人類が「ギタイ」と呼ばれる化け物との戦争を続けている世界で、初年兵が一日を繰り返すループに巻き込まれて死にながら成長していく、同名のSFサバイバル小説、コミカライズ作品。
同時発売の全2巻で、青と赤の対構造で主人公とヒロインをそれぞれ振り分けた表紙。コミカライズ作品ということで、クレジットすべき名前が4人と多めだが、英文タイトルに合わせて名前が全てローマ字表記になっていて、表紙には日本語が一切ない。おかげで複数クレジット配置時によく発生する野暮ったさをまったく感じさせていない。背表紙は日本語で表記されているものの、これはかなり大胆。逆に作者名を見付けづらいというデメリットは発生するかもしれないが、一目で「小畑健」だとわかるバストアップイラストを採用しているので多分まったく問題はない。
ちなみに本作品はヤングジャンプに掲載されていたが、流通やターゲットを想定してか、単行本はジャンプコミックスサイズになっている。しかし、表紙の文字部分や血の後が浮いている加工や、カラー印刷された見返し、幕間に挿入される原作小説の1節が書かれた黒ページなど、こだわり具合は青年コミックのそれだった。
出版:集英社
装丁:ジェニアロイド []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第7位】 白い本の物語 〔新装版〕 / 重松成美▲父を亡くした少年は、二人の若き職人と出会いによって美しい製本の世界の扉を叩く。「IKKICOMIX rare」レーベル作品の、新装版。
こげ茶色の線で詳細に描かれた本作りの工房の風景。黒い文字の大きなタイトルは3文字、1文字、2文字の独特の分割で目立ちつつも、軽やかなフォントの使用でイラストと調和して落ち着いた雰囲気を出している。カバー全体の色合い、手触りが上品で、「製本」を扱った作品によりふさわしいリニューアルになった。ちなみにイラストの中で少年が手に持っている本のタイトルは、作者の連載作品『BABEL』になっている。
そんなこんなで、スピリッツの増刊号として生まれながら独自の装丁デザイナー生態系を築き、一味違った本のデザインで楽しませてくれた月刊IKKIが休刊。ありがとうございました。しかしIKKIさんがいなくなると、本企画で紹介したい作品が減ってしまうことは確定的に明らか。これはいったいどうしたものか…。
ヒバナさん「おいすー」
出版:小学館
装丁:名和田耕平デザイン事務所 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第8位】 イズモがゆく。 / 新めぐみ作者の実家で飼われている二頭の犬とのあれこれを語った犬エッセイ作品。
主線が太く、塗りわけがはっきりした白部分が多めのイラストに、読みやすい柔らかなロゴが合わさって、洗練されたシンプルさを感じさせる表紙。
犬⇒犬⇒作者の「最小EXILEのアレ」とでも呼びたい位置をずらした1列の構図で犬の存在感を最大限に引き出しながら、妙に後ろの作者も目立たせる位置取りの絶妙さは、同じイラストを使った背表紙や中扉で、何を見せたいかでイラストのバランスが変えてあることからもよくわかる。
巻末のおまけマンガには関さんも登場していて、このカバーはとんとん拍子に決まっているとか。
出版:小学館
装丁:VOLARE 関善之□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第9位】 レビウス 1巻 / 中田春彌人体と機械を融合させて戦う「機関拳闘」という格闘技が行われている、スチームパンク的な世界におけるバトル作品。
緻密で硬質なイラストを際出せるオレンジ色の背景色と青色の印刷。このシンプルな構成にマンガらしからぬブランド品のロゴのようなタイトルが載せられて異質な美しさを強調している。世界を視野に捉えるべく、全編=横書き&左開きというグローバルスタイルを採用している、ということで背表紙も左に来ていている。また、表紙のタイトルには振り仮名が付いているが、作者名はローマ字表記のみ。とことんシンプルなデザインになっているが、バランスのためか文字でCHPER(話数)や掲載誌のURLが載っていたりと、使えるものは有効に活用するという姿勢もうかがえる。
こちらもIKKI掲載作品で、ウルトラジャンプへの移籍が決まっている。
出版:小学館
装丁:gift unfolding casually []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第10位】 お前ら全員めんどくさい! 1巻 / TOBI▲教師×生徒×生徒×生徒の、めんどくさいハーレム作品。
