊行されており、今回は実写映画化に先駆けて改めて刊行された。描かれたのは20年も前という話で、描写にも時代を感じさせる部分はあるが、読んだときにはそれが特に引っかからなかったが、それはカバーが嘘を盛らずに作品の魅力を伝えていたからかもしれない。
出版:KADOKAWA装丁:セキネシンイチ制作室 [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【良いコミック賞】 星明かりグラフィクス 1巻 / 山本和音デザインのとびきり上手い問題児と、美大をコネを作る場所と豪語し問題児の世話を焼く親友。打算と情熱の美大青春グラフィティー。
表紙単体で見るとL字、全体で見ると凹型のグレー枠にイラストを収めた構成。ハルタレーベルかつBALCOLONY.さんデザインという共通項を持つ第2位と見比べると分かりやすいが、こちらは表紙に入れるルールがないエンターブレインマークやISBNコード、2個並べた同型同色の巻数マークなど、文字というアイテムを多めに盛り込んでいる。これらとクリックできそうな左上「ほし」「あかり」マーク、イラスト外のグレー配色、裏表紙で「選択された画像」っぽく加工されてポインタも添えられたバーコードエリアなどを合わせて眺めると、そのデザインの方向性が見えてくる。
袖には電源を押すイラスト。そして見返しにはシルバーとオレンジの印刷で開いたノートパソコンを構成している。ちなみに、電子書籍版では表紙の次にこのカバーを外した状態の見返し部分が収録されていて、逆に上で紹介している『報いは報い、罰は罰』は見返しではなく広い袖の部分を収録していた。
カバー下は林檎を梨にしたMacBookライクなノートPCの筐体風。見返しと合わせて、本体はノートPCに見立てたデザインになっている。おそらく見返し単体がそれを見た時点で全体を推察できるようになっており、カバーを外すと予想通りのものが出てきて満足した。
中表紙は見開きでタイトルロゴを配置している。ノートPCを模した見返しの裏側にあたる右ページには同じようにシルバーとオレンジを使用し、編集パネルのイラストや基準線を加えることでイラストの編集画面に仕立て、デザインの過程(右ページ)とそのアウトプット(左ページ)を見せている。
目次ページも見開き。「○○と××」形式の各話タイトルは、形式が一目で伝わるようにレイアウトされている。
奥付は中扉のデザインを踏襲、加えて最後の袖には電源を消すイラストと、締めの部分が導入部分と対照的にデザインされている。「デザインしているところ」系デザインの中でも作りこみが面白くて見ごたえがある1冊だった。
出版:KADOKAWA装丁:BALCOLONY. [/] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【良いコミック大賞】 《完全版》サイコ工場 Α / 谷口トモオ1997年に刊行されたホラー短編集『サイコ工場』、その完全版。『イルザ ナチ女収容所 悪魔の生体実験』という映画のポスターを元ネタにしており、若干色の付いたほぼ白色の紙に、黒と赤が印刷されている。表紙に使われているイラストはだいたい作中のコマが元になっているのを確認できて、作品の古びにくいタッチ、デザインの力、その両方が作用していると思われるが、20年前のパーツを用いて今のものに仕上げられているところが興味深い。ちなみに作品のレーベルはリイドカフェコミックスになるが、復刊に尽力を尽くした劇画狼さんの特殊出版レーベル「おおかみ書房」のマークも背表紙に入っている。
書物のようなデザインが入ったカバー下。
本編の前には、「序にかえて」と小説の一節などが挟まれている。
作品の後には、谷口先生の全仕事データがページをしっかり使ってレイアウト的にも丁寧にまとめられている。この後には、製造記録と題した復刊の経緯まで収録されていた。
小口には仕掛けが施されており、小口を左に広げると「Psycho」、右に広げると「Α(+Ω)」というように広げる方向により異なる文字が出現する。読んでいるいるときはこれが本編を挟むように左右にくっきり現れて、中々かっこいい。上に載せた全仕事のページの左右を見ると、ページの左端と右端に、小口に文字を出現させるための印刷スペースが設けられていることが確認できる。
対となる
『《完全版》サイコ工場 Ω』と合わせて、著者自らの大幅修正&加筆も入り、デジタルリマスターで蘇ったというその1ページ1ページの印刷は20年前の作品であることを感じさせないくらい鮮明で、そういったところにも《完全版》の価値があるが、その価値を届けようという全力の意気込みを装丁や構成から感じることができる1冊だった。
出版:リイド社装丁:(Ya)matic studio□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
『この装丁がすごい!~漫画装丁大賞~2017』はここまで。電子書籍の本格的な普及に伴い、紙の出版物を巡る状況が刻々と変化し続けている現状でも、好きなデザインに引かれて新しいデザイナーさんの名前を覚える機会も決して少なくはなくて、楽しい漫画装丁の世界はきっと、いまなお広がっています(主観)。自分も負けていられないぞと、2018年版は2019年の年明け早々にアップできるように今からがんばります(フラグ)。
次回の特集でまた逢いましょう。
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2018年06月17日 |
この装丁がすごい!
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2018年06月20日 / #【編集】
毎度楽しく拝見しております。
一つだけ気になったので、コメントさせてください。
1位と35位の「B6判ジャンプ・コミックス」という記述、
どちらも判型は新書版かと思います。
確かに、ジャンプ本誌連載に比べると、
ジャンププラス連載作品はB6判の比率が高いと思われるのですが、基本的には新書サイズの方が多い印象です(ちゃんと調べてはいないのですが)。
2018年06月20日 / kori3110 #-URL【編集】
>kori3110さん
ご指摘ありがとうございます。
「少年コミックサイズです」と言いたかったのですが、B6は青年コミックサイズですよね、修正致しました。
2018年06月20日 / KT. #-URL【編集】
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このコメントは管理者の承認待ちです
2018年06月26日 / #【編集】
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