これって2Dイラストじゃないの!?デフォルメ3Dモデルの制作テクニック
取材・文:たまごまご
現在BOOTHで大きく賑わっているジャンル「3Dアバター」。
そんななか、一際目を引くのが、3Dクリエイターかめ山さんのモデル。デフォルメされたかわいいイラストが、2Dからそのまま飛び出して動いているかのよう。とくに「うささき」「みなほし」は非常に人気のアバターで、VRChatで使用している人はかなりの数にのぼります。12月23日には「まめひなた」という犬の子のモデルも発表しました。
今回はかめ山さんに、2Dイラストのかわいさをそのまま3Dモデルに落とし込むコツを直撃!独自路線を走るトップクリエイターに話を伺いました。
3Dモデルをみんなに動かしてほしかった
──2Dモデルを作ろうと思ったきっかけを教えてください。
最初に3Dモデリングに触れたのは、映像系の会社に所属していた頃。業務のメインは2Dでしたが3Dに触らせてもらう機会があり、趣味でMMD(※)を作り始めたんです。
── となると、ニコニ立体などにも投稿されていたのですか?
はい、「ファンアートが少ないキャラクターモデルの動画を見たい!」っていう気持ちで、MMDを公開しました。モデルさえあれば、他の人が動画を作ったりスクショ撮ったりしてくれます。二次創作からさらに三次創作として広がっていく文化ですね。モデルのお披露目用に動画も投稿しました。
── 3Dモデルを作りはじめたきっかけは、自分のためではなく他の人に触って欲しかったからなんですか?
そうです。自分の手を離れてどんどん作品が生まれていってほしい、というところにモデルを作るモチベーションがありました。
── どんなソフトでモデルを作っていたんですか。
プロが使うMayaなどの高級な3Dソフトは、趣味で使うにはちょっと高すぎるので、無料ソフトのBlenderで作っています。
設計図のない、かめ山モデル
── かめ山さんのモデルはデフォルメ的な作風でとてもかわいらしいです。影響を受けた作家さんはいらっしゃいますか?
少女漫画家のおおばやしみゆき先生です。『エンジェルハント』という漫画を読んでいました。目は縦長で、首がすごく細いおまんじゅう顔なんですよ。「あ、こう描いてもいいんだ」と衝撃を受けました。
3Dだと、3Dモデラーのかにひらさんです。「メルフィ」さんという2.5頭身くらいの女の子のモデルがいるのですが、手足は手首がないほどデフォルメされています。いま見ても絵みたいですよ。人体の構造を気にせず、絵でやっていたデフォルメのままモデルにしてもいいんだと思いました。
── かめ山さんはデフォルメモデルを作っていて、2Dから3Dにしづらいと思った経験はありますか?
これが意外と思い浮かばなくて。割と素直に作っていますね。
── 設計図や基本イラストは描かれるんですか?
自分のオリジナル3Dアバターを作る際は、ラフイラスト1枚のみで3面図は描かずに起こしていくことが多いですね。「イラストの雰囲気を再現する」っていう方向でやった方が魅力が出せると考えているので、好きなように描いて、好きなように立体にしています。
だから作っている途中で「ここ作りづらいな」と感じたら、その場で変えていますね。
── 見せていただいたイラストは本当に「イメージ」ですね。
作っていく過程で後ろのカバンのデザインなど、どんどん書き足す形で膨らませていきます。
ただ、他のデザイナーさんが作ったイラストを再現する場合は、造形の癖があると思うので三面図はあった方がいいとは思います。
── かめ山さんのモデルはイラストっぽさがそのまま3Dに自然に馴染んでいます。秘訣はなんでしょう。
2Dらしさを出すには輪郭の黒い線、アウトラインの表現が大事だと思っています。
3Dモデルをレンダリングするとき、アウトラインを出す方法はざっくり2種類あります。時間をかけてレンダリングできる場合は「ポストプロセス」といって、綺麗な線をコントロールしながら出す方法が取られるんですが、ゲームとかVRChatとかのようなリアルタイムに動かす場合だと、思ったようなコントロールができないです。その場合はアウトラインの出し方を「背面法」で行っています。
── かなり計算が必要ですね。
そうですね、普通に作られたモデルのアウトラインの設定だけでポンって太くしても見栄えするものにはならないです。
── たとえば「うささき」さんの手は、アウトラインが綺麗でびっくりしました。
── 握っているということは、ボーンを入れた後での加筆ですよね。
そうです。作りながら「もっとこうしたい」と思ったところを詰めていきます。だからめちゃめちゃ時間かかってるんです。
手はアウトラインが集中するのでジャギジャギになりがちです。だから「アウトラインマスク」という白黒の画像でアウトラインが細く出る部分を作り、最終的に綺麗な線になるように調整しています。指の間や関節の内側、曲がってそこに入り込む線は他の部分より細くして、目立たないようにしています。大変ですよね、アウトライン……。これさえ気にしなければ倍の速度でモデルが作れるような気すらします。
── イラストの段階で意識していることはありますか?
