日経サイエンス  2008年3月号

“遺伝子商法”に気をつけろ

L. ハーチャー(サラ・ローレンス大学)

 ヒトゲノム計画の完了から10年もたたないうちに,ネット上で“栄養遺伝学”と称するものをさかんに宣伝し,消費者に遺伝子検査と栄養サプリメントを売りつけようとする企業が出てきた。栄養遺伝学的に各個人の遺伝情報を調べれば,強い骨,つややかな髪といった健康のしるしを維持するためにどのようなものを食べたらいいかがわかるという。もっともこれまでのところ,宣伝ほどには中身が伴っていない。

 

 栄養遺伝学というこの新しい分野は,まだ科学的基礎が固まっていないのに,それを売り物にするビジネスがしばしば先に広まってしまうことを示す例だ。特定の遺伝子がどのように健康や疾病に関係しているかはまだ科学的に明らかになっていないのに,遺伝子検出技術の商品化が始まってしまったのだ。

 

 ヒトゲノムの全DNA塩基配列の解読から得られた情報を利用する,新しい治療法や検査法が徐々に考案され始めている。こうした方法を使って,疾病の予防や診断を行ったり,症状を軽減させたり,ときには病気そのものの治療すら可能になるかもしれない。また,「オーダーメード医療」への道も開かれつつある。食物や薬,日光,運動,アレルゲンなどの刺激に対する体の反応が人によって異なる理由を,遺伝的個人差によって説明できるという考え方にもとづく医療だ。

著者

Laura Hercher

サラ・ローレンス大学のヒト遺伝学ジョーン・H・マークス大学院課程の社会問題専門教員として教鞭をとるとともに,臨床遺伝学の法律的,倫理的,社会的な意味を研究している。出生前診断と予測的試験が社会を変える可能性についての論文を発表している。最新の研究では,多数の遺伝子が発症にかかわるとされる統合失調症など,遅発性遺伝性疾患のリスクを遺伝子検査で調べることによる影響に注目している。

原題名

Diet Advice from DNA?(SCIENTIFIC AMERICAN December 2007)

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