退任間際のバイデン米大統領が日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を阻止する命令を出したことを巡り、USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は3日(現地時間)、世界最大の鉄鋼生産国である中国を念頭に「北京の中国共産党指導者たちは路上で小躍りして(喜んで)いる」とコメントし、「政治的腐敗と戦う」と痛烈に非難した。「日本を侮辱した」と断じており、日本のSNSでも注目された。全米鉄鋼労働組合(USW)はバイデン氏を支持しており、買収される現場と業界団体や政治家など「外野」との温度差は広がるばかりだ。
ブリットCEOはコメントでバイデン氏の決定を「恥ずべき腐敗行為」と断罪。「わが社の将来、労働者、そして国家安全保障に損害を与えた」と激怒した。「重要な経済および国家安全保障同盟国である日本を侮辱し、米国の競争力を危険にさらした」と日米関係への影響にも言及した。
一方、買収に反対の立場をとるUSWのマッコール会長は「決定を歓迎する」との声明を発表している。マッコール氏は日鉄が不当廉売で「米国の国内産業を弱体化させるために働いてきた」と主張。USスチールに対しては「良質な雇用、健全な地域社会、強固な国家と経済安全保障を支え続けると確信している」とした。
USスチールは日鉄による買収の正当性を訴え、買収が実現しなければ、製鉄所の閉鎖や本社移転を示唆してきた。地域経済や雇用を維持するため、地元市長や従業員にも買収賛成が広がっていた。
日鉄の買収がとん挫すれば、経営再建の道のりは険しいものとなり、製鉄所の閉鎖などによる大量解雇が現実味を帯びる。日鉄に入札で競り負けた競合の米クリーブランド・クリフスが買収に意欲を示すものの、高炉や一部の製品で100%近いシェアとなるため、競争法上のハードルは高い。実現したとしても、クリフスの投資余力が十分とはいえず、大幅な事業再編は必至で、いずれにしても雇用維持は困難となる。
買収できなかった場合、日鉄はUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う契約となっている。日鉄は米政府の命令が法令違反に当たるとして、米政府を提訴する方針。昨年11月の米大統領選では、USWの集票力に期待して、共和党のトランプ次期大統領も買収に反対の姿勢を示していただけに、今回の決定は尾を引くことは避けられず、今後の日米関係にも影を落とす。(高木克聡)