リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

平和はカネで買える。商業的平和論(Capitalist Peace )のはじまり

ブログのタイトルに関わらず、リベラリズムの話をします。

 ã“れから2回にわたり、商業的平和論について簡単な紹介をします。商業的平和論とは、経済発展が世界を平和にするという理論です。

商業的平和論の思想的起源

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 è²¿æ˜“や商業の発展が、世界を平和にするという考えは昔からあり、多くの大学者がこれを説いてきました。

モンテスキューやアダム・スミスは、市場は戦争を嫌うと説きました。戦争になれば、交戦国の間では自由な商取引ができなくなるからです。トマス・ペインは「商業は、愛国心と国防の2つの気運を減退させる」としています。

マンチェスター派の台頭

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わけても有名なのはコブデンとブライトの「マンチェスター派」。1839年に結成され、自由貿易を強力に推進した集団です。

指導者たるコブデンとブライトは、貿易の経済的メリットだけでなく、思想的な正義を訴えました。貿易こそ平和への道だというのです。

それ以前の英国は、植民地主義の時代です。軍艦をたくさん作り、武力で植民地を作り、そこの資源や作物を独占するから、儲かる。海軍拡張が植民地経済を発展させる、という論理です。

マンチェスター学派はこの逆を説きました。軍拡は増税をもたらし、増税は英国の産業から競争力を奪います。軍艦をバックにした貿易は英国商人を傲慢にし、経営努力を怠らせます。

「自由貿易原理の本来の意図を真に理解している者がいかに少ないことか。ヨークシャーやランカシャーの製造業者たちは、インドや中国を、武力によってのみ開放がなしうる企業活動の領域とみなしている」

として、武力で植民地を支配するよりも、平和的な自由貿易の方が儲かるんだと説きました。世界で最も安い原材料をどこからか買い、英国の優れた技術で製品をつくって、世界の市場に売れば済むこと。軍隊も戦争も、ムダなコストなのです。

かくてマンチェスター派は、自由貿易による商業の発展を、経済的にのみならず、道徳的にも正しいのだと意義付けました。こうして彼らは、帝国主義や戦争に強く反対し、貿易こそ平和への道だと説きました。

ノーマン・エンジェルの議論

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正義ではなく、実利こそが平和をもたらすとする議論は、19世紀のノーマン・エンジェルに至って成熟します。

貿易はますます盛んになり、ある国の経済は他国のそれと密接につながります。相互依存の高まりです。平和な関係と、自由な貿易こそが、繁栄の土台になりました。

このような時代にあって、エンジェルは「ある国家が他国の富や貿易を、武力によって奪いとることは、もはや不可能になった」とし、「もはや戦争は、それが勝利に終わるものでさえ、人々が得ようとする目的を達成できない」と説きました。

エンジェルの優れた点は、経済発展が平和に貢献するプロセスを説明したところです。

グローバル化の進展

エンジェルが強調するのはグローバル化の進展です。世界の市場の統合が進んだことにより、戦争の有害性が高まりました。

金融面の相互依存が高まったことで、ある国の経済がダメージを受けると、それが世界経済に影響を与えるようになりました。

ここでエンジェルは、ドイツの軍隊がロンドンに押し寄せた場合どうなるかをユーモラスに語ります。「英国の銀行に押し入ったドイツの将軍は、ドイツの銀行にある彼の口座が凍結されたり、彼の投資の中で最も良いものすら目減りしているのを目にするだろう」

戦争によって英国経済がめちゃくちゃになれば、それと密接につながっているドイツ経済もまたその余波を受けます。相手に与えたダメージが、自分に返ってくるのです。

ドイツ経済の4割は貿易によるものであり、主たる貿易相手はイギリスです。このような状況で、ドイツがイギリスと戦争をしても、大損をするのは目に見えています。

近代戦争は割に合わない

もう一つのポイントは、近代化が進めば進むほど、生産や交易によって利益を得るのは簡単になり、征服や略奪で利益を得るのは難しくなったことです。

昔は、武力で植民地を征服して収奪するのが儲かりました。中世の「バイキング」と呼ばれる武力集団は、スカンジナビア半島から船で英国を襲い、富を略奪しました。

近代の英国は強い海軍を持っていますが、それによってスカンジナビア半島の農業や工業の富を奪ってはいません。工業化社会は、武力による収奪で維持するにしては、豊かになり過ぎたのです。

工業化によって大量生産の経済になると、安くたくさん輸入しないと経済がまわらなくなります。反面、中世に比べて法律や港湾、航海の安全性が整ってきました。すると、武力で収奪するより、商売として輸入する方がコスト・パフォーマンスが良い、ということに気づきます。

モノやサービスを入手したいとき、国家はそれを「奪うか、買うか」を選択できます。奪うよりも買う方が安上がりなら、進んでそうするのです。

国際的にはグローバル化、国内的には工業化が進むことで、収奪のための戦争は、割にあわなくなりました。戦争によって利益があるとするのは大いなる幻想であって、国家指導者がこのような現実を正しく理解するならば、大国間の戦争はもはや起こらないでしょう。

国家主義者にとってさえ戦争が無くなるべきなのは、それが不正義だからではなく、不採算事業だからです。

ユートピアニズムの終わり

このようにノーマン・エンジェルが説いた直後、世界大戦が起こりました。

ロンドンに攻め込んでも、彼ら自身の口座が目減りするだけ、と言われたドイツの提督たちは、潜水艦を多数送り込んでイギリス経済を破綻させようとしました。

第一次大戦の後、E.H.カーやモーゲンソーといった論者はノーマン・エンジェルを盛んに引用して批判しました。こういう議論があったけれど、戦争になったじゃないか。経済で戦争が無くせるというのは幻想主義(ユートピアニズム)の一つであって、やはり現実の国際社会では武力が大きな役割を果たしているのだとし、リアリズムが勃興します

経済発展によって戦争が無くせる、という議論はまるで意味がないものだったのでしょうか? 

そうではありません。経済で戦争を「無くす」ことはできないにしても、「減らす」効果は認められているからです。

これを統計的に証明したのがガーツキーの議論で、次回はこれを紹介しようと思います。

続き↓

平和はやっぱりカネで買える。ガーツキーの商業的平和論(Capitalist peace) - リアリズムと防衛ブログ