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[エース出陣]<10>スポーツクライミング女子複合 森秋彩 20 茨城県連盟
注目競技の日本のエースたちはどんな戦いを挑もうとしているのか。担当記者が紹介する。
世界のライバルが春先からワールドカップ(W杯)シリーズに出場し、実戦感覚を磨くのとは対照的に、国内での調整に軸足を置いた。今季、W杯に出るようになったのは6月に入ってから。筑波大でスポーツ哲学などを学ぶ学生クライマーは、学業と競技を両立しながら最高峰の舞台に挑む。
昨夏の世界選手権でボルダー・リードの女子複合で3位に入り、五輪切符をつかんだ。8人で争う決勝では、複数ある課題の完登数などで比較するボルダーで6位と出遅れたが、到達高度で競うリードでは誰よりも壁の頂上に迫って巻き返した。それでも「ゴールをつかめなかった悔しさの方が大きかった」。成績に固執せず、壁を登りきるという競技の本質にこだわる心構えがにじんでいた。
その姿勢が揺らいだことがある。2021年東京五輪の代表争いでは、19年に国際連盟が選考基準の解釈を変更する混乱があり、選考レースが打ち切られる形で五輪を逃した。この時期、自分自身も心境に変化があった。周囲の期待に応えたいと考えるあまり、「他人軸な考えに陥って」しまい、一つ一つの試合結果に心が振り回されたという。
一時的に競技から離れることで、自分の気持ちを見つめ直し、幼い頃から取り組んだクライミング本来の楽しみ方や競技との向き合い方を取り戻した。
「(クライミングは)人生をより充実したものにするための一つの要素」と考え、22年秋に主要な国際大会に復帰した後は、海外遠征は大学の講義に影響しない時期にできるだけ絞るという独特の競技生活を送ることにした。精神面にゆとりが生まれ、それがリードでの臨機応変な動きにもつながるという好循環を呼び込んだようだ。
今年2月、5連覇したリードのジャパンカップ(佐賀県)決勝の前半部分。ほとんどの選手が、上部のホールドに向かって両手を離して勢い良く跳んだが、森は右手で別の小さなホールドをつかんだまま左手を上部に伸ばすという、当初の想定とは違う攻略法で突破した。日本代表の安井博志ヘッドコーチは「なかなか(当初の想定から)切り替えられないもの。それを平気でできるのはすごい対応」と感心した。気持ちの余裕を取り戻したからこそ生まれた動きだった。
一度は見失いかけた結果に固執しないという自分の流儀をパリでの本番まで貫く覚悟だ。(大舘司、おわり)
もり・あい 2003年9月17日生まれ。茨城県出身。13歳だった17年の日本選手権リード競技大会で3位に入り、翌18年大会では野口啓代(あきよ)(21年東京五輪銅メダリスト)の3連覇を阻んで優勝し、「天才少女」と注目を集めた。23年世界選手権のリードで男女通じて日本勢初優勝を果たした。
[世界のライバル]ガルンブレト 絶対的
東京五輪金メダルのヤンヤ・ガルンブレト(スロベニア)は近年、ボルダーとリードで表彰台を逃したことはほとんどない。昨年の世界選手権ではボルダーと、ボルダー・リードの複合で2冠を達成し、森が制したリードでも僅差の2位と総合力の高さを見せつけた。東京五輪銀メダルの野中