政府・与党は、防衛力強化の財源と位置付けるたばこ税の増税について、2026年度に加熱式たばこの税率を引き上げ、紙巻きたばこと同じ水準にする方向で検討している。これを受け加熱式は最大100円の値上げが想定され、27年度以降の紙巻きを含むたばこ税の増税でさらに値上げされる可能性もある。煙が出ず、紙巻きに比べて健康リスクが低い加熱式は、海外では紙巻きよりも税率が低い。そうした流れに逆行するかのように政府が税差解消を進める背景には、国内販売の大半を紙巻きに頼る日本たばこ産業(JT)と葉タバコ農家への配慮が垣間見える。
需要が減る紙巻きたばこ
「まずは加熱式たばこと紙巻きたばこの税負担差を完全に解消いただき、その後、さらにたばこ税率の引き上げを行う必要がある場合、これまで以上に、小幅かつ段階的な実施としていただきたい」
11月26日に自民党の「たばこ議員連盟」がまとめた来年度税制改正に関する要望には、こうした文言が強調された。紙巻き需要の減少に伴い国内の葉タバコ農家が10年間で約3分の1に激減したことや、加熱式たばこが国内たばこ総需要の約40%のシェアに到達する見込みを列挙。窮状を示し、紙巻きたばこに配慮した税制改正の実施を求めた。
議連には自民の税制調査会の幹部も入っており、政府・与党の税制改正で同議連の要求はこれまでも強い影響力を及ぼしてきた。来年度の税制改正も、同議連の要望通りに制度設計が進むのが「ほぼ既定路線」(与党税調幹部)とみられる。
背景にあるのが、政府(財務相)が約3分の1の株式を保有するJTの存在だ。同社の23年度の国内外のたばこ販売は、紙巻きの5313億本に対し、加熱式はわずか88億本にとどまり、「加熱式の増税による、ユーザーの紙巻き回帰を狙った税制改正」(大手たばこ幹部)との臆測もある。
また、JTはたばこ事業法に基づき、国内農家が生産した葉タバコを全量買い取っている。「農家保護や政府の利益を考えれば、JTが優位になる制度設計にするのは当然」(同)との見方が業界内で広がる。
加熱式の増税は世界に逆行
こうした動きに反発しているのが、加熱式たばこで先行する米フィリップモリスインターナショナル(PMI)など海外たばこ大手だ。とりわけ、「アイコス」のブランドで国内加熱式たばこ市場の約7割のシェアを持つPMIにとって、今回の加熱式の増税は「メーカーやユーザーにも大きなインパクトを及ぼす内容」(フィリップモリスジャパン、PMJの小林献一副社長)と頭を抱える。
JTによると、紙巻きたばこ1箱(20本入り)580円のうち、税金が占める割合は61・7%(357・6円)。このうち消費税を除いた国・地方のたばこ税とたばこ特別税を含む「たばこ税」は約305円だ。
一方、葉タバコの含有量が少ない加熱式にかかるたばこ税は約220~270円で、紙巻の7~9割に抑えられている。来年度の税制改正では、この税差を26年度に解消する方針が示される見通しだ。PMJの試算では、この税差解消で、加熱式の価格は1箱当たり54~104円の値上げが想定される。27年度からは2年間かけて1本当たり約2円の増税が見込まれ、さらなる値上げは不可避だ。
紙巻きに比べ健康被害を抑えられる加熱式は、欧州では紙巻きよりも50~60%税率を低く設定している。今回の政府の増税方針はこうした対応とは相反するものの、「同種・同等のものには同様の負担を求める消費課税の基本的考え方」(24年度税制改正大綱)との論理で、紙巻きと加熱式は「同質の嗜好品」として〝ひとくくり〟に考えている。
「たばこ増税というインパクトあることが、多くの人が知らない中で決められるのは、いかがなものか」と小林氏は、政府の税制改正スキームに対しても苦言を呈す。PMJは加熱式の需要が落ちこまないような価格戦略を検討していく方針としている。