白衣三つ編黒髪メガネ娘のあっかんべーイラスト。イラストの上にはキャラが作中で喋った台詞が描き文字として散りばめられていて、白背景とイラストのシンプルな組み合わせに一味違ったアクセントを加えると共に、そのキャラのめんどくさい個性も紹介していることになる。白系が元々好きなのはあるけれども、最近そこになにか一手間加えた白+系が自分の中で熱い。
カバー全体の使い方も面白いと思ったポイントで、台詞の描き文字は表紙をめくると見える左の袖にまで続いていて、キャライラストは左の袖、背表紙、裏表紙へとはみ出して広げたときに楽しめる連続性を作りつつ、左の袖は作者自画像とコメント、裏表紙は作中のコマを抜粋して綺麗にレイアウトした作品紹介エリアになっていて、単独でも見栄えが良い。手元にある人は、2巻と合わせてカバー全体を眺めてどういうフォーマットを形成している把握してみると、言いたいことが伝わるかもしれない。
出版:フレックスコミックス
BALCOLONY. []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第11位】 夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない / 宮崎夏次系 人間のあらゆる種類の「さみしさ」を描いた九つの物語が収録された短編集。
灰色で描かれた森、奥には一人の少女。さらに奥は真っ黒に塗りつぶされているが、黒いエリアにはぽつぽつと色とりどりの々が散らばっていて、夜空や宇宙が広がっているようにも感じられる。本記事内の紹介作品の中でも特に印象的な長文タイトルは、大胆に崩れたいびつなフォントで大きく載せられている。このタイトルのデザインに、タイトルのニュアンスや作中の人物に共通する不器用さが感じられると共に、タイトルが表紙を飾るためオ洗練されたオブジェクトとしても有効に機能していると思える。
出版:講談社
装丁:セキネシンイチ制作室 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第12位】 累 2~4巻 / 松浦だるま▲昨年の1巻紹介から1年で3冊。1巻で、複数案がある中で大きく顔をクローズアップしたデザインが採用されて改めて良かったと思える。
出版:講談社
装丁:hive 久持正士,土橋聖子 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第13位】 Q[クー] 1巻 / シヒラ竜也▲巨大生物が溢れて多くの都市が廃墟と化した世界で不思議な少女が大暴れする、特撮風SFアクション。
表紙いっぱいに描かれた巨大生物の残骸、その上に乗っかったドーナツの袋と異形の手を持つ少女。少女のイラストは中扉に掲載されているもの(画像右上)と同じものがそのまま小さく載せられていて、暗い部分が多い背景の中、空の白いラインに重なって目立っている。巨大生物を含め背景部分がとても暗いため、何が描かれているのだろうと良く見ようとすると、黒い部分に仕込まれた細かい星のホログラムがキラキラと光る、このホログラムを気づかせる構成が秀逸。また、タイトルの「Q」の文字はキャラの上に配置され、そこから読みや作者名が一列に並んで斜めに伸び、
巻数は「Q」の中に入っている。かなり変わったことをしている気がするが、それが悪目立ちしたり、情報の認識を妨げたりすることはなく、綺麗に収まっているのが地味にすごいと思える。
出版:集英社
装丁:成見紀子□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第14位】 蟹に誘われて / panpanya▲日常と非日常の入り混じった世界に読者を誘う、奇妙でどこか懐かしいお話の集まった短編集。タイトル、風景イラスト、表題作のあらすじと地図。豊富な装飾要素がグレースケールで硬くまとめられていて、それは一見無骨で小難しそうな海外の翻訳本のように見える。しかし、よくよく読んでみるとあらすじが面白おかしいことが書いてあり、タイトルもばかばしいことになってくる、そんなユーモアが仕込まれている。とにかく個性的な著自装の1冊。ちなみに左上には楽園コミックのシンボルマークが赤と白で大きく配置されているが、もはやカニにしか見えなくなってしまった。
*出版:白泉社
装丁:panpanya []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第15位】 おもちゃの教祖さま 1巻 / 高崎ゆうき▲見た目は子供、実年齢37歳、職業:「永遠教」教祖。ロリババァ新興宗教コメディ。『のじゃロリ&ロリババァ』(←検索して漫画界の懐の深さを知った)と『月刊コミックバース』掲載作品。
