糖尿病や高血圧、30秒の動画撮影だけで高精度判定…「これからの医療にはAIが不可欠に」
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[AI近未来]第1部<2>
「カメラに顔と手のひらを向けてください」。東京大病院の内田亮子特任研究員(51)(先進循環器病学)が患者役に声をかけた。動画の撮影はわずか30秒。患者ら約200人を対象にした臨床研究では、糖尿病を約75%、高血圧を約90%の精度で的中させた。
内田さんらは、顔などの映像データから糖尿病の兆候や高血圧の有無を検出する人工知能(AI)システムを開発中だ。顔と手の計30か所の血流の変化から、AIが血管のダメージなどを推定し、独自の計算式により糖尿病や高血圧を判定する仕組みという。
近い将来には、鏡に内蔵したAIカメラで毎朝、歯磨きや化粧のついでに「健康チェック」ができるかもしれない。内田さんは「たとえ健康への関心が高くない人でも、日々の暮らしで非接触の健康チェックができれば、異変を早期発見できるようになる」と意気込む。
医療現場ではAIの導入が進みつつある。特に画像診断はAIの得意分野だ。
津端内科医院(新潟県三条市)の津端俊介院長(51)は「診断支援AI」を活用する。大量の検査画像をAIに学習させた医療機器で、病変の見落としを防ぐ。
胸部エックス線では医師の診断と併用することで、病変の検出率が1割高まったとのデータがある。2022年7月、女性患者(76)の胸部エックス線画像で、AIは
津端院長は「AIで検出が難しい病変もあるが、AIをうまく使いこなして患者の信頼に応えていきたい」と語る。
高齢化が進み、35年には3人に1人が65歳以上になると推計される。医療の担い手不足が深刻化し、AIを使った技術が、医療の効率化と質の維持、向上に役立つと期待が高まる。
アステラス製薬では24年9月、AIを活用して創出した新薬候補が初期段階の臨床試験に入った。独自のAIとロボット技術を駆使して、従来2年程度かかる候補化合物の選定を、7か月で終えることができたという。
人間の経験と勘で新薬候補のたんぱく質などを見つけることが限界に達しつつあることもAI活用の背景にある。24年のノーベル化学賞に、たんぱく質の構造をAIで予測する技術の開発者が選ばれたのも象徴的だ。
AIの医療応用に詳しい中村祐輔・医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府)理事長は「これからの医療にはAIが不可欠になる。小規模な診療所まで一気に普及させる仕掛けが求められる」と指摘する。
AIは進化の途上にある。医療者がAIのミスに気づかず、患者の命が脅かされるリスクもある。「AIの精度に限界があることを医師や患者が学び、上手な使い方を考えていくことも必要だ」と中村氏は話す。