過剰あるいは不要な照