マスコミを賑わす耐震強度偽造事件。11月29日には衆議院国土交通委員会にて、事件の当事者が一同に参考人招致された。その様子はTV放送されたのだが、実に興味深かった。
正直、この事件に関する情報はあまりフォローしていなかった。ただ漠然と、最も責任が重くまた糾弾されるべきは最終的に検査を通した「イーホームズ」じゃないかと考えていた。
ソフトウェア開発に置き換えてみても、バグを出したコーディング担当者よりもデバッグ工程でバグを見逃した試験担当者の方が問題視されるからだ。
しかし、この事件についてはちょっと考えを改めざるを得ない様だ。
姉歯設計士の偽造に気付き、最初に国交省に通報したのが「イーホームズ」だったとは知らなかった。正直驚いた。
マスコミはこの重要なポイントを軽視しすぎじゃないか?
マスコミの論調と、実際の事件の景色とは大きく隔たりがないか?
確かにイーホームズには検査を通した重大な責任がある。しかし、裏を返せば自らの瑕疵が間違いなく糾弾される不祥事を、自ら告発したという事だ。
いまどき、こういう決断ができる企業は貴重だと思うが。
マスコミの論調を鵜呑みにすると、自ら告発しておきながら責任逃れに終始している事になる。しかし、イーホームズが告発していなかったら事件はおそらく今も発覚していない。何か妙ではないか?
委員会では事件発覚までの詳細な経緯が、イーホームズ藤田東吾氏の証言で明らかになった。いずれ議事録が公表されて細かいやり取りはWEB上でも確認できる様になると思うので、明らかになった事実関係だけを箇条書きにすると以下の様な感じ。
- 姉歯氏の偽造を発見したのは、イーホームズ社内の内部監査での事。
- この内部監査は今年4月から定期的に行っている。
- 内部監査では構造計算検査業務のみならず、他の部門や財務処理など全ての業務をチェックしている
- 監査対象は、基本的に無作為抽出。しかし外部からの情報提供によって監査対象を絞り込む場合もある。
- 今回の場合は後者。ある構造設計士から「姉歯氏要注意」の情報を得て、姉歯氏設計の案件を中心に洗い直した。
- その結果、複数の物件で構造計算書の偽造が判明。
- イーホームズが関連各所に事実確認し、姉歯氏が数年前から常習的に偽造を行っていた事が判明。
- 事態の深刻さを認識したイーホームズが、国土交通省へ通報。
さらに藤田氏は重要な新事実を次々に明かす。
内部監査のきっかけとなった外部からの情報提供について詳細を問われると、
「1年ほど前、姉歯氏の偽造をある検査機関が発見したがその事実は隠蔽されたという情報だった」
という主旨の発言。
さらに「その検査機関名」を具体的に問われると、やや躊躇した後、「日本ERI」の名を明らかに。
この指摘は、ヒューザー社長が圧力をかけたとか、木村建設がリベート貰ったなどという末節の話より遥かに重要だ。委員会で突然名指しされた日本ERIは即座に記者会見を開き隠蔽の事実を否定したが、結局、姉歯氏が関与したという物件の安全性は確認できていない。
他には、藤田氏の以下の発言が印象に残った。
今回私どもが(偽造を)発見してから約一ヶ月近く経ってようやく他の行政でも発見できてきたわけです。それだけ難しいんです。発見するのは。(ここで、開き直るな!等の野次が飛ぶ)
開き直ってなどいるわけではないです。あのー、簡単に見るという事ではなくてですね、
…中略…
構造計算だけでもかなり多岐に渡った検査要件がございます。この(検査要件の)中では発見できなかった。という点では、制度上の問題においては本省の指導の下で改善していかざるを得ないと思っております。
他行政や他機関が出来なかったものを、(イーホームズが)通常見ないところまで見た結果発見できて公表できたという点では、どうかその点だけはご理解頂きたいと思います。
それは民間解放の一つの成果だと、私自身は自負をもっております。
この発言を藤田氏の自己弁護と切り捨てるのは容易い。
しかし、この言葉が何かひっかかる。私には、単なる自己弁護とは思えないのだ。
その主張を裏付ける様に、ここにきて平塚市や台東区、長野県など自治体の検査物件にも次々と偽造が発覚している。
日本ERIが検査した姉歯物件も結局偽造である可能性が高い。
そしてこんな報道もある。以下抜粋。
偽装発見難しい…自治体悲鳴、システム改善求める声も
マンションなどの耐震強度偽装問題で、姉歯建築設計事務所(千葉県市川市)による構造計算書の偽造を見抜けなかった自治体から、「現在の確認システムでは、今回のような偽装を発見するのは難しい」として、政府に対し、建築確認のシステム自体を見直すよう求める声が相次いで上がっている。
再発防止の観点から、検査機関のチェック体制などに加え、建築確認システムの改善についても、国は何らかの対応を迫られそうだ。
…中略…
姉歯秀次・1級建築士(48)は今回、構造計算書の数値を一部変えたうえで、間違った結果が出た時に表示されるエラーの文字を消したり、別の数値を変えたりして、全体につじつまが合うようにしていたとみられている。このため、改ざんは、入力された数値などマニュアルの各ポイントを調べるだけではわからず、実際に数値を打ち込み、再計算して初めて見つかったという。
ただ、「認定プログラムの計算結果を疑うという前提に立つと、今後、検査側は、すべての申請物件について再計算しなくてはならなくなる」(平塚市建築指導課)。それは「事実上、不可能」というのが、各自治体に共通した見方だ。
いずれにしても、姉歯氏やヒューザー小嶋社長の言動はこの事件の本質ではない。いまさら圧力だのリベートなどは、スキャンダルではあっても驚く話ではない。
それよりも、「この事件を発見できたのは民間委託の成果」と言った藤田氏の言葉に真実味を感じてしまう私はバイアスがかかっているのだろうか…
もし今も行政のみが確認検査を行っていたら、と想像した時に、「事件発覚」の場面をどーしても想像できない。
余談になるが、国交委員会の質疑で質問相手を藤田氏に絞り数々の新事実を引き出したのは日本一の子宝議員 馬渕澄夫議員である。GOOD JOB。
今回の馬渕議員の質疑はマジで好感が持てた。いずれ民主党を背負う存在になったりして。