人権擁護法案をめぐる議論はあいかわらず収束しない。もう少し論点が絞れないものだろうかと思うが、いまだに盲人が象を語る風情だ。
あらためて自論を整理しようと思い、現状把握の為の資料を作ってたら結構な量になったので、単独エントリーにしたいと思う。人権擁護法案を取り巻くネット上の勢力や団体、政党の立ち位置を私の独断でMAP化してみた。解説文と併せて、複雑に入り組んだ現状分析を理解する一助になればうれしい。このMAPを基に、次エントリーであらためて人権擁護法案に関する自論を整理する予定。
※MAPはクリックすると拡大します。
※図中の”強硬””穏健”とは、法案に対するコミットメントの強度を表しており、各集合体の持つ性質を意図している訳ではありません。
以下、各勢力・組織について簡単に解説。
1
|
感情的「拒絶」派 | この法案が成立してしまったら日本は滅ぶ、と言わんばかりのトーンで強硬に反対運動を展開するネット上の勢力。最近では有志によるビラ撒きや緊急集会などオフラインの活動まで拡張してきているようだ。ただ、その主張には全体的に法案の誤読や事実からかけ離れた誇大表現が多く、ここにきて行き過ぎたアジテーションに対する批判もでてきた。 ~参考リンク~ 人権擁護(言論弾圧)法案反対! サルでも分かる?人権擁護法案 酔夢ing Voice(西村幸祐氏) |
2
|
論理的「反対」派 | 法案に反対しつつも、感情的過ぎる現状の反対運動とは一定の距離感を保っているネット上の勢力。「反対」の強度はけっこうまちまちで、”ウィークに反対”という人も多い。最近では法案そのものより、法案反対運動の行き過ぎを諌める論調が強まってきた気がする。 ~参考リンク~ カレーとご飯の神隠し:人権擁護法案議論のウソとホント(カリー氏) 若隠居の徒然日記 (若隠居氏) 議論の交差点 (elios氏) |
3
|
客観的「分析」派 | 論理的反対派と立ち位置は近い。法律についての深い知識を持つ人が多く、条文の解釈によるアプローチに主眼を置く。法案の賛否問わず、為になる記事が多い。(特にBewaad氏、an_accused氏のサイトは必見) また、ネット上にもわずかに法案肯定派がいるが、やはり法解釈に長けた層の人が多いので、ここに分類しておく(小倉弁護士など)。 ~参考リンク~ BI@K (Bewaad氏) an_accusedの日記(an_accused氏) IT法のTOP FRONT(小倉秀夫弁護士) |
4
|
自民党推進派 | 「人権問題懇話会(座長古賀誠)」を中心とする自民党内勢力。もし法案が国会提出となれば、あらためて自民党内の推進派勢力が明らかになるだろう。 法案提出のきっかけが古賀氏と解同執行委員長組坂氏との会談であると言われ、それが本法案に対する拒絶反応の一因になっていたりもする。 ~参考リンク~ 自民党公式サイト |
5
|
公明党 | 与党の一員として「人権問題懇話会」にも参加。「今国会中の法案成立」に向けての強い決意を表明している。メディア条項の削除に最も強く抵抗しているが、背景にはこの法案を創価学会バッシング報道に対する抑止力として機能させたい思惑があると思われる。また、国籍条項を設ける事にも強く反発している。 ~参考リンク~ 公明党公式サイト |
6
|
自民党反対派 | 自民党法務部会内では、古川禎久議員や亀井郁夫議員など。他には安倍晋三議員などが反対の意思を明確に表明している。もし法案が国会提出となれば、あらためて自民党内の反対派勢力が明らかになるだろう。 |
7
|
民主党 | 自民党案では手ぬるいとして、人権侵害救済法という対案を発表済。この対案のポイントは、 (1)メディア規制条項の削除 (2)人権委員会を法務省外局とせずに、より独立性を高める の2点。 岡田代表は「今国会での成立を目指す」と明言しており、解同の方針に全面的に従った格好。 ~参考リンク~ 民主党公式サイト |
8
|
共産党 | 言論表現の規制に繋がる、エセ同和行為を助長する事になりかねない、などの理由で、法案に反対の立場を明確にしている。 ~参考リンク~ 日本共産党中央委員会 |
9
|
