来年は丙午(ひのえうま) 過去には迷信で〝産み控え〟 少子化加速回避へ「啓発が必要」

令和6年の1年間の日本人の子供の出生数は、初めて70万人を割り込む見通しだ。政府は2030年代にはいるまでを少子化傾向を反転させるラストチャンスと位置付けるが、状況は極めて厳しい。1年後に訪れる来年(令和8年)の干支は60年に一度の丙午(ひのえうま)。前回の丙午では迷信が理由となり子供の産み控えが起きた。交流サイト(SNS)などで迷信が拡散すれば少子化対策の障壁となる可能性もある。1年間かけて対策を取る必要がありそうだ。

前回は出生数に直撃

「政府は丙午に関する対策を講じる用意はあるか」。昨年12月、立憲民主党の桜井周衆院議員は質問主意書で政府の方針をただした。政府の答弁書は「今後とも少子化対策として必要な対策を検討したい」とするにとどめた。

古来、丙午生まれの女性は「気性が激しく夫の命を縮める」などと流布されてきた。丙午の年に火事が多かったという説や、江戸時代に恋人に会いたい一心で放火事件を起こし火刑に処せられた「八百屋お七」が丙午の生まれだという説が基になったとされる。

江戸時代に浄瑠璃や歌舞伎によって大衆に広がり、前回の丙午の年に当たる昭和41年の出生数にも直撃した。この年の出生数は約136万人で、前年の約182万人より約46万人の減少。翌年には約193万人と回復している。出産を考えていた夫婦が迷信を理由に丙午の出産を避け、後ろ倒ししたためとみられる。

産み控えなら影響深刻

ただ、迷信は時代とともに薄れており、少子化や人口問題に詳しい日本総研の藤波匠上席主任研究員は「若者世代は丙午の迷信自体も知らない人も多く、令和8年は前回の昭和41年ほど迷信の影響が顕在化することはないだろう」と予測する。だが「若者たちは意識しなくても、親や周囲が気にする可能性もある」と指摘。丙午に関し、SNSで根拠のない噂が再燃したり、同調圧力が広まったりする懸念もあるという。

迷信が広まった場合の影響は、前回よりも深刻になる可能性がある。前回の丙午の41年に比べ、現代は晩婚化・晩産化が進んでいるからだ。当時は25・7歳だった第一子平均出産年齢は、令和5年には31・0歳になった。仮に迷信で産み控えが生じれば、高齢を理由に出産をあきらめるなどし、夫婦の最終的な出生子供数である「完結出生児数」に影響する可能性がある。

藤波氏の試算では、6年の出生数は前年比5・8%減の68・5万人になると見込む。夫婦共働き世帯が増え、女性がキャリアを考慮しながら産休・育休を取れる期間と出産適齢期が合致する期間は非常に短い。藤波氏は「女性も男性も、出産を後ろ倒しすることの悪影響をしっかり認識してほしい。丙午は迷信だと啓発することが大切だ」と話した。(當銘梨夏)

令和8年は60年ぶりの丙午(ひのえうま) 産み控えに「必要な対策を検討」 政府答弁書

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