大阪府で4月から高校授業料が段階的に無償化される影響を受け、受験生の公立離れが加速している。大阪府内では今年、私立高を第1志望とする専願者は31・64%となり、過去20年で初めて3割を超えた。一方、公立高志願者は現行の入試制度が始まった平成28年度以降最少となり、府内公立高の半数近い70校が定員割れとなる事態に。大阪の教育界は無償化ショックの波紋が広がっている。
大阪府の授業料無償化は府内のすべての生徒が対象。家庭の収入に左右されることなく進路選択がしやすいとあって、生徒や保護者からは歓迎の声があがっている。
ただ、私立人気の高まりの半面、公立は一気に不人気に。今年の公立高の一般選抜志願者数は全日制課程で3万6379人で、昨年から2375人減少した。
府内公立高校の一般選抜の平均倍率は1・05倍(昨年1・13倍)。倍率が一番高かった豊中高校で1・57倍だったが、最も少ない生野工業の倍率は0・35倍にとどまった。
大阪府では公立高の統廃合をめぐって条例で定められた独自のルールがあり、定員割れが3年連続で続き、改善の見込みがないと判断されると統廃合の検討対象となる。
夜間の定時制と通信制をのぞく府内公立高145校のうち半数近い70校が定員割れしており、今年のような状況が続けば、大阪の公立高は今後、大きく数を減らす可能性があるという。実際、平成26年度から令和5年度までに18校の統廃合が決定している。
こうした状況に危機感を募らせているのは、府教育庁だ。
府教育庁の担当者は3月6日に発表された公立高校一般選抜の志願者数には「庁内に激震が走った」と振り返る。「私立人気が高まることは予想されていたが、まさかこれほどまでとは…」というのだ。
3月下旬に開かれた大阪府学校教育審議会では、府の橋本正司教育長は府立高入試の現状について「生徒のさまざまなニーズに応えられるよう選抜の日程を考えていく必要がある」と発言した。
大阪の私学入試は2月上旬、公立入試は3月上旬というスケジュール。「早めに進路を決めたい」というニーズで私学を選ぶ生徒もおり、試験日程を早めたほうがよいのではないか、という意見があるという。
府教育庁の担当者ら関係者の間でも「現行制度の入試では需要に応えられない」という声が噴出しているといい、今後、学教審の場などを通じて公立高入試の日程変更のほか、広報戦略などについて議論を進めていくという。
こうした私学人気の高まりについて、大阪府の吉村洋文知事は「いままで経済的な事情で私学を選択できなかったこどもたちが選択できるようになった結果」と指摘。「公立高校も切磋琢磨しながら教育の質を高めることに取り組んでもらいたい」と話している。(木ノ下めぐみ)
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私立に偏りは不健全 小入羽秀敬・帝京大准教授(教育行政学)の話
大阪府の高校授業料無償化は全国で無償化議論をより進めるきっかけになった。自治体間の格差など議論すべき点は多いが、国や自治体が協議し解消に向けて動ければ、よりよい制度になるだろう。
ただ、公私で授業料の差が無ければ、設備面などで私立が有利になりがちだ。大阪府では定員割れの3年ルールがある。
これを厳密に運用すれば、今後公立は大きく数を減らす可能性がある。
教育の空白地帯を作らないセーフティネットとしての公立の役割も見過ごせない。授業料は無償でも、私立は他にも費用がかかる。公立が無くなれば、経済的事情で公立を選ぼうにも自宅の近くに公立がないという事態が起こるのは良くない。
大阪府内の高校が私立に偏ってしまう状況になるのは健全とはいえないだろう。公私が切磋琢磨できる状態をつくるには、公立に対しても行政による手厚い予算措置が必要になる。
◆大阪府の高校無償化 従来の制度で設けられていた世帯収入の上限を撤廃。府民すべてを対象に私立高の年間授業料を最大63万円まで公費で賄い、超過分を学校が負担する。無償化が適用されるのは、制度に参加することを表明した学校は通信制や専修学校なども含め、府内132校、府外は和歌山や兵庫など25校の学校で適用される。府外の生徒が府内に通学する場合は適用されない。令和6年度から段階的に対象となる学年を広げ、8年度にはすべての学年で適用される予定。