人物を横に配置して、その空いたスペースには沢山の文字。文字には黒のほか、銀色も使われている。スペースが足りないというわけでもなく、タイトルの大きな「教祖」の文字に嵌める形で作者名を配置するなど、独特のレイアウトが目を引く。左下には教祖様のありがたい訓言。カバーを全体で見てみるとキャラがエロかっこよくなる。
出版:幻冬舎コミックス
装丁:コードデザインスタジオ []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第16位】 夜とコンクリート / 町田洋▲短編集。
収録作「夜とコンクリート」を表題に使用。紺色のスペースに、白の線画で描かれた建物と黄色の文字、黄色の窓。一般的に通じる意味でのデフォルメと言ってしまうと何となく違うようにも思える、簡略化・抽象化されたビルの立ち並ぶ、無機質なはずの景色が何故かとても優しく見える。
作品内の絵柄が想像しにくいタイプの表紙ということもあって、面白く読めたことが表紙への好感を大きく上げているし、内容が面白いと思えたからこそ紹介したくなった表紙という側面はあるものの、この独特の町並みの造型、それ自体が作者の持ち味を雄弁に語っていると言えるかもしれない。
出版:祥伝社
装丁:坂脇慶□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第17位】 魔犬 ラヴクラフト傑作集 / 田辺剛▲クトゥルフ神話の創始者とも言われるラヴクラフトの傑作をコミカライズした作品集。収録作品は「神殿」「魔犬」「名もなき都」の3編。
イラストは表題作「魔犬」のもので、表紙から裏表紙にかけて、打ち棄てられた廃墟と無残な墓場が広がっている。松明をもった人物は薄い黄色で着色。陰影の強い写実的な背景に重厚感があって、タイトルやボックスに着色された明るい黄色もこれを和らげることなく、毒々しさを加えている。右上の黄色いボックスの情報の英語表記は元の作品の海外らしさを出しているが、このボックスは裏表紙にまで続き、そのままバーコードを配置するエリアになっていて、バーコードもあまり気にならない(
▲)。
中のデザインは画像右上がカバー下、右下が中表紙で、どちらも黒色と銀色。装丁も、物語も心が休まるポイントが存在しない硬質な作品。心なしか、本自体も重たいものに感じられる。
出版:KADOKAWA/エンターブレイン
装丁:セキネシンイチ制作室 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第18位】 賭ケグルイ 1巻 / 河本ほむら,尚村透▲ギャンブルに強いものだけが人間であることを許される、狂気の学園賭博バトル作品。
普段はガンガン系作品として違和感のないすっきりした絵柄の人物達が、感情を露にするときリアルに表情をゆがめる、
そんな顔芸を駆使する作品ということもあり、表紙のイラストも顔芸発動時寄りのリアルタッチで描かれている。
バックの白色によって人物イラストの暗さが強調されていて、その暗さの中で目や爪に挿された赤色が目立つ。
また、さらにカバーにはキャンバス地のような凹凸があり、この凹凸が色の暗い領域での方が白味がかるため、
赤色部分が浮いて光っているという錯覚すら起させる。
ホラーマンガでもないのにそれに近い凄みが作品の狂気を上手く表現していると言えるが、
背表紙単体で見るともはや、普通にホラーマンガのそれになっている気がする。
出版:スクウェア・エニックス
装丁:川谷デザイン []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第19位】 彼女とカメラと彼女の季節 5巻 / 月子キマシTOWER!!!!!!!!!!(感無量)
出版:講談社
装丁:NARTI;S 新上ヒロシ []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第20位】 おじさんとマシュマロ / 音井れこ丸マシュマロ大好きおじさんと、マシュマロ大好きおじさんが大好きなOLの、ラブ(未満)オフィスコメディ。Pixiv掲載の大人気シリーズ、フルカラー書籍化作品。
おじさんとOLの周りの無地の部分には、エンボス加工で浮き出たマシュマロが散りばめられている。エンボス加工の部分は無色にも関わらず陰影だけでくっきり目立っていて、マシュマロがとてもマシュマロらしい。加えてカバーの手触りがしっとりとして個性的であり、気がつくとマシュマロ部分を指でなぞっている。
出版:一迅社
