東京都の調布飛行場から離陸した自家用小型飛行機が民家に墜落し、機長らと住民の計3人が死亡した事故は、26日で発生から1年が経過した。鍵とみられていたエンジンの解析で異常は見つからず、原因究明にはなお時間がかかる見通しだが、空港を運営する都は6月、一部の自家用機の運航を再開する意向を示した。近隣住民らは家屋の改修費用などの補償もほとんど受けていない状態で、強く反発している。
「修理に数百万円」
「自宅の修理に数百万円かかったが、補償も謝罪もない」。墜落した小型機の爆発で自宅の2階窓が割れ、雨どいが溶けるなどした山本高さん(89)はこう訴える。事故発生時、自宅1階でくつろいでいたところに突然、「ドーン」という爆音と振動に襲われた。「だめかと思った」。小型機は向かいの一軒家に突っ込み爆発。反対側から屋外に出て難を逃れたが、消火後、玄関前の壁に据えられていた消火器が溶けて固まっていた。すんでのところで命拾いしたと体が震えた。
改修費用は調布市が返済据え置きの無利子で貸してくれたが、事故機を操縦していた川村泰史機長=当時(36)=は死亡。管理・整備していた「日本エアロテック」(調布市)からは謝罪も受けていない。「せめて原因が分かるまで(自家用機の)運航再開は許せない」という。
エンジン異常なし
一方、日本エアロテックは、事故機の整備に問題はなかったとしている。同社側は「事故直後、一部の被害者に代理人を通じて見舞金を支払った。被害者への対応は都と協議をしながら進めている」と説明する。航空機保険は事故の責任者が確定しないと申請できないため、原因判明を待って本格対応に当たる方針だ。
事故原因をめぐっては、小型機の搭乗者5人の体重や燃料を含めた総重量、気温34度という当時の気象条件など、複数の可能性が挙げられていた。だが、運輸安全委員会は離陸の様子が写った映像などから、上昇に必要な速度は十分確保できていたとみている。
安全委は、事故機のエンジンを米国に運び、メーカーなどに解析を依頼。エンジン内に燃え残った燃料まで調べたが、異常は見つからなかった。現在は当時の映像などから墜落状況をシミュレーションするなどして調査を進めている。
生存者から聴取も
安全委とともに原因究明にあたる警視庁調布署捜査本部によると、事故直後は重傷を負っていて接触できなかった1人を含め、生存している搭乗者3人全員から聴取したが、離陸前後のトラブルについての有力な証言は得られなかった。
国土交通省によると、川村機長は平成18年に操縦士免許を取得し、総飛行時間は約1500時間以上。技量が極端に乏しいわけではない。事故機は操縦技術の維持を図る「慣熟飛行」として伊豆大島へ向かう予定だったが、調布飛行場では禁止されている「遊覧飛行」だった可能性も指摘された。都は慣熟飛行の搭乗者を制限するなどの方針を示すとともに、操縦士の安全講習会の強化などの再発防止策を講じた。
離島を結ぶ定期便と測量などの事業用機はすでに運航を再開している。都は19機ある自家用機の離着陸について自粛を求めてきたが、6月、整備や技量維持が目的の場合には一部認める方針を提示した。近隣住民はこれに反対する署名運動を展開。「『慣熟飛行』という名の『遊覧飛行』へのチェックが甘かった都にも責任がある」との声も。自家用機の運航再開をめぐる議論は長引きそうだ。
東京・調布の小型機墜落
昨年7月26日、5人が乗った小型プロペラ機パイパーPA46が調布飛行場を離陸直後、南東約500メートルにある東京都調布市の住宅街に墜落した。操縦していた男性機長と搭乗者の男性、住宅にいて巻き込まれた女性の計3人が死亡、小型機の3人と住宅の2人が重軽傷を負った。住宅1棟が全焼、9棟が一部を焼損するなどした。