俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

僕はある日すきっ歯になった

ある日、左上の歯茎が内側外側共に急激に腫れ、咀嚼すると痛みを感じることに気づいた。歯医者によると「歯と歯の隙間が大きくなって、食べ物のカスが歯周ポケットにも入り込んで炎症を起こしている」とのことだった。

幸い、隙間があるのは一か所で、虫歯ではないとのこと。しばらく歯磨きの後に抗生物質的なものを歯茎に塗っていると、2週間ほどで腫れは引いた。が、すきっ歯が残された。

ここから僕の憂鬱な毎日が始まった。

食事のたびに左上の歯の隙間に食べ物が確実に挟まるようになった。もやしやホウレンソウなど細長いものはもちろん、豚肉などの繊維質も100%挟まるようになった。この異物感・違和感たるや、食事中でも舌とか爪でなんとか食べかすを取り除かないと箸が進まないほどだ。

食後も指の爪を突っ込んでみたりお茶で周りに気づかれないようにグチュグチュゆすいでみるのだが、違和感が一向に無くならない。1日3回の憂鬱。これが一生続くと思うと悲しくなる。

で、ここから4段階の掃除が始まる。

まずは歯磨き。僕はサンスターのG.U.Mという歯ブラシを常用し、1回につき7~8分、角度を変えたりこすり方を変えたりしながら丁寧に丁寧に磨いてきたのだが、すきっ歯あたりはさらに念入りに磨くようになった。

次に、「歯間ブラシL字型」。これは歯医者さんに勧められたのだが、僕のすきっ歯は歯茎側に逆三角形に空いているので、このブラシを突っ込むと良いとのこと。で、このL字型ブラシを外側から隙間に突っ込むと、ものの見事に食べかすが内側に押し出され、舌の上にポトリと落ちるのだ。あんなに丁寧に歯磨きをしたのに、こんなにでかい食べかすが普通に居座っていたのだ!このL字型ブラシを突っ込んで大物がすとんと取れる瞬間は快感と絶望が入り混じる。快感はもちろん「取れた取れた。きっとこれはとんかつの肉片だな!」という狩猟咸、絶望は「俺の歯磨きってなんの役にも立ってなかったんだな」という落胆。この落胆も1日3回・・・。

ガム・ 歯間ブラシL字型│オーラルケア│サンスター製品情報サイト

第3段階はデンタルフロスである。つまり糸のようなもので歯と歯の間の食べかすを削ぎ取るのである。今までは週に2回くらい、なんとなく歯と歯の間に1~2回はめては出し、はめては出しという感じで使っていたが、今は「まずは手前の方の歯の食べかすを削ぎ取るつもりでフロスを引きながら!」「次は奥の方の歯の食べかすを削ぎ取るつもりでフロスを押しつけながら!」と意識しながら使っている。これは大物は取れないが、小さめの食べかすが複数発掘できる。ここでも「よし!細かい食べかすを発見!きれいになったぞ!」という喜びと、「歯磨きって無力だよな・・・」という落胆が入り混じる。

で、最終段階は強めの濯ぎ。水を口に含んで、左上奥歯を中心にぐちゅぐちゅと歯の隙間に水を通すように、水圧で食べかすを削ぎ取るようにゆすぐ。するとまたどこからか大物の食べかすが出てきて水の中で踊っているのである!「まじで!?」「あんなに磨いて突っ込んで削ぎ落して、まだあるかぁ?」

最終的に歯磨き後に大型2、中型2,小型5の食べかすが発掘されたりするのだが、達成感ありぃの、絶望感ありぃのの感情の揺さぶりを、これからも1日3回繰り返さなければならないのである。

 

とにかく、この4ステップでほとんど全ての食べかすが除去された。

これで口の中はさっぱりして気分爽快かというと、実は全く逆なのである。食べかすがきれいになくなり、露わになった隙間部分は、風が入ると歯の側面がスースーと染み、熱い飲み物や冷たい飲み物を口に含むと歯茎にしっかりと染みるのである。

つまり刺激がダイレクトに歯茎や歯に伝わるようになり、これはこれで不快なのである。虫歯でもないのに。そして僕はこの不快な状態を作るために1日3回、面倒なステップを踏んで食べかすを除去しているのである。

歯医者に相談すると「1つの隙間だけなので矯正するほどではないですし、虫歯でもないので詰め物をするわけないもいきませんしね。放っておくしかない。じきに慣れます」とのことだった。

はぁ・・・俺はこれを一生続けるのか・・・

デンタルフロスをする人のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや