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ルックバック・ルックバック・イン・アンガー

小説をお読みいただく前のお願い。

作中には、架空の精神病にかかったキャラクターが登場しますが、実在の精神病に対する偏見や差別を助長しようとする意図はありません。

また、作中には、作中の世界においては架空の精神病という設定で『統合失調症』という病名が出ます。実在の病名なのですが、フィクションの世界観の中でのフィクションという表現であり、現実の統合失調症に対する差別や偏見を助長しようとする意図はありません。

作中に登場するキャラクターは、あくまで架空の精神病を罹患しております。重ねてになりますが、実在の精神病に対する偏見や差別を助長しようとする意図はありません。

また、この小説はジャンププラスで公開された藤本タツキ作『ルックバック』のオマージュ作品です。一部、台詞や表現、用語の引用を行っておりますが、出典は以下のハイパーリンクとなります。

  1. ルックバック - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+
  2. 藤本タツキ先生の『ルックバック』作品内の表現を修正、主に凶行の犯人の言動が"無敵の人"となる - Togetter


『統合失調症』という言葉を小説内に登場したのは、作品公開から現在に至るまで、『ルックバック』を表現する上で、外すことのできない重要なキーワードであると考えたためです。

また、この小説はフィクションであり、実在の人物、事件などとは一切関係ありません。

以下から、小説本文となります。

ルックバック・ルックバック・イン・アンガー。

精神鑑定結果を出すときは、当然ではあるが、慎重に慎重を重ねる。山形美大生通り魔殺人事件の容疑者は、いわゆるアーノロン症候群と診断されている。容疑者が精神病を罹患していても、ただちに責任能力なしという訳では、勿論ない。

美大襲撃に至った経緯、容疑者の調書を読んでみる。容疑者も美大出身だった。子供の頃から、自分の描いた絵から声が聞こえていたと言う。これは、アーノロン症候群の初期症状の一つとも言えるが、「共感覚」ではないかとも推測できる。優れた芸術家の多くは、作品から声を聞くと言われている。

小学生時代に仙台市や宮城県主催のコンクールに何度も入賞している。絵から聞こえる声にしたがったと話す。容疑者の母親は、彼の絵を大いに褒めた。この頃から、本格的に美術を志すようになった。

県内の高校を出て、美大へと進学する。容疑者が漫画好きということもあり、美術制作と平行し、漫画賞の投稿なども続けた。本人によると親戚や家族から「美大を出ても就職はできない」と言われたことも大きく影響していると言う。そんな中でも、彼の母親は唯一の味方だったと言う。

21歳の頃、大学在学中に、集英社が主催する漫画賞で佳作をとる。後の被害者となる美大生は当時中学生で、「メタルパレード」という作品で準入選を得ていた。なお、容疑者の投稿作のタイトルは「メタルスラッグ」であったが、受賞時に権利の関係で編集者と相談の上で改題された。そのことも、後の犯行に影響したと容疑者自身が語っている。

受賞後の容疑者の人生は上向きだった。親戚からの目も変わり、母親も褒めてくれた。受賞賞金30万円の一部を使い、映画を見たりした。今後の作品の参考のためである。

受賞後は、担当者がつき、新作読切を構想していたが、容疑者の人生が急変する。母親が急死したのである。過労が原因だった。唯一の味方を失った深い絶望。この頃から、アーノロン症候群を思わせる症状が現れ始める。

容疑者は、犯行動機となった「絵画から自分を罵倒する声が聞こえた」に関して供述している。母親を失った後、精神的に不安定となり、そのため担当編集者とも連絡をとれなくなった。それでも、漫画家を目指す中で気づく。自分の絵から声が聞こえなくなった。これでは、もう絵が描けない。そして、同時期に他人の絵から声が聞こえるようになった。それは、徐々に自分を罵倒するようになった。

追い込まれていく心境や、絵画から聞こえた声というのは、「被害妄想」や「幻聴」と表現できる。それらは、アーノロン症候群の特徴的な症状ではあるが、それらが直ちに犯行に繋がるかと言えば、そうではない。事実、容疑者は幼少期からの「自分の絵から聞こえる声」とは上手く付き合っていたとも考えられる。精神鑑定は、特定の精神疾患有無だけを重要視するものではない。