アバターとして使われることを意識しているので、揺れものの動きが入るようデザインしています。犬の子「まめひなた」ちゃんだと、表情に合わせて耳が動いたらかわいいな、顔の横に髪の房があったら動きが映えていいなとか、アバターとしての動きを含めて考えています。あと顔周りには、サンバイザーとか首輪のバックルのような、素材感が違うものを集めました。肌、髪の毛、プラスチック、金属、というような質感の違いがちょっと面白くなるかなと思って。
── 普段から揺れものや素材感は意識されているのでしょうか。
やっぱり揺れものは常に考えたいです。ただあまり優先しない場合もありますね。前作の「うささき」とかだと、動かない方が映えるキャラクターなので、ごろ寝しても破綻しづらい装飾少なめの衣装にしました。
── シャツのヨレ具合がいいですよね。
── キャラ付けはどうされてるんでしょう。
「この子はこう振る舞う」みたいなのがあると、やっぱアバターとして着やすいなと思ってます。「何を元にどういうキャラクターを作るか」に関しては、「自分の中」の一部を膨らませて考えていますね。
── かめ山さん自身の性格ですか?
ですね。例えば「うささき」だったら、自分のちょっとだらしないところとか、内気なところとか、話しかけられて「あわわ」ってなる感じをめっちゃかわいく膨らませて作ったキャラクターです。そういう性格の人って多いと思うので、親近感を持っていただけてるのかもしれないです。「うささき」でいると困っていてもかわいいし、「うささき」だからこういう感じの人なのかなと、外の人からも性格を想像していただけそうですね。
今までのかめ山モデル制作秘話
── 今までのモデルはどういうコンセプトで作られるか作られたか教えてください。
「こぐまのルウ」ちゃんですと、この子は「理想の子ども服」を作りたかったので、衣装をメインで考えました。ちっちゃい頃に着たかったかわいい服から膨らませています。このアバターになれば、着たかった服が着られる。自分が今なりたいものになれるっていうのがVRのいいところだと思うんですけど、「昔なりたかったものにもなれる」というのもアバターの魅力ですよね。
── 「みなほし」は使っている方が多いアバターのひとつですね。
「みなほし」ちゃんは、それまでに発表した「aoico」ちゃんと「すずはな」さんのいいところをとろうと思って作りました。初めて「アバターとして 使う」ってことを意識したモデルです。それまでの「aoico」ちゃんと「すずはな」さんは、自分が作りたいキャラクターだったので。
── 「aoico」ちゃんが一番最初に発表した子なんですよね。
はい、中身については イメージがあまりなかったんですけど、着てみると無邪気な雰囲気で振る舞いやすかったですね。子どもみたいにはしゃげて楽しい。アッパーな雰囲気が許されるアバターですね。
── ローポリゴンのキャラクター「ポッケ」「トルーシェ」「たまけろ」もすごくかわいいです。
3Dモデラーのzenさんが主催されている「256フェス」という、ローポリゴンモデルを投稿する企画があって、それに毎年参加しています。
ローポリゴンモデルは、ポリゴン数もキャラクターの頭身のバランスも気にせず作り始めて、全体のシルエットからどうやったら映えるかを後から考えていく方がやりやすいです。
── 「トルーシェ」は絵本から飛び出してきたかのようですね。
「トルーシェ」ちゃんは元絵があるんですが、256ポリゴンにするときに頭身を低めにして、シルエットをさらにわかりやすくするために襟も大きくしています。羽も浮かせました。体にくっついちゃうとシルエットがわかりにくくなるので。
かめ山アバターに衣装を作るユーザーの愛
── かめ山さんのモデルには、改変用の衣装販売がとても多いですよね。BOOTHでも「対応していただいている衣装」というリンクが貼ってあるのを見ました。着せ替え改変の衣装を意識してモデルを作っているのでしょうか。
衣装が作りやすい体型じゃないので今まで気にはしていなかったんですが、最近衣装をたくさん作っていただけるようになりました。なので、今後はちょっと気にしないといけないかな、と思ってますね。
こんなにたくさんの人に手にとっていただけるとは思ってなかったし、衣装まで作ってもらえるなんて! アバターは2年ぐらい前から作っているんですが、「すずはな」さんや「みなほし」ちゃんを出した頃って衣装を作ってくださる方は全然いなかったです。「『みなほし』ちゃんかわいいけど衣装があまりないからなー」と購入を諦める方も散見されたので、自分でみなほし用衣装の「チューリップドレス」を作りました。
── 頭身が違ったり世界観があったりするので、第三者が衣装を作るのは簡単ではなさそうですね。
── 衣装製作者さんは色味などアバターに寄せている感じなんでしょうか?
