ツモって笑い、振り込んで泣いた……マージャン漫画の半世紀
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『麻雀漫画50年史』V林田著

作者らインタビュー重ね
手持ちの牌が13枚しかないのに、なぜここまで人の心を揺さぶるのか。点数の低い役から、役満と呼ばれる「国士無双」「
主に専門誌で作品が発表され、本格的な研究はなされてこなかった分野だ。著者の林田さんは「麻雀漫画という辺境ジャンルを記録にとどめておきたかった」と語る。
林田さんはライターとしてSF、鉄道などについての記事を執筆してきた。「もともとコアな麻雀漫画読者ではなかったが、ふとしたことから麻雀漫画の歴史に興味を持ったところ分からないことだらけで気になり、これは直接人に会って通史をまとめるしかないと思った」。約10年にわたって、雑誌や単行本など膨大な資料を収集し、インタビューを積み重ねた。

本書は10年ごとに年代を区切って、代表的な麻雀漫画家と作品の特徴、表現の広がりを論じていく。
1960年代末の阿佐田哲也の小説『麻雀放浪記』のヒットや安価な麻雀牌の生産による麻雀ブームの発生と、当時の青年向け漫画誌の勃興の中で、麻雀をメインに扱う漫画作品が徐々に生まれていった。72年には麻雀を扱う出版社の竹書房が設立され、麻雀漫画誌も各社から創刊された。80年代の一時期は15誌にも及ぶ麻雀漫画誌が存在していたというから驚きだ。
一見日陰者の専門誌の中からも時折、『
片山まさゆき『スーパーヅガン』、かわぐちかいじ『プロ』、嶺岸信明作画・来賀友志原作『あぶれもん』などを例に、捨て牌の省略、腕を振りかぶる誇張など、洗練されていった表現手法も明らかにする。「現実の麻雀はあまり派手な動きがない。漫画として面白く描くために、誇張による盛り上げと省略によるテンポの良い進行を、描き手たちは掘り下げていった」
近年はチーム対抗戦の「Mリーグ」も発足し、盛り上がりを見せている。林田さんによると、Mリーグ発足を受けて、専門誌はMリーグ中心の誌面づくりにシフトするようになり、一方でこれまで麻雀漫画を掲載してこなかったような媒体でも作品が生まれるようになったという。「麻雀漫画は特殊なジャンルではなくなり、一般誌でときどき新作が発表される、普通のジャンルになっていくでしょう」
勝てない男 リアルに…漫画家・片山まさゆきさん

『麻雀漫画50年史』の中で紹介されている『ぎゅわんぶらあ自己中心派』などで知られる片山まさゆきさん(65)に、話を聞いた。
この本で、「麻雀漫画の歴史の中で最も重要な漫画家」と書いてもらい、シンプルにうれしいです。
『スーパーヅガン』は麻雀で勝てない男を主人公にしたのが新しいと言われました。僕自身がよく負けたから、これを描いたら面白いなと思ったんです。80年代はヤング誌がたくさん創刊されて作家が足りなかった。そういうツキもあったと思います。
70年代の麻雀漫画は、大金を賭けたり、命を懸けたりと、スケールのでかい勝負を描くことが多かった。でも、僕はもっとリアルな麻雀を見せたかった。麻雀はどんなに理論を完璧にしても理不尽に負けるゲームです。だから面白さが尽きない。世界最高のボードゲームじゃないでしょうか。
Mリーグが盛り上がっていますが、こんな時代が来るなんて夢のようです。Mリーグの動画が面白すぎて、今後、これを超える麻雀漫画は難しいなあと思うところはあります。
自分が麻雀漫画をメジャーにしたという自負はないんです。漫画家になれて、麻雀の世界に関わっていられることが一番の幸せです。今でも1か月の半分以上の日は打っていますよ。