最初に「いい思い」させて金集め…「怪しいがもうかる」とのめり込み、14枚のカード作成
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農園経営会社「西山ファーム」(岡山県赤磐市)の幹部社員らが詐欺容疑で逮捕された事件。同社はクレジットカードで商品を購入する顧客に2016年4月以降、500万円の「保証金」を預けなければ、返金時に上乗せする利率を3%から1・5%に下げると通告し、金を集め続けていた。
顧客も利益を維持するため求めに応じ、同社は「500万円が無理でも、保証金の額に応じて利率を変える」などとも持ちかけていたという。捜査関係者は「最初に良い思いをさせて客を集め、一気に大きな金を得ようとする巧妙な手口だ」と話す。
愛知県あま市の男性(35)は16年10月から、知人に誘われて商品の購入を始めた。多い月には数百万円分を購入。当初は説明通り、購入代金を超える金額が口座に振り込まれた。
「怪しいがもうかる」とのめり込み、カード決済できる金額を増やすため審査に時間がかからないものなど、14枚のカードを作り、保証金300万円も預けた。
だが、18年秋頃から振り込みが遅れ始め、19年1月には止まった。保証金は戻ったが、カード会社への約1100万円の支払いは残った。返済のため、本業の合間にアルバイトもしたという男性は「思い返せば不審点はいくつもあった。安易に信じ、妻にも迷惑をかけた」とうなだれた。
販売預託商法、原則禁止に
西山ファームの詐欺事件では、20~30歳代の若い世代を中心に被害が広がった。「元本保証で絶対にもうかる」。SNSなどを通じて友人らにそう誘われ、ごく普通の会社員が複数のクレジットカードで数百万円に上る決済を繰り返していた。多額の債務を抱え、自己破産した人もいるという。
顧客に説明していた「商品を買い戻して、海外で転売する」という取引自体が虚偽で、実態は自転車操業だったとみられ、被害者の民事訴訟を担当する正木健司弁護士は「破綻必至であることを隠して勧誘する悪質行為だ」と批判する。
販売した商品や権利を預かって運用する「販売預託商法」は、過去にも多くの消費者トラブルを生んできた。消費者庁によると、その被害は、1980年代以降、計1兆円を超え、同商法による勧誘や契約を原則禁止する預託法が今年6月、国会で可決された。
被害者の中には10枚以上のクレジットカードを所持する顧客もいた。同様の被害を防ぐためカード会社にも発行時の審査の厳格化が求められるだろう。何よりうまい話には飛びつかず、冷静に判断することが肝要だ。(岡花拓也)