難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者への嘱託殺人罪などで起訴された元医師、山本直樹被告(45)は16日、精神疾患だった自身の父親=当時(77)=を殺害したとする殺人罪の裁判員裁判で被告人質問に臨み、共犯として起訴されている知人で医師の大久保愉一(よしかず)被告(44)の提案で医師免許を不正取得したと告白。「秘密を共有する関係だった」と後ろめたさがあったことを示唆した。父親殺害の計画には関わったが最終的に離脱し、大久保被告の単独犯として無罪を主張している。京都地裁で行われた被告人質問の弁護人との主なやりとりは次の通り。
--幼いころ、父親はどんな人だったか
「普段は温厚な人だったが、精神疾患の症状が出るとまるで別人のような乱暴な言動をとった。タクシーの無賃乗車や食い逃げ、母に包丁を突き付けるなど、枚挙にいとまがない」
--自身の経歴は
「兵庫県の灘中高を卒業後、浪人生活を経て東京医科歯科大に入学した」
〈大久保被告との関係について〉
--医学生時代の平成14年に知人を通じて知り合った。
「年は大久保被告が1つ下だが、出会った翌年に彼は厚生労働省に医系技官として入省した。志が高くないと目指さない仕事だし、採用もされない。勉強熱心で真面目で、非常に尊敬というか、一目置く存在だった」
--平成18年に東京医科歯科大を退学した。なぜか
「入院していた父親が大学に私を名指しして電話をかけてきて、同姓同名の教授に誤ってつながり、暴言を吐いた。その件について呼び出しを受け、進級に必要な単位をとれずに留年した。学費免除の条件で通っていたが、留年すると学費を支払う必要があり、経済的に厳しくなった」
「医師免許、持っていて損ないからとっとけ」
--退学して受験資格がないはずなのに、平成22年に医師免許の国家試験に合格している。どうやって受験資格を得たのか
「恥ずかしく申し訳ないことだが、大久保被告の提案で、韓国の医大を卒業したという噓の書類を厚労省に提出して資格を得た」
--大久保被告は当時、厚労省で受験資格の認定を行う部署にいた。なぜ大久保被告はそんな提案をしたのか心当たりは
「正直分からないが、『免許持っていて損をすることはないからとっとけ』といわれた。不正のやり方は全部彼から教えてもらった」
--この出来事は、2人の関係にどう影響したか
「秘密を共有しなければいけなくなったというか、そういう関係になったのは間違いない」
--国家試験の受験に臨んでいた平成22年当時、父親にはどういう感情を持っていたか
「(しばらく沈黙したのち)いい感情を持っていなかったのは事実。早く寿命を迎えてくれないかなと、私も母も思っていた」
--それはなぜか
「長いこと苦しめられ、迷惑をこうむってきた。特に母は」
--父親のことについて大久保被告に話すことがあった
「『認知症がひどくて振り回されている、受験勉強に集中できない』と話したことがあった。『いい入院先の病院を知らないか』と聞くと、大久保被告は『俺が主治医だったら片付けてあげるのに』と言っていた」
--「片付ける」とはどういう意味か
「絶命させるという意味だと思った。このときは冗談半分で聞き流していた」
「胃ろう絶対だめ」「生きるしかばね作るな」
〈平成22年夏以降の出来事について〉
--父親の健康状態に変化があった
「誤嚥のリスクを減らすため、主治医から胃ろうを作ったほうがいいという話があった」
「大久保被告は『胃ろうなんて絶対だめだ』と言っていた。『生きるしかばねを作るようなことは絶対にするな』と」
--平成22年ごろ、大久保被告と会って話をした
「『(父親を)自分がバイトしている病院に転院させたら片付けてやる』『合法的に寿命を迎えさせてやる』と言っていた。私はめんどくさい、そんなことまでしなくていいと断った」
--大久保被告はすぐにあきらめなかった
「『転院させるくらい簡単だろ』『医者になったんだから、医療費をむさぼっているだけのじいさん(父親)に心が痛まないのか』とも言っていた」