装丁:井上則人デザイン事務所 安藤公美 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第21位】 レストー夫人 / 三島芳治▲毎年二年生の7クラスが「レストー夫人」という同じ演劇を違う台本で上映する学校を舞台にした、とあるクラスの生徒たちの物語。
白とシルバーの上下二色分割構成。文字の置き方が控えめで飾りなく、そのシンプルさで文学作品のような雰囲気を持ちつつ、イラストの目立たせ方はマンガ的とも思え、アオハルレーベルのコミックの中でも異質な静けさを放っていた。人物イラストは、作中から切り取られたものになっているが、実際のシーンでは微笑んでいたものが、表紙に用いられる際には口と共に表情が消された、ニュートラルな状態で用いられて、それが波の無い静謐な空気を形成しているように感じられた。
出版:集英社
装丁 art direction and design:AAA Ddesign
editorial producer:里見英樹□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第22位】 月刊すてきな終活 / 小坂俊史▲14歳女子中学生から、78歳無期懲役囚まで。17人の「終活」オムニバス4コマ。
沢山のキャラが、自分の遺影を抱えているイラスト。それぞれのキャラには名前と年齢が添えられている。背景は、大切な人に読んでもらうエンディングノートの1ページになっていて、名前を書くスペースに作者名を配置している。タイトルロゴは、クレヨン描き風。同じように、死を扱った『薄命少女』(装丁:里見英樹)が自分の遺影を自分で持たせるデザインになっていたが、あちらはブラックユーモア寄りでこちらは前向きなニュアンスが強い。とは言いつつも、中扉の方は遺影がずらっと並んでいてブラックなインパクトがあり、こちらが表紙になっていたら手に取っていたかと想像してみるとちょっと面白い。ちなみに奥付も遺影風にデザインされている(
▲)。
出版:竹書房
装丁:名和田耕平デザイン事務所 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第23位】 いぬやしき 1・2巻 / 奥浩哉『GANTZ』の次の作品。そのタイトルが『いぬやしき』で表紙にはおじいさんの笑顔。あらすじを見ていなかったこともあり、ネットで書影を見て「大量の犬を一軒家で買う無責任な老人の話」なのかと明後日の方向に妄想を膨らませたが、実物を手に取った瞬間、全体に浮かび上がった細かい球体状のホログラムがその雰囲気を大きく変えて、妄想が間違っているであろうことを瞬時に悟った。ホログラムが手前で浮き出て見えて、何気に不思議な表紙に仕上がっている。
出版:講談社
装丁:hive 久持正士,土橋聖子 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第24位】 恋は光 1巻 / 秋★枝▲特定の条件を持つ女性の周りに煌く「恋の光」が見える男性の能力を軸にした、キャンパスライフ・ラブストーリー。
白と銀色の二色で構成された大学構内の風景が一面に広がったカバー。そこに表紙に描かれたヒロインを含め、メインキャラクターだけを色づけして目立たせている。ヒロインの周りやタイトル部分には同じ形の光。さらに、本の角度を変えると一部分がパールのように光を反射する(
▲)。その光がささやかで上品。そして作者名に入った「★」がもっとも良く馴染んでいるカバーになっているかもしれない。
ちなみに、主人公が見える光は裏表紙のあらすじで「恋の光」と呼ばれているが、作中ではっきりと「恋をしている女性の周りに見える」
と解明されているわけではないので上の紹介文が回りくどい言い方になったが、そういうところを踏まえて続く2巻の表紙がまた面白いことになっていた。
出版:集英社
装丁:GENI A LOIDE 堀井奈々子 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第25位】 ギリギリアウト 1巻 / ソウマトウ▲ヒロインが尿意と戦い、そして黒星を重ねるおもらしラブコメ作品。
発売されたのが2014年1月下旬で、3月発売のウルトラジャンプに掲載されるコラムの候補として、『せっかち伯爵と時間どろぼう』『レビウス』と共に挙げていたのがこの作品。しかし、3作共にすごく見所がある作品という感覚でいた自分に対し、編集さんはこの作品だけヒロインが可愛い表紙という印象を持っていてピンときていなかった。「そうじゃないんだよ」という想いを胸に、休日の喫茶店の隣のテーブルで優雅に談笑する奥様方を気にしながら、「おもらし」「尿意」などの必須ワードを盛り込み、「3コマと信号色」、「1コマだけでは何故ダメなのか」(カバー下には3コマ目の全身イラストあり)、「コマ割系デザインの発展型としての表紙」等などのポイントを説明して、この表紙が内容に合ったすばらしいものであるということを伝えるために30分間の議論を行った。結果、「紹介してもいい」というところまで持ち込めた。その後『せっかち伯爵と時間どろぼう』をどう紹介するかをさらっと決めて、その日の打ち合わせを終えた。
