目的を達成できたら、「良い絵」になる。イラストレーターがわこを支えるゲーム会社時代の学び
インタビュー/原田イチボ
イラストレーター・がわこさんの初個展「emergence」が、東京・表参道にある「pixiv WAEN GALLERY」にて2023年10月29日(日)まで開催中です。初画集『emergence』(玄光社 刊)の発売を記念して、同画集に掲載のイラストを中心に構成された展示となっています。
CDジャケットやMVイラスト、ゲーム内衣装デザインなど幅広く活躍し、初個展と初画集を実現させたがわこさん。現在の活動には、ゲーム会社で働いていたときの学びが生きているそう。お話を伺いました。


- がわこ
イラストレーター。1998年生まれ。猫が好き。 ソーシャルゲーム系の記念イラスト、ジャケット、MVイラスト、ゲーム内衣装デザインなど
がわこさんのイラストメイキングとインタビューが見られる「DrawTube」も公開中です!
絵の仕事は無理だろうと思っていた
── 子どもの頃から絵を描くのがお好きでしたか?

はい。保育園くらいのとき、少し年上のいとこが友達と描いた絵をよくもらっていて、「私もこんなふうに描けるようになったらいいな」と自分でも描いてみるようになりました。子どもの頃は『ちゃお』のマンガのキャラクターを真似して描いたりしていましたね。
── これまで絵を専門的に学んだ経験はありますか?

微塵もありません……(笑)。中学生のときに母親が「そんなに絵を描くのが好きなら」と画塾に連れて行ってくれたことがあるんですが、正直ピンとこなくて別にいいかなと。そのまま特に勉強らしい勉強はせず、パースとかも雰囲気でとっていました(笑)。新卒でゲーム会社に就職してから、「プロについていくためには勉強しないとダメだ」と気づき、やっと真面目にやり始めたような感じです。先輩たちに教わったり、あとは自分でも本や動画を見てテクニックを学ぶようになりました。
── ゲーム会社に就職したのは、絵を仕事にしたかったからですか?

そうですね。ずっと絵を仕事にすることへの憧れはありつつも、厳しい世界だから無理だろうと考えて、体育大学の教育学部に進みました。卒業後は教師になるつもりでいましたが、いよいよ就活という時期に「私が本当にやりたいことはなんだ?」と悩み始めて……。そんなときにゼミの先生が「新卒という肩書がつくタイミングは今しかないし、いったん絵の仕事を目指してもいいんじゃないか」と背中を押してくれました。
── その先生の言葉がなければ、イラストレーターになっていなかったかもしれない?

そうかもしれません。だからゲーム会社への就職が決まったときは、先生にも喜んでもらえました。私が初めて画集を出すということで、最近もまた連絡をいただいてお話ししました。
── いい先生ですね! 企業に所属してイラストレーターとしてのキャリアをスタートさせましたが、中でもゲームの会社を選んだ理由はありますか?

── フリーランスになったのはいつですか?

ライティング、創作者としてのスタンス、ゲーム会社で学んだこと
── 現在の作業環境を教えてください。

「Wacom Cintiq Pro 27」という液晶タブレットとCLIP STUDIOを使っています。去年まではiPad Proでほぼ全ての作業をしていましたが、独立を意識し始めた頃に今の環境に変えました。
── 1枚のイラストにどのくらいの時間をかけていますか?

── 塗りに時間をかけているんですね。

ラフに時間がかかるときもありますが、ほとんどの場合が塗りですね。どんどん重ねていく感じの塗り方だから、単純に時間がかかるんですよ。塗っているうちに「これで本当に良いのか……?」とゴールを見失うこともよくあるので(笑)、あとで取り返しがきくように、顔のパーツだけは絶対レイヤーを分けるようにしています。
── 塗りの上でのこだわりを教えてください。

ライティングですね。明暗やコントラストは結構気にしています。
── ライティングにこだわって絵を描く方は、映画や写真がお好きなイメージがあります。

── がわこさん自身のライティングへの興味関心は、どこから生まれたものなんでしょうか?

ゲーム会社時代ですね。叩き込まれたというか、周りの全員がライティングの重要性を前提に話しているから、私も「ああ、ライティングって大事なんだ」と刷り込まれていきました。
── がわこさんにとって、ゲーム会社での経験はとても大きなものなんでしょうね。

── ゲーム会社での学びとして、ほかにどんなものが強く残っていますか?

自分自身を看板にするアーティスト的なスタイルで活動するのか、クライアントの要求に応える職人的なスタイルで活動するのか、みたいな話ですかね。今の私としては、基本的には後者でありつつ、自分の好みを詰め込んだ趣味のイラストも同人活動などで出していけたらいいなぁと思っています。
がわこさんの同人誌はメロンブックスにて取り扱い中(売り切れの場合もございます)
心が動いたものはストックしておく
── 2012年からpixivにイラストを投稿いただいています。絵柄のターニングポイントはありますか?

2020年頃に中国発のスマホ向けゲームアプリ「アークナイツ」にハマってから、彩度の低い絵が好きになりました。日本人以外の絵描きさんを知るきっかけにもなり、絵に対する視野が広がった結果、絵柄も変わっていったように感じます。
2021年6月に投稿されたアークナイツのファンアート

── かつての投稿作品をさかのぼって見ても、背景や複雑なアングルへの興味が伝わってきます。昔から、かわいい女の子をとにかくかわいく描ければ満足というタイプではない?

── 魅力的な世界を描くために、普段からどのようにインプットをしていますか?