キャラクターのアウトラインが太く、一般的なマテリアル(※)のままだと違和感があるので、質感も調整して合わせてくださっている方もいます。本当、愛ですね……。うれしいので、BOOTHのトップに「衣装まとめ」を作って「ぜひぜひ!」と皆さんの衣装を推しています。自分のコレクション的な側面もありますね。後で見返して、ふふって(笑)。
── 自分で作ってみたい衣装はありますか?
VRChatでお風呂に入るとか海で泳ぐことは結構あるので、水着を作ってみたいですね。たぶん、このアバターがエッチなことを禁止しているので、みなさん気を使って肌を露出する衣装を作りづらいのかもしれません。なら私が作った方がいいかなって。
── VRChatでかめ山アバターを使ってる方を見ることはありますか?
VRChatにJOINすると「みなほし」ちゃんがすごい集まってきますね。特に中国で人気があるみたいで、中国語の「みなほし」が大集合してることがあります。幼稚園みたいになる(笑)。
── 集まっている「みなほし」はみんな改変(※)してるんですか?
はい、改変すごいですねー! 海外勢は特に。最近「うささき」も使ってる方が大変多いんですけど、「垢抜けうささき」改変が結構多くて。
── 元のイメージと逆!
そうそう。「うささき」はもさっとした印象なので、どこまで垢抜けさせるか挑戦しているのかもしれません。そういう方向の楽しさもありますね。
元気いっぱい、まめひなた
── 「まめひなた」ちゃんの話をお聞きしたいと思います。衣装事前募集のツイートがあり、発売当日からいろんな衣装に着せ替えができるよう企画されているのは面白いと感じました。これはどういう考えで実施されたんですか?
そういう試みをすでにやっている方は他にいらっしゃるので、それに倣ったところはあります。ただ、衣装を制作してくださる方々には本当に感謝しているので、一緒に盛り上がれるタイミングを作れたらと思い、初めて企画してみました。
── BOOTHでも衣装を作っている方々の熱が高まっているのを感じますし、盛り上がりそうですね。
── 先に衣装があると購入する判断材料にもなりますよね。
もうたくさんの衣装があるので選ぶのが大変かもしれませんが(笑)。でも迷うことは幸せなことなので、いっぱい悩んでほしいです!
── かめ山さん自身が考える「まめひなた」ちゃん本体の最大の強みはなんですか?
感情表現です。私のアバターを気に入ってくださっている方は、表情が使いやすいと言ってくださることが多くて。「みなほし」とか「うささき」とか、わかりやすい感情表現ができるので、無言勢(※)の方も多いんですね。無言でも感情が伝えられるのは振る舞いやすい。その強みを今回は前面に出したいなという思いもあって、感情を表現しやすい犬にしました。落ち込んでいてもすぐわかるし、それすらもかわいい。
── 無言勢が使いやすい表情には、どんなものがありますか?
ニコニコやキラキラ目など同意を表す表情は絶対必要です。他にも、「みなほし」ちゃんのジト目とか、曖昧な表情が便利に使っていただけるみたいです。「うささき」のニヘラ顔も、無害な感じがして便利ですね。
── 「まめひなた」にはギミックのようなものはありますか?
犬のモチーフなので、撫でられたら喜ぶみたいなギミックを入れたいなって思ってますね。「VRC Contact Receiver」というやつです。犬は撫でたいですから。
── 試着はできるようになりますか?
── イベントでの出店はされますか?
1月末にVRChatで開催される「LolipopParty」というアバター展示イベントに 出る予定があります。背が低くてちっちゃい子限定の展示会です。
── 「まめひなた」が 発売されたらどういう風に使ってもらいたいですか?
コロコロと転がるような、元気な犬になってかわいがられてほしいです!