ゆうちょ銀行のATMコーナーで無料配布されている同行の現金用封筒が持ち去られ、転売される事例が相次いでいるとして、同行が注意喚起の掲示を検討していることが8日、分かった。大手フリマサイトでは封筒が100枚単位で出品されているケースもあり、専門家は悪質な持ち去り行為は法的責任を問われる可能性があると指摘する。
フリマサイト「メルカリ」には、大手都市銀行や地方銀行を問わず、複数の封筒が出品。数枚を300円程度で売ったり、100枚を1千円程度で売ったりとさまざまで、すでに売り切れている出品も多く確認された。期間限定で配布されたものや、キャラクターがデザインされた封筒は、より高値で取引されている事例も見られた。
ゆうちょ銀行によると、ATMに設置されている封筒が通常よりも早く減ることを社員が確認しているほか、利用客からも「封筒がない」という声が寄せられているという。こうした事案は以前から発生しており、大量の持ち去りの発生に対する注意喚起の掲示などの設置を検討しているという。
ゆうちょ銀行のATMでは今後も封筒の無料配布は継続する意向を示しているが、担当者は「(封筒は)お客さまの利便性を考慮して提供しているもの。必要以上の持ち去りや転売行為は控えていただきたい」と注意を呼び掛けている。
「窃盗」「偽計業務妨害」に当たる可能性も
本来の目的から逸脱した悪質な配布物の持ち去り行為は法的責任を問われる可能性もある。京都弁護士会はこうした行為の刑事的責任として、主に「窃盗」と「偽計業務妨害」の2つの罪が問われる可能性を指摘する。
同会によると、ATM備え付けの封筒は無料ではあるものの、誰のものでもない「無主物」ではなく、顧客の利便性のために提供される銀行の所有物と考えられる。「ご自由にお取りください」とされていても、あくまで銀行の利用者が常識の範囲内で使うことを想定されており、転売目的に大量に持ち去る行為は銀行が許容する範囲を逸脱していると考えられ、窃盗罪が成立する可能性がある。
また、持ち去りによって封筒が枯渇し、他の利用者から苦情が寄せられたり、封筒の補充業務が増えるなどの事態が起これば、銀行の正常な業務を妨害したとして偽計業務妨害に当たる可能性もあるとする。加えて、封筒を盗むという目的でATMコーナーに入った場合には建造物侵入罪が成立する余地もあるという。
こうした事例はATMの備え付け封筒に限らない。特定の目的のもとに無料配布されている具体例として、ホテルのアメニティーやフリーペーパー、試供品なども挙げられる。一方でごみ捨て場に「ご自由にどうぞ」などと書かれた不用品は所有権が廃棄されているため持ち去っても原則、窃盗には当たらない。
無料配布物の大量取得の線引きを明確にするのは難しいが、転売や嫌がらせが目的であれば、その違法性は高まるとも指摘。また、配布物がATMコーナーや施設内に置かれている場合には、管理権者の占有が明確に残っているため、窃盗罪に問われるリスクも高まるという。