山形美大を襲撃した理由に関しては、次のように供述している。自身が初受賞した時の週刊少年ジャンプを読むと、準入選のコンビ漫画家は、山形県出身とあった。作品名も「メタル」の部分が自分の改題前の作品名に重なる。それから、そのコンビ漫画家が発表した読切作品をインターネットで追っていくと、セミ人間、ミノムシ、もぐら少年など、自分が当時、担当編集者と打ち合わせた内容と重なる部分が多く、編集者を通じて、作品アイデアの横流しが行われていたと強く思うようになり、また、作品の内容が「陽の当たらない自分」への罵倒だと感じたと言う。事件捜査の中で、当時の担当編集に確認されたが、そのような事実はないということだった。

容疑者の被害妄想は強まり、アーノロン症候群の悪化により、結果として美大襲撃へとつながる。殺害した最後の被害者は、まさに、彼が恨んだコンビ漫画家の一人だったのだが、容疑者は被害者が同大学に在籍していたことを知らなかったと言う。

15人を襲撃した時に、容疑者は、絵画から声を聞く。それと同時に、駆けつけた警察官により確保された。異常な興奮状態にあった容疑者は、逮捕と同時に意識を喪失させた。

取り調べの中で、犯行動機に関して「誰でもよかった」と言い、自分の犯行が何者かの蹴りと打撲によって阻止され、犯行を完遂できなかったことを、握りこぶしから血を流しながら悔しがったと言う。そして、「自分は統合失調症じゃない!病気じゃない!」と何度も叫んだという。

おそらく、意識を喪失した中で、記憶の混濁が発生したのだと思われる。『統合失調症』なる実在しない病名は、容疑者の創作活動の中で知り得た知識のツギハギかもしれないし、架空の病名の出典は、精神鑑定においては大きな意味をもたない。

ただ、自身を、この場合は架空の精神疾患ではあるが、自身の精神異常を強く否定することも、アーノロン症候群の症状の一つである。取り調べ室に飾られた絵画からも、声が聞こえたと容疑者は供述したが、取り調べ室には絵画は飾られてなかった。

取り調べを続ける中で、犯行動機は、当初訴えていた「誰でもよかった」ではなく、自身の作品タイトルが改変されたこと、自身のアイデアが盗用されたという思い込み、絵画からの自分を罵倒する声、芸術を志す者への嫉妬、自身を精神疾患と決めつける世間への恨み……などと具体性が増した。


精神鑑定結果を提出しないといけない。容疑者が襲撃前に山形美大を下見していたこと、事前に刃物を用意していたこと、刃物を失った後に、実習棟に向かい、新たな凶器を得たこと。刃物を失ったために、自刃による自殺という最期には至らなかった訳だが、一連の行動には計画性があり、アーノロン症候群による心神喪失状態、責任能力なしとは言い難いと思える。

刑事責任を問えるか否か。私の決定が、多くの人の人生に関わることは当然であるし、精神科医として、アーノロン症候群患者への差別や偏見が強まるようなことはしたくない。

すでに報道されている内容、インターネットの声などを読むと「ステレオタイプのアーノロン犯人」とか、「思い込みによる安易な殺人」などと言われている。事件報道しか見てない人は、そう思うのだろう。しかし、わずかながらにも容疑者の人生に触れてみると、容疑者には容疑者の人生があったことが分かる。そして、アーノロン症候群に限らず、精神疾患に「ステレオタイプ」というものはない。症状というのは、繊細で、精神科医、専門家は「ステレオタイプ」という言葉は絶対に使わない。

それでも、精神鑑定の結果は出さないといけない。署名と判を押し、裁判所に提出した。これにより、彼の罪状がどうなるかは分からないが……彼が大学生の時に、どのような漫画を描いたのか知りたいと思った。被害者が関わった作品『メタルパレード』は、短編集に収録されているようだが、同じ誌面で佳作を受賞した彼の作品は、最初の数ページしか見れない上に、印刷で潰れていた。彼は、自分の漫画から、どのような声を聞き、完成させたのだろうか。

今回の事件が、アーノロン症候群への差別と偏見を助長しないことを願うばかりである。


この小説に関して書いていたこと。

yarukimedesu.hatenablog.com

余談。推敲しようと思って、何度も読み返してみるけど、設定の羅列であって、全然面白くねえなぁ、この小説。