「スティーブ・ジョブズ氏の功績とモバイルファースト」 エリック・シュミット氏とマーク・ベニオフ氏の対談(後編)
セールスフォース・ドットコムのイベント「Dreamforce'11」、3日目の基調講演で行われたのが、グーグル会長のエリック・シュミット氏と、セールスフォース・ドットコム会長兼CEO マーク・ベニオフ氏の対談でした。
両者の話題はクラウドという軸を持ちつつ、サン・マイクロシステムズの技術的遺産からシュミット氏がグーグルへの転職を決めた理由、マイクロソフトのつまづきとスティーブ・ジョブズ氏の功績、そしてクラウドのアーキテクチャやモバイルへと広がっていきます。
1時間にわたる対話の中からポイントを紹介します。
(本記事は「「ワールドクラスのソフトウェア会社になる方法」 エリック・シュミット氏とマーク・ベニオフ氏の対談(前編)」の続きです)
グーグルはなぜマイクロソフトより有利なのか
ベニオフ氏 あなたはサン・マイクロシステムズやノベルなどでマイクロソフトと競合してきました。いま、グーグルはサーチやモバイルの分野でマイクロソフトを負かそうとしていますね。
シュミット氏 新しい分野へ確信を持って移行する、ということはとても難しいことです。移行できない理由は知識が足りなかったり、リソースがなかったりといったさまざまな理由もあります。
マイクロソフトの例で考えると、顧客を失わないように既存の製品を守りつつ、新しい分野へ移行するというのは難しいことでしょう。
先ほど、継続的なリリースが優れているという話をしましたが、すでに歴史的な役割を背負ったしっかりした設計のプラットフォームを持っているマイクロソフトがそうしたモデルへ移行するのも容易ではありません。
一方で私たちグーグルには有利な点がありました。データセンターが大きな価値を持つことを理解しており、優れたデータセンターを保有していました。そのおかげで魅力的な職場となり、優秀な人材を揃えることもできたのです。
しかもサーチは技術的に非常に難しい課題でもあります。ランクのような複雑な計算を数十億の要素を対象にし、しかもそのうち数パーセントがつねに新しくなっています。
そしていま、エンタープライズの複雑さはそういったものになろうとしています。
例えばGoogle Appsは4000万ユーザーに達しており、最近そこにソーシャルな機能が加わりました。ソーシャルではユーザー同士がお互いに接続し、クリックし、コミュニケーションし合います。これは圧倒的に複雑なシステムです。
どのエンタープライズシステムも、最終的にはこのようなスケールの問題に当たることになるでしょう。
クラウド時代のアプリケーション
ベニオフ氏 こうしたクラウドコンピューティングへのシフトをどう見ていますか?
シュミット氏 多くの人が、Google Appsのようなクラウドのアプリケーションモデルの有効性を疑っていました。2年ほど前なら、こんなものはおもちゃのようで信頼性もない、クラウドにデータを保存することはないだろう、と考えられていました。
しかしそれらはすべて間違いだったのです。
そしてこれが示すのは、いままで存在していたPC用のソフトウェア、クライアント/サーバシステムといったものが、このモデルによってほとんどなくなってしまうだろう、ということです。
新しいアーキテクチャについても考えてみましょう。
例えばセールスフォース・ドットコムのアーキテクチャでは、1つのユニバーサルデータベースにすべてが入っており、その上で販売支援アプリケーション、サポート用アプリケーションなどが構築し、連係していますね。
ではその上にナレッジエンジニアリングを用いたアプリケーションを載せたらどうでしょう。どこでどんな問題が起きるかを予想することができるでしょう。
これが新しい時代のアプリケーションです。
これは古いアーキテクチャの上には構築できません、データがあちこちにばらばらに存在するからです。
例えばAndroid Phoneでは、利用者から許可を得て位置情報が発信されています。それを集計すれば、どこで交通渋滞が発生しているかリアルタイムで分かるのです。
そしてどのビジネスの現場でも、同じようにデータを集めて分析、予測するニーズがあります。それらは計算し、予測しうるのです。
アップルの成功とマイクロソフト
ベニオフ氏 iPadのようなプラットフォームが登場してアップルが再び市場を席巻し、マイクロソフトがそこでつまづくといったことが、生きているうちに起こると思いましたか?
シュミット氏 いいえ。スティーブがアップルで成し遂げたことは、この50年から100年の世界中のCEOの中でももっとも優れたものだといえます。
しかも彼は1度でなく2度も実現したのです。アップルは新しいプラットフォームへと移行に成功した希有な企業です。
同じようなことが私たちのビジネスのどこかで起きるとします。私は彼のようにうまくできるとは思いませんが、例えば新しいベンチャーかなにかを立ち上げて、それまでのしがらみを断ち切るのならできるかもしれません。
でも、いまの企業を変えることを考えてみましょう。リーダーにとって大事なのは、その企業を愛することです。リーダーシップとは、いまこの企業を文字通りリードして、新しいプラットフォームへと移行していくことです。
ベニオフ氏 一方でマイクロソフトのスティーブ・バルマー氏は、WindowsをWindows Phoneなど新しいプラットフォームに展開しようとして苦労しているようですね。
シュミット氏 そこには能力の違いがあるようですね。(会場笑い)
ベニオフ氏 誰の話をしようとしているのですか?(笑)
シュミット氏 いえいえ会社の話です(笑)
マイクロソフトはコントロールとライセンシングの上にビジネスモデルを作り上げました。そこで素晴らしい仕事をしました。ハードウェアによるイノベーションを起こさないようにしたのです。
つまり彼らはコンシューマの方を向いていたのではなく、産業構造の方を向いていたのです。
しかしアップルはコンシューマの方を向いてビジネスをすれば、成功が後からついてくることを証明しました。
グーグルも同じような方法を選んでいます。コンシューマが抱える問題を解決すれば、売り上げはついてくるのです。
私は30年間エンタープライズのビジネスを経験してきました。
これから、コンシューマプロダクトに起きた変革が、エンタープライズでも起きるでしょう。エンタープライズをまどわしてきたソフトウェアのインテグレーションツールや使いやすさを、クラウドコンピューティングなら実現できます。
もちろんそれは複雑さによってではありません。エンタープライズの内側は複雑ですが、それをAPIライブラリやHTMLのレイヤによって隠蔽していくのです。
モバイルファースト
シュミット氏 次世代のリーダーはおそらく、モバイル、ローカル、ソーシャルに関わるところから登場するのだと思います。
PCの歴史を振り返ってみると、70年代の半ばにXeroxのPARCで生まれ、もう35年から40年たっています。このプラットフォームでできることはもうやり尽くされてしまったのではないでしょうか。
一方で新しいプラットフォームが登場しています。モバイルです。わたしはいま「モバイルファースト」というメッセージを押し出しています。
というのも、トッププログラマはいまモバイルアプリケーションを優先的に開発しています。これまで、モバイルアプリケーションはあまり興味を引かない分野でした。
しかしいま、モバイルはデベロッパーにとってもっとも面白いプラットフォームになっています。そこにはロケーション、リアルタイム、プレゼンスといった要素があるからです。
モバイルは次世代のプログラマやベンダががこぞって参加するプラットフォームになり、次世代のスタートアップはこのうえに登場するでしょう。
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