出版:KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
装丁:コメワークス 高橋忠彦 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第26位】 運命の女の子 / ヤマシタ トモコ▲女刑事が大量殺人犯と対峙するホラーサスペンス『無敵』。苦い初恋の呪縛から逃れられない青年をリリカルに描く『君はスター』。使命を背負わされた少女と少年の冒険譚『不呪姫と檻の塔』。長編読み切り3編を収録した作品集。
表題作はなく、3作品を総括するような形で『運命の女の子』というタイトルがつけられている。表紙の人物は、ホラーサスペンス『無敵』に登場するが、少し乱れた髪、覗き込むような視線、そして大胆なトリミングが合わさって、見ていてどことなく不安になってくる。人物の瞳の中には赤ホロ箔。この赤ホロ箔は背表紙のタイトル部分にも仕込まれているが、表紙の中ではタイトル部分に使われず、瞳だけが浮き出ている。デザイナーさんは「瞳にゆらぐ焔を、赤ホロ箔で表現しました。」とコメント。「瞳に宿す強固な意志的なアレね~」と解釈して読んでみたら、そうではなかった。
出版:講談社
装丁:note 芥陽子 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第27位】 かつて魔法少女と悪は敵対していた。 1巻 / 藤原ここあ▲無防備で人懐こい魔法少女と、彼女に一目ぼれしてしまった悪の参謀、愛と葛藤の4コマ。斜めのラインで少女と悪を対峙させたイラスト。
タイトルの「かつて」から「して」までが空いたスペースに等間隔ですっきりと収められることで、そこから逸脱した「いた。」の文字から大きさに見合ったインパクトが出ている。さらに「敵対」と「して」の部分が花を避けるように離されていて、「敵対、して、いた。」とリズムを生んでいる。美麗なイラストの邪魔をせず、かつ印象に残る文字配置。ライトノベルのような長文タイトル、その料理方法の可能性を見た。
出版:スクウェア・エニックス
装丁:コードデザインスタジオ []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第28位】 燐寸少女 1巻 / 鈴木小波▲妄想を見るのはお客さん。持ち主の身に余る不思議アイテム販売系作品、燐寸(マッチ)限定版。
年代物のマッチ箱のようにデザインされた表紙。色は主に茶色、黄色、赤色、クリーム色。アナログ感の強い作者イラストや作品タイトルがデザインと馴染んでいるのは当然として、「Kadokawa Comics A」のレーベル表記従来のフォントそのままで意匠の一部ように溶け込んでいて、探さないと見つからない。カバーの手触りも良く、作中で少女が口にする、「レトロ調でオシャレ」という表現がとても似合っている。
出版:KADOKAWA/角川書店
装丁:LALA HANDS 佐々木基 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第29位】 幸子に幸あれ 1巻 / 生春巻▲貧乏で不幸な暮らしの中で病的な健気さが染み付いた女子高生、その日常を描いた4コマ作品。
その表紙は、右にイラスト、左に4コマと、まさに4コマ漫画の第1話のように見える。それもそのはず、表紙のベースは第1話の1ページ目(画像右下)。そこに、元のページにはないアオリが過剰に詰め込まれていて、なんだか本物の第1話よりも第1話らしく感じられるのだから面白い。さらに、アオリが自然に作品の内容を説明する役割も果たしている。作品が4コマ漫画であることも含めて、大事なことが非常に分かりやすい表紙になっているということは、ヤングマガKCレーベルに所属する作品としてとても重要。そもそも4コマ作品は表紙に4コマを載せるとその作品が4コマ作品であることがわかりやすいというのは当たり前の話ながら、4コマという絵面は表紙に使う素材としては扱いが難しいように思える。それをこの作品では4コマという素材を第1話の1ページ目という大きな枠組みごと持ってきたのでパーツを切り貼りした感じがないのが上手なところかもしれない。
