「僕は嫌だ!」
衆院選を前に民進党を飛び出して立憲民主党を結成した枝野幸男代表(53)は、きっとこんな心境だったに違いない。民進党の前原誠司代表(55)=30日に辞任了承=は安倍晋三首相(63)の衆院解散の決断を受け、小池百合子東京都知事(65)が立ち上げた希望の党への合流を決めた。それに反旗を翻したのが枝野氏だった。
衆院選の結果は立憲民主党が公示前の16議席から54議席へと3倍以上に増やし、野党第一党にのし上がる大躍進だった。その枝野氏を勇気づけたのが、作詞家の秋元康氏(59)がプロデュースするアイドルグループ「欅坂(けやきざか)46」の歌だった。
枝野氏は10月1日、衆院選の対応について前原氏と党本部で協議し、物別れに終わった後、こうつぶやいた。
「1人カラオケに行きたいよ。『不協和音』を歌うんだ」
不協和音とは、4月に発売された欅坂46の4枚目のシングル名で、オリコン1位を記録したヒット曲だ。枝野氏の心の叫びを反映したかのような冒頭のセリフもサビに出てくる。
産経新聞が翌2日付でこのエピソードを報じると、テレビのワイドショーが盛んに取り上げ、22日の投開票日に池上彰氏が司会を務めたテレビ東京の特別番組でも紹介された。詳しくは直接曲を聴いてほしいが、集団に流されずに自分は自分らしく行動せよ、というメッセージ性の強い内容となっている。「一度妥協したら死んだも同然」などと過激な言葉が続く。
実はこの歌、民進党が事実上解体する前から枝野氏のお気に入りだった。旧民主党以来の伝統芸であるバラバラ感を継承した民進党は、まさに「不協和音」の連続で、枝野氏は発売当時、周囲に「これは民進党のテーマ曲だね」と自嘲気味に語っていた。民進党の希望の党への合流という局面で枝野氏の決断を後押しすることになったのは、なんとも皮肉だ。
余談だが、枝野氏は政界随一の歌唱力を誇る。出身地の宇都宮市で過ごした中学生時代、所属した合唱部はNHK全国学校音楽コンクールで2年連続で優勝を果たしている。生徒会長としてインタビューにも応じた。
合流に異を唱えなかった枝野氏ら
ともあれ、憲法改正の議論や安全保障法制の容認といった希望の党の「踏み絵」を嫌った枝野氏は自ら新党を立ち上げた-。と書くと、美談のように聞こえる。リベラル・左派の星のように扱われた枝野氏には「筋を通した」「本物の男」といった称賛がわき起こり、立憲民主党躍進の原動力の一因になったようだ。
果たしてそうだろうか。実相は9月29日の記者会見で「リベラルを排除する」と明言した小池氏に切られたのだ。前原氏が希望の党への合流を提案した9月28日の民進党両院議員総会で、枝野氏を含め合流に誰も異を唱えずに全会一致で了承した。枝野氏は少なくともその時点で希望の党への合流に反対しなかったことは紛れもない事実だ。立憲民主党代表代行の長妻昭氏、幹事長の福山哲郎氏、国対委員長の辻元清美氏しかり。