日銀保有株増 健全な市場機能が損なわれる
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日本銀行による上場投資信託(ETF)の保有額が膨らみ、株式市場のゆがみを懸念する声が強まっている。
日銀の買い支えから脱却できるよう、政府が市場の活性化策を本気で検討すべき段階を迎えたのではないか。
日銀の2020年9月中間決算で、ETFの保有残高は取得時の価格で約34兆円となり、前年同期と比べて約25%増えた。時価ベースでは40兆円を上回っている。
日銀は10年12月、大規模な金融緩和の一環として、東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価といった株価指数に連動するETFの買い入れを始めた。
その後、徐々に額を増やし、新型コロナウイルスの感染拡大で株価が下がった今年3月には、枠を年6兆円から12兆円に広げた。
投資家の不安を和らげる一定の効果はあったのだろう。だが、日銀が株の主要な買い手となることは、健全ではない。
ETFによって、日銀が10%超の大株主となっている企業は、9月末時点で70社に上る。
先月には、時価でのETF残高が、東証1部の時価総額の約7%に達したという。公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が持つ日本株の総額を抜き、日本最大の株主になったとみられている。
日銀の購入は、指数に組み込まれた銘柄をすべて買うため、業績や成長性などを考慮して行う本来の投資とは異なる。企業価値に応じて株価が決まる市場機能を低下させているのではないか。
金融庁は、一般企業の場合、議決権行使などを通じて株主が監視の目を光らせるよう求めている。日銀にその機能はなく、企業統治の改革を後退させかねない。
欧米主要国の中央銀行も、コロナ対策で金融緩和を拡充しているが、株を購入する例はない。
今後、日本で株価が大きく下落すれば、含み損が生じて日銀の財務が悪化する恐れがある。手じまいのために株を売ると相場を押し下げるため、売却も難しいというジレンマを抱えている。
株式市場の混乱を避けながら、少しずつ手放していく手法を模索するしかあるまい。
日銀に代わる安定的な株主を増やす必要がある。政府は、税制措置などを通じ、家計の金融資産を呼び込む努力を続けるべきだ。
デジタル化や地球温暖化対策の強化で、企業の成長を支援し、自然に株価が上がる本来の経済環境を整えることも大切である。