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ロッカーズ〜『ハーダー・ゼイ・カム』に続くジャマイカとレゲエを描いた名作

2024.07.18

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『ロッカーズ』(Rockers/1978)


ジャマイカの心臓の鼓動をとらえたレベル・ミュージック=レゲエが、世界に放たれたのは1972年のこと。初の自国製作映画『ハーダー・ゼイ・カム』と、翌年にリリースされることになるザ・ウェイラーズの『Catch a Fire』が録音されたのだ。

ローリング・ストーンズもエリック・クラプトンもスティーヴィー・ワンダーも、この新しい音楽に魅了された。そして映画に主演してサウンドトラックも歌ったジミー・クリフや、ラスタファリアニズムやドレッドロックスを広めたボブ・マーリィらが有名になった。また、イギリスのロンドンやバーミンガムではジャマイカ移民たちをルーツとしたブリティッシュ・レゲエ・シーンが活発化。同時期のパンクやニュー・ウェイヴ(例えばザ・クラッシュやブロンデイやポリスなど)にもその影響は浸透していった。

かつてアメリカのR&Bやソウルに影響を受けながら進化したジャマイカのローカル音楽(スカやロックステディ)だったが、このレゲエによって遂に世界的な音楽へと昇華していく。さらにサウンドシステム/DJ/ダブなどは、今度はNYでのヒップホップ/ラップ誕生への大きな要素にもなった。70年代はレゲエの黄金期でもあった。

そんな1978年、ジャマイカ映画『ロッカーズ』(Rockers)は公開された(アメリカや日本は1980年)。監督はギリシャ出身のテッド・バファルコス。特別な場所と特定の時期の重要性と神秘性を知っていた監督は、レゲエの持つ力をフィルムに収めるべくドキュメンタリーを撮ろうとするが、次第にストーリー性のある映画に取り組むことにした。

登場するのはバーニング・スピア、グレゴリー・アイザックス、ジェイコブ・ミラー(インナー・サークル)といったジャマイカで活躍するミュージシャンたち。みんな実名で出演した。主演を務めたのはリロイ・“ホースマウス”・ウォレス。

バファルコス監督によると、普通の撮影では生じない問題が相次いで起きて苦労したという。出演者の多くはゲットーに暮らしており(NYのそれではなく、掘立小屋が連なる風景をイメージしてほしい)、電話連絡など到底望めない。強烈なジャマイカ訛りの英語(パトワ語)の理解に悪戦苦闘するスタッフ。ロケ隊は金を持っているという噂を聞きつけ、ギャングにピストルで襲撃された夜もあったらしい。

それでも撮影は続けられ、バーニング・スピアが夜の浜辺で歌う名シーンも生まれた。『ハーダー・ゼイ・カム』同様、映画はリゾート開発で作られた楽園地ではなく、成功や夢を胸に抱きながらも、不安定な政情や失業率の高さが原因でゲットーに生きざるを得ない若者たちの姿、貧しいことを決して恥じない人々の姿を力強く描く。

(以下ストーリー・結末含む)
キングストンのゲットーで妻や子供と暮らすホースマウス(リロイ・“ホースマウス”・ウォレス)は、腕のいいドラマーだが、業界の搾取システムのせいで生活苦にある。そこでレコードのスーパーセールスマンになるべく、バイクを購入することを思いつき、仲間たちから金を出資してもらう。赤いバイクにはラスタのシンボルであるライオンをペイントした。

ここでも搾取システムに巻き込まれるが、一方でナイトクラブのバンドの仕事にありつく。しかしある夜、大切なバイクが盗まれる事件が起こり、路頭に迷う。だが実はクラブの守銭奴オーナーや悪徳マネージャーが絡んでおり、ホースマウスは倉庫からバイクを奪い返す。しかしすぐに暴力によって血まみれにされてしまう。

「自分たちを守らなければならない。さもなければいつまでも奴らに搾取され続ける」。そう誓ったホースマウスは、仲間たちの力を借りて仕返しの計画を練る。それはオーナーの家やマネージャーの倉庫から品物や金をすべて奪還すること。そしてゲットーの人々に分け与えること。翌朝、何も知らない妻がそんな光景に興奮している。“徹夜仕事”したホースマウスは「眠らせくれよ」とボヤきなからベッドで寝返りを打つのだった……。

映画のオープニングはナイヤビンギの集会シーン。ラス・マイケル&ザ・サンズ・オブ・ニガスによるパーカッションの鼓動をバックにして語られる言葉が、その後のテーマを示唆していてグッとくる。ラスタファリアンの美学に1ミリたりともブレはない。

ようこそ、皆様に愛を。
私は声を大にして訴えたい。
すべての人に、愛と、あらゆる肌の色の人々の連帯と、
あらゆる国の人々に完全なる自由を訴えたい。
すべての人間が愛によって結ばれ生きるなら、
この世に戦争の危機があろうとも、
解決できない問題は一つもない。
私は訴える。愛こそすべてだ。


サントラ盤には、ピーター・トッシュ、バニー・ウェイラー、バーニング・スピア、ジュニア・マーヴィン、インナー・サークル、アップセッターズ、サード・ワールドなどの楽曲を収録。

●サウンドトラック盤『ロッカーズ』

予告編


『ロッカーズ』

『ロッカーズ』


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*アメリカ公開時ポスター

*参考・引用/『ロッカーズ』DVD特典映像、パンフレット
*このコラムは2019年3月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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