ちなみにカバーの表面には手触りのよいつぶつぶがついていて、質感を底上げしている。おそらく『惡の華』4巻~6巻のカバーで使われている加工と同じタイプのもので、本企画でも何回か取り上げていると思われる。この加工は折られる部分で取れて白く剥げやすいという弱点がある。そこを今回のカバーでは折られる部分だけ折られる部分だけつぶつぶが付いていなくて、痛みが目立ちにくくなっている。この何気ないダメージ対策の改良にうれしくなった。
出版:講談社
装丁:banjo 坂上和也□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第30位】 文房具ワルツ / 河内遙▲擬人化された文房具が悩める持ち主達を見守る、穏やかな短編集。紺色の下地とクリーム色の背が目立つ、ノートのようなデザイン。写真を切りぬいたようにイラストを収めたひし形の枠は、絵の密度を高める一方で紺地の余白を広く見せ、ノートらしさを印象づけている。タイトルやイラスト部分は光沢のある加工がされており、表紙に華を添えると共に手触りの違いによって、さらりとしたノートの感触を思い起こさせる。カバーの質感は作品を読む手にも感じられて、持つこと自体が心地よい。良い文具のように愛着の沸く、1冊。
出版:小学館
装丁:ベイブリッジ・スタジオ 黒木香 []□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第31位】 甘々と稲妻 3巻 / 雨隠ギド1,2巻では一塊になっていたものを分割してきっちり縦に配置したタイトル。
タイトルが落ち着いていて、その分人物の元気よさが際立つ。
少女の瞳や靴・ネギの緑色や、買い物袋の黄色、
スイカシャツや半ズボンの赤色など、
小物の鮮やかな差し色がクリーム色のカバーの上で調和していて、
眺めていて飽きがこない。
出版:講談社
装丁:名和田耕平デザイン事務所 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第32位】 長閑の庭 1巻 / アキヤマ香文学教授(64歳)と大学院生(23歳)、年の差 恋愛未満ストーリー。
イラストを囲む植物の飾り枠、タイトル、作者名の枠、巻数表記の囲み、イラストの窓枠。整った美しいデザインであると同時に、作中のモノローグの枠やコマワリの線に工夫がされた作品にとても馴染んでいる。
表の飾り枠と形を合わせた裏表紙のデザインは、
バーコードが無くなったことをとても上手に利用している。
出版:講談社
装丁:コードデザインスタジオ [] ▲裏表紙□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第33位】 Sunny 5巻 / 松本 大洋晴れの日でも傘を差す少年は、顔アップの表紙でも傘差し。
傘で目を隠してしまうことで、もじゃもじゃの髪や
鼻水、タートルネック、ランドセルなどキャラを構成する要素が
より強調されている。
傘があることによって、本来文字を置きにくい
顔のおでこあたりの良い位置にタイトルが来て
赤と黒でいつもよりも目立っている。
出版:小学館
装丁:セキネシンイチ制作室 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第34位】 おかゆねこ 2巻 / 吉田 戦車1巻は黄色と黄緑、そして2巻は黄色とピンク。
このシリーズの色合わせはとても気になる。
出版:小学館
装丁:cozfish 祖父江慎, 福島よし恵 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第35位】 スティーブズ 1巻 / うめ(小沢高広・妹尾朝子),松永肇一ジョブズとウォズニアック。史実を元に描かれた、二人のスティーブによるアップルコンピュータ革命譚。
人物二人と齧られた林檎。服装がシンプルで、林檎が良く目立っている。巻数、タイトル、林檎部分には光沢があり、表紙の中央にも無色のタイトルロゴが仕込まれている。巻数表記の後ろにある作品にぴったり似合いすぎるドットは、編集さんのタイプミスから生まれたらしい。参考:
関さんのツイート出版:小学館
装丁:VOLARE 関善之 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第36位】 聲の形 5巻 / 大今良時『このマンガがすごい!WEB』さんのゲスト企画でお題を決めて3作品紹介することになり、
チョイスしたのがこちらと『亜人』5巻、『累』3巻。「次巻のデザインが気になる」かつ「内容もオススメできる」という縛りを独自に設けた結果、他の紹介者の個性的なラインナップと比較してずいぶんと「普通に話題なっている」作品を選んでしまったかもと少し後悔したすぐ後で、チョイスした3作の新刊の表紙の、これまでの流れを踏襲しつつその巻の特徴を出した素敵な仕上がりを確認。そうそう、これよこれ。