自然と入ってくる情報の量には限界があるので、自分から探して、いろんな作品に触れるようにはしています。イラストに限らず、何かしら自分の心が動いたものは忘れないように、ちゃんとピンを留めるなりしてストックしておきます。そうやってコレクションしておくと、あとから見返したときに「私ってこういうものが好きなんだ」と意外な発見があったりするんですよ。「私はなぜこれを良いと感じたんだろう?」と分析して、それを絵に落とし込んでいくこともしています。
── チェスをモチーフにしたシリーズや魔女のキャラクターなど、共通する世界観の作品もありますよね。

魔女に関しては、自分の中で設定が固まっていないぶん、たくさん描いているところがあるんですが、チェスのシリーズはわりと固まっていて、実はストーリーもあったりします。そのあたりも含め、完全に私のための趣味みたいな同人誌を作っていけたらいいですね。
背景には3D・フォトバッシュも活用
── がわこさんにとって、「良い作品」とはどんなものでしょうか?

── 絵を描く前にいつも目的を設定しているんですか?

そうですね。「苦手な光の表現を勉強するぞ」のような場合もありますし、「たくさんの人に喜んでもらうぞ」とか「これは純粋に自分が楽しむための絵にするぞ」のような場合もあります。
── 具体的に作品を挙げていただくとしたらどれでしょうか?

この『Crow』というイラストは、「自分の好きな表現」と「私の作品を普段見てくれている方々が好きな表現」を上手く融合させられないかと考えて描いたものです。自分でも気に入っていますし、評判も良かったので、当初の目標を達成できたんじゃないかと思います。
── がわこさんの作品の中で、このように派手な動きのあるイラストは珍しい印象です。

キャラのかっこいい立ちポーズが好きなんですが、いつも一緒だと見ている側はおもしろくないかなと思い、カメラを傾けてみるなど、普段あまりやらないことに挑戦しました。それでいて、キャラクターの身体のラインなど自分の好きな要素も盛り込んでいます。
── 空の青さや奥の建物も含めて、ストーリーへの想像がふくらむイラストですよね。がわこさんのイラストは背景や小物など細部に至るまでこだわりを感じさせますが、背景に3Dを活用していることもありますよね。

── その3パターンをどのように使い分けているのでしょうか?

すごく複雑な構図は、やっぱり3Dを利用したほうが正確に描けます。金属などの素材の質感も、3Dはきれいに表現してくれますね。「フォトバッシュ」は画面に情報量を足したいときに使うことが多いです。単純に「自分で描いたほうがいいな」と感じたときは、手描きにしています。
「それでも生きていくしかない」思いを込めたメインビジュアル
── 初めての個展開催が決まった感想はいかがですか?

死ぬまでに個展ができたらいいなとは思っていましたが、実際やるとなると、「本当か……?」と信じられなくて。打ち合わせをしていても実感が湧かないので、会期を迎えて現地に行くまで半信半疑かもしれません(笑)。
── 画集も個展もタイトルは、「emergence」ですね。

「羽化」という意味の言葉です。自分の成長、そして転機に繋がるだろうという思いと、あとは今描きたいイメージと繋げやすいということで、このタイトルにしました。今までの私の経験や好きなものが詰まっており、「がわこ」という人間が伝わる内容になっているんじゃないでしょうか。
10月16日発売予定のがわこさん初画集『emergence』(玄光社 刊)
── 画集の表紙と個展のメインビジュアルは同じイラストですね。このイラストについて教えてください。

「いろいろ上手くいかないことはあるけど、それでも生きていくしかないよな」というメッセージを込めて、キャラクターが前を向いている構図にすることを最初に決めました。周りにいるのは、真ん中にいる女の子の分岐、この子が前を向くまでに殺してきた選択肢たちです。生きている以上、どうにもならないことがある。その表現として、女の子は鎖に繋がれています。特に羽のところはこだわって、いつもより丁寧に塗り重ねました。

── グッズも豊富に販売されるそうです。


手前に写っているのが、がわこさんお気に入りのアクリルカラビナ。
── 来場者の方へのメッセージをお願いします。

普段はスマホやパソコンから絵を見てくださる方が多いと思いますが、個展ではモノとして絵があります。一度見たことのある絵でも、寄って見たり離れて見たり、いろんな距離感で楽しんでいただけたらうれしいです。また、会場は病院をイメージした内装になる予定です。担当の方に私の希望を汲んで進めていただいたので、そちらもぜひ見てみてください。


── 最後に、今後の目標や、やってみたいことはありますか?

作品を普段見てくださる方々とイベントなどでお会いする機会が増えたことが、独立を考えるきっかけになりました。もちろんSNSでの感想もすごくうれしいですが、対面だとお互い空気感を共有できますし、「自分も絵を描いていて……」とか「イラストレーターになりたくて……」みたいな個人的な話をしてくださる方も多くて、それに私も元気をもらって、リアルイベントの良さを再確認しています。だから、いつかは日本だけでなく、海外でもみなさんと触れ合えるような活動ができればいいなぁと、すごく長い目で目標にしていきます。
10月29日(日)まで開催中!がわこ初個展「emergence」
pixivとツインプラネットが共同運営するギャラリー「pixiv WAEN GALLERY by TWINPLANET × pixiv」にて、がわこさんの初個展「emergence」が10月29日(日)まで開催中です。
「emergence(羽化)」をテーマにした描き下ろしイラストなど、合計49点のイラストを展示します。がわこさんの希望で実現した、病院をイメージした内装にもご注目ください。充実の展示で皆様をお待ちしております。
開催期間:2023年10月9日(月・祝)~10月29日(日)
定休日:なし
入場無料
所在地:東京都渋谷区神宮前5-46-1 TWIN PLANET South BLDG. 1F
営業時間:12:00~19:00
一部グッズはWEB販売も!
BOOTHにて個展販売グッズの一部をご購入いただけます。がわこさんお気に入りのカラビナや、かわいい缶バッジなど、イラストが引き立つアイテムが揃っていますので、ぜひ覗いてみください!