衆院が9日午後、解散された。与野党が経済政策の要と訴えるのが最低賃金の引き上げで、「時給1500円」を目標に据える。ただ、自民や公明の主張のように2020年代に達成するには、年平均で89円という大きな額の引き上げが必要だ。企業の人件費の急激な膨張につながり、体力が弱い中小の製造業が集中する関西の経済には逆風となりかねない。中小の倒産や経営悪化が広がれば、働く多くの人の暮らしも苦境に追い込まれる。
石破茂首相は1日の記者会見で「20年代に最低賃金の全国平均1500円への引き上げを目指す」と述べた。公明は公約で「5年以内の最低賃金1500円達成」を掲げ、立民も「最低賃金1500円以上」とする。働く人の所得を増やし、消費を刺激して経済を強める狙いがある。
ただ、1日から適用が始まった令和6年度の最低賃金(時給)は全国平均で1055円。関西は大阪府が1114円、京都府が1058円だ。全国平均を2020年代(5年以内)に1500円まで上げるには年平均の引き上げ額が、過去最高だった令和6年度の51円を大きく上回る必要がある。専門家は「無理な目標」(第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミスト)と指摘。大阪市で飲食店を経営する男性(42)は「急激な引き上げには対応できない」とこぼす。
とくに関西経済は中小が牽引。中小が多い製造業の大阪府内の事業所数は5年時点で1万8604と全国1位だ。中小で働く人の比率も高く、人件費増が中小の経営の打撃となれば、倒産による失業など、少なからぬ人に悪影響が出かねない。
もっとも、当面2%台と見込まれる物価上昇率を超える引き上げは必要との見方は多い。それには中小が人件費増などを製品価格に転嫁できる環境整備が必要となる。
デジタル化、省力化などによる収益力強化も求められる。あるメーカーの後継者(36)は「高価格でも勝負できる高付加価値の製品を作り、利益を最低賃金の引き上げに回せるようにしたい」と意欲的だ。
永浜氏は「こうした取り組みへの政府の支援が重要」と指摘する。経営改革に向けた設備投資への助成金や、単独で最低賃金を上げられない企業のM&A(合併・買収)への税優遇などのこれまでの施策を続け、「こうした施策の周知もしなければならない」とする。(山口暢彦)