社民党 | 主張内容としては民主党とほとんど同じなのだが、「自民案では絶対ダメ!」というニュアンスで、微妙に立ち位置が違う。「人権委員会の独立性」に拘っており、法務省の外局とする事に強く抵抗している。しかし、実際に法案が国会に提出されれば、法案成立を優先させる為の妥協は惜しまない可能性が高い。 ~参考リンク~ 社会民主党公式サイト |
10
|
部落解放同盟 (解同) | この法案成立に向けて最も強く働きかけている団体の1つ。「パリ原則」に則った法案を目指しており、その理念は民主党が出した「人権侵害救済法」に反映されている。 人権委員会が法務省外局である事に強く抵抗する理由は、パリ原則の精神に則っていないだけでなく、法務省が「確認・糾弾」について否定的な見解を示している為と思われる。 ~参考リンク~ 部落解放同盟中央本部 |
11
|
創価学会 | 意外にも創価学会が直々にこの法案に関してコメントを発表したりは特にしていない模様。とりあえず公明党の主張をそのまま踏襲すると考えてよいだろう。 ~参考リンク~ 創価学会 公式ホームページ |
12
|
全国人権連 | 被差別部落民の全国組織として特に活発に活動しているのは、解同の他にこの全国地域人権運動総連合(全国人権連)[2004年全解連から改組]と、解同から枝分かれした部落解放同盟全国連合会(全国連)の3つがある。日本共産党系の団体であるこの全解連は、2002年の前回法案提出時から一貫して「国民の「人権救済」に役立たない「人権擁護法案」の廃案を求めます」と主張しており、2005年3月17日には、小泉首相らに人権擁護法案再提出を断念する旨の要請書を提出。解同との立場の違いを鮮明にしている。 ~参考リンク~ 全国地域人権運動総連合 [2005/3/31 修正] |
13
|
全国連 | 部落解放同盟全国連合会(全国連)は、第14回全国大会にて”糾弾闘争を禁止する「人権擁護法案」絶対反対”という特別決議を採択し、明確に反対の立場を表明している。部落差別撤廃という同じ目的に立つはずの3団体のうち、解同以外の2団体がいずれも法案反対である事、そして反対する2団体もその反対理由が全く異なる事を見ても、この法案の複雑な背景が見て取れる。 ~参考リンク~ 部落解放同盟全国連合会 |
14
|
救う会 | 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)は、2005年3月14日”拉致問題の解決に障害となる「人権擁護法案」に断固反対する緊急声明”を出し、人権擁護法案には断固反対の立場を取っている。 しかし、救う会の目的はあくまで「拉致問題解決」であり、今後どの程度法案反対に向けた活動を行うのかは不透明。 ~参考リンク~ 救う会全国協議会 |
15
|
家族会 | 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)から、人権擁護法案について公式のコメントは無い模様。しかし、事実上「救う会」と一体化した活動を行っているので、救う会の見解と大きく異なる事は無いと思う。 |
16
|
朝鮮総連 | 反対論者から騒がれている割には、総連はこの件に関して、実際驚くほどリアクションが薄いし、目立った働きかけも今のところ無い。しかし国連人権委員会などの場で繰り返し日本政府を批判してきた経緯からしても、「賛成派」なのは自明。今後の動向が注目される。 ~参考リンク~ 在日本朝鮮人総聯合会 |
17
|
民潭 | こちらも朝鮮総連同様、人権擁護法案に関してはリアクションが薄い。立場的に「賛成派」である事は間違いないと思うが、竹島問題や地方参政権、教科書問題などに比べて注目度は極端に低い様だ。 ~参考リンク~ 在日本大韓民国民団中央本部 |
18
|
マスメディア | 2002年の時に比べると、メディア条項が凍結されている所為か注目度は低い。新聞では産経新聞だけが反対派に近い論調だが他は総じてそっけない。ジャーナリストに目を転じても、反対するのは「メディア条項の凍結」についてで、議論の噛み合いは悪い。安倍晋三議員がここにきて法案反対の活動を強めており、これをきっかけにしてどの程度世間の耳目が集まるかが今後注目される。 |
本当は日弁連などもMAPに入れたかったんですが、あんまりごちゃごちゃし過ぎてしまったので削除しました。記述誤りなどお気づきの場合、コメント欄等でご連絡いただければありがたいです。
次エントリーに続きます。