出版:講談社
装丁:RedRooster 高木紗耶 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第37位】 ジュウマン 1巻 / 羽生生純混沌の巨大戦隊ヒーロー作品。
戦艦を模したコスチューム(作業服)を着て仁王立ちしたオッサン。オッサンを囲んで無地の背景を埋めるタイトル、その隙間には作者名や煽りが添えられる。右上に小さく人が描かれていて、それくらいオッサンが大きいというのは分かりづらいが、文字組みで人物がそそり立つ雰囲気が良く出ているように感じられる。
出版:小学館
装丁:セキネシンイチ制作室 [] ▲ロゴ拡大□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第38位】 現代魔女図鑑 1巻 / 伊咲ウタ現代に生きる魔女達の日常を描いた、オムニバスストーリー作品。
魔女/魔法少女モノその1。
青空、無味な階段、制服などの現代要素、帽子、箒、長い髪、黒猫などの魔女要素。程よく現代の日本感を出した魔女達のイラスト。
背景の枠や、単語ごとに分割された漢字のタイトル、辞典で使われそうなフォントによるふりがなの装飾が、さりげなく表紙を図鑑のようにまとめている。
中表紙は白黒+青のイラスト。明⇒暗の流れが気持ち良い。
出版:一迅社
装丁:imagejack 團夢見 [] ▲中表紙□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第39位】 幻想ギネコクラシー 1巻 / 沙村広明SFにファンタジー、エロ、グロ、パロ。圧倒的な画力で描かれる突拍子もない12の物語が収録された短編集。猫耳の目立つリアルなタッチの女性に、各エピソードに関連したアイテムを無節操に絡ませて、まったく意味不明かつ妙な凄みのあるイラスト。その余白を埋める控えめなタイトル。背景を無地にして、イラストのインパクトで勝負したシンプルなデザインに見えるが、カバーにはキャンバス地の布目風な凹凸と色むらがあり、これが絵画のような質感を持つ作者イラストの魅力を最大限に引き出している。見て、眺めて、触ってほしい。
*出版:白泉社
装丁:名和田耕平デザイン事務所 [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第40位】 瑠璃宮夢幻古物店 1巻 / 逢坂八代大体バッドエンド直行古道具販売系作品。
手間の黒猫が、奥に座る女店長を見つめる構図。
タイトル・作者名を含め、キャラを避けるように散りばめられた
文字が、猫と女店長の存在を強調している。
幕間には作中に登場した個物の解説ページが挟まれており、
本全体でコードデザインスタジオ成分が強い。
出版:双葉社
装丁:コードデザインスタジオ [] ▲キャラアップ□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第41位】 俺物語!! 5巻 / アルコ,河原和音純白のスーツに身を包み、薔薇の花束を携える強面主人公。
主人公のキャラが分かっているため普通にカッコよく見えてしまうけれども、
(電通の匂いがする方の)「壁ドン」が似合いそうなキャラにこれをやらせても、
ここまでパンチのある表紙にならないであろうことは予想できる。
影と組み合わせた「アルコ×河原和音」とレーベルマークも
既刊の中で最も有効利用されていると思える。
出版:集英社
装丁:川谷デザイン [] □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【第42位】 新装版
UMA大戦 ククルとナギ1・2巻 / 藤異 秀明 昨年発売された同作者の『真・女神転生 デビルチルドレン』新装版がゴールドだったのでこちらはシルバー。こちらの作品を含め、当時の読者を対象にしているのか、『ボンボン』復刊作品のデザインの気合いの入りようがとても興味深い。
出版:講談社
装丁:arcoinc 楠目智宏,池田悠 [] 味のあるイラストを邪魔せず読みやすい、タイトルの巻数表記と合わせた4×3全体配置。上巻は水色で下巻は黄緑と、カバーイラストの基調にカバー裏や見返し、目次や帯の色も統一されている。各話のタイトルの入れ方や区切りの黒ページなどシンプルで丁寧な作りこみを感じさせる2冊。
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