「デマに科学的な反論を」処理水放出 東京大大学院 開沼博准教授

東京大学大学院情報学環の開沼博准教授(開沼氏提供)
東京大学大学院情報学環の開沼博准教授(開沼氏提供)

東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を巡り、福島の被災地を研究する社会学者で東京大学大学院情報学環准教授の開沼博氏が4日、産経新聞の取材に応じ、「風評被害には科学的な反論が必要だ」と指摘した。

国際原子力機関(IAEA)が放出計画の安全性に関する包括報告書を提示した。専門家の多様な視点を踏まえた客観的な報告書の意義は大きい。処理水は国内から外交問題に軸足が移っている。懸念を示す関係各国にとって、参照できる科学的な共通基盤となる。

処理水の放出について「議論が足りない」と批判するのは誤りだ。平成25年12月以降、経済産業省のトリチウム水タスクフォースや小委員会で、専門家が処理方法について議論を積み重ねてきた。

処理水に関する正確な情報の共有は確実に進んでいる。だが、風評被害は起こり得る。処理水を巡るデマに対し、一番のインフルエンサーは政治家だ。政治が前面に立ち、継続的な情報発信を通じて、偏った考えが固定化されることを避けてほしい。

政府と東電は27年に福島県漁連に対し「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と伝えた。そのため、福島の漁業者の対応に焦点が当たっているが、漁業者に「決定権」を押し付けてはいけない。漁業者は処理水が人や環境に害がないことを理解しても、放出に反対する姿勢を崩すことはできない状況だ。政治の責任で放出を決めねばならない。

処理水を巡る社会の不安を漠然と見ていてはダメだ。北朝鮮の工作機関が韓国の協力者に対し、処理水問題に絡めて韓国世論の扇動を指示したことが韓国当局の捜査で判明している。純朴な不安につけ込み悪意をもって、フェイクニュースを流している団体は海外にも国内にも存在する。

風評で被害が起きるならば、風評で加害がある。韓国の漁業者は処理水の放出について科学的根拠を欠いた意見を表明する専門家を業務妨害で告訴した。日本も科学的に反論する姿勢がそろそろ必要ではないか。 メディアが風評を生み出し、被災者が困ってしまう状況を作り出しているといった問題意識を持つ人は多い。令和3、4年に処理水や風評について1500人にアンケート調査を行った所、「福島への偏見・差別の原因」を尋ねた設問で「マスメディア」と答えた人は1番多く、「SNS」「政府・行政」「東京電力」を上回った。不安を増幅させ、全体像をゆがめさせるような報じ方は厳に慎むべきだ。(聞き手 奥原慎平)

福島第1処理水の海洋放出、IAEA「国際的安全基準に合致」と報告

会員限定記事

会員サービス詳細