脂肪肝、アンチエイジングの大敵
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モナコで今月初旬に開かれた国際的なアンチエイジングの学会で、話題の一つに上ったのが脂肪肝でした。健康診断で脂肪肝を指摘された方も多いと思います。脂肪肝の診断は超音波検査によるものが多いのですが、「ちょっと焼き肉を食べ過ぎたかな」「おなかの脂肪が肝臓にもついているだけだろう」というくらいの軽いノリで受け取っておられる方が多いのではないでしょうか。実は今、脂肪肝がエイジング(老化)に直結し、要注意な状態であることがわかってきました。
お酒を飲む人は減ったが……
実際、脂肪肝は肝硬変、肝臓がんになる危険性がとても高い状態です。これまで肝硬変や肝臓がんの主な原因は、ウイルス、あるいはお酒の飲みすぎと考えられてきました。
しかし、ワクチン接種が広まり治療薬が開発されたことにより、今やウイルス肝炎は急速に減っています。また、厚生労働省が行った2017年(平成29年)国民健康・栄養調査によると、飲酒の習慣(週3回以上、1回あたり1合以上飲む)があると答えた人は全体の20%、10年前の36.6%と比べて16.6ポイント減りました。アルコール摂取量が減少傾向にある中、将来は肝硬変・肝臓がんになる人が劇的に減るのではないかとの期待もあったほどです。外科仲間の間では「肝臓外科はいらなくなる」などといったことも、ささやかれていました。
ところが、ウイルス肝炎でもない、お酒も大して飲まないのに肝硬変や肝臓がんになる人が最近目立っています。これが、脂肪肝が進行した、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれる病態で、国内の推定患者数は最大300万人と言われています。
脂肪肝は血液中の中性脂肪が高いと起こります。肝臓の細胞に脂肪が蓄積すると、肺炎とか胃炎と同じように肝臓の細胞に炎症が起き、正常組織が破壊されてしまうのです。
NASHは、肥満と血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが悪くなった状態が重なった時に起こりやすくなります。メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満をきっかけに脂質異常、高血糖、高血圧となる状態。メタボ)の状態が、やがて脂肪肝となり、NASHへと進行していくのです。しかもその多くは、これといった症状がありません。
男性ホルモンの減少、NASHを招く
最近の研究によって、男性ホルモンと呼ばれるテストステロンが減っている男性に、NASHが起こりやすいことが明らかになっています。韓国で男性1900人を対象に行われた研究によると、NASHの男性の血液テストステロン濃度は、正常な人より少ないという結果が出ました。
テストステロンは筋肉の量と強度を保つのに必要なホルモンです。テストステロンの濃度が低くなると、内臓脂肪が増え、メタボになりやすくなります。また、テストステロン自体が肝臓の細胞のアンチエイジングに貢献している可能性もあります。テストステロンが少ない場合は、ホルモン補充を行うと、脂肪肝やNASHが改善します。
運動習慣のある人は注意が必要
さらに、最近分かったのは、意外にも一生懸命運動をしているアスリートに、脂肪肝になる人が多いことです。多くの場合、運動負荷が過剰のため、テストステロンが筋肉にばかり作用し、他の臓器に向けられなくなることが考えられます。
運動した後に疲れが取れない、よく眠れない、疲労骨折をした、といった場合には、血液中のテストステロンが減っている可能性があります。こうした場合は、運動の強度を再考すること、運動後の栄養の取り方を工夫すること、そして休養をしっかりとることです。
私の患者さんで、毎日1.5時間、筋トレと有酸素運動を行い、果物をたくさん食べている人が脂肪肝と指摘されたことがありました。調べてみると、筋肉はしっかりありますが、中性脂肪の数値が高く、内臓肥満もあり、テストステロンが低い状態でした。
最近の甘みの強い果物には果糖が多く、たくさん摂取すると、健康にいいどころか、中性脂肪が増えます。運動量を減らし、食事をよりバランスをとれたものにすることで、健康状態を改善することができました。
マラソンが好きで月間走行量が多く、果物をたくさん食べている方は、テストステロンが減り、脂肪肝になっていないか、ぜひチェックすることをお勧めします。