介護施設送迎車死傷事故、運転の75歳は三つのアルバイトを掛け持ち…年齢7歳偽り採用される

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 さいたま市内の介護施設で昨秋、利用者ら3人が送迎車にはねられ死傷した。運転していた男(75)は借金返済に追われ、三つ目のアルバイト先として介護施設のドライバーを選んだ。慢性的な人手不足から高齢者が高齢者を支えている介護業界の現状も事故の遠因となった。(西部悠大)

介護施設のスロープに乗り上げた送迎車を調べる捜査員。男が運転していた(昨年9月13日午後、さいたま市見沼区で)
介護施設のスロープに乗り上げた送迎車を調べる捜査員。男が運転していた(昨年9月13日午後、さいたま市見沼区で)

 事故を起こした男は、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)などで4月に懲役3年6月の実刑判決を受け、控訴した。

 1審判決によると、男は昨年9月、介護施設駐車場で送迎車のアクセルを誤って踏み、高齢の利用者2人をはねて死亡させ、職員にけがを負わせた。

 公判や関係者によると、男は63歳の時に機械加工会社を定年退職した。貯蓄が少なく、頼れる親族もなかったことから、バス会社と建設会社でのアルバイトを始めた。だが、70歳代前半、200万円以上の借金を背負った。年金を含め当時の月収は約20万円。生活は困窮した。

 三つ目のアルバイト先として見つけたのは介護施設の運転手だった。「どうしても採用されたい」との動機から、面接では年齢を7歳若く偽った。採用後には、生年月日欄を偽造した免許証のコピーを施設側に提出。採用から約2年後、男は事故を起こした。

求人倍率4倍

 様々な業種で人手不足感が強まる中でも、介護業界は深刻だ。厚生労働省によると、昨年度の介護関係の職種の有効求人倍率は4・07倍で、職種全体(1・17倍)を大きく上回った。

 特に、男が採用された2021年夏頃は新型コロナウイルス流行の真っただ中で、家庭内感染の恐れがあることなどから、介護施設に入所を希望する高齢者が多かったという。

 事故が起きた施設の運営会社の神山光代表(53)は「元々人手不足だったが、コロナ禍の特需でより深刻になった。各施設を管理する本部から、人を派遣してもらっている状況だった」と振り返る。

「人を選べない」

 介護業界では職員の高齢化も進む。厚労省のまとめでは昨年、医療・福祉施設などで働く介護職員の平均年齢は44・4歳で、10年前から6歳ほど高くなった。

 さいたま市西区の特別養護老人ホーム「三恵苑」の職員50人の平均年齢は51・7歳。施設長の皆川慎一郎さん(42)は「若い人材が必要だが、求人を出しても応募は少なく、人を選べる状況ではない」とぼやく。夜勤に入ったりと体力仕事も多いが、面接で体力的に問題がないことを確認できれば、採用するという。

 介護施設では利用者の送迎が欠かせない。職員の高齢化によって、事故のリスクが高まっている。警察庁によると、75歳以上の運転者による死亡交通事故は昨年384件発生し、3年連続で増加している。事故原因で多いのがハンドル操作のミスや、アクセルとブレーキの踏み間違いなどだった。

 介護施設職員の高齢化について、淑徳大の結城康博教授(社会保障・福祉)は「仕事を必要とする高齢者が、介護職や運転手といった比較的採用されやすい職種に集中する傾向がある。『高齢者の仕事』との認識が定着してしまうと、さらに若い人が入ってこなくなってしまう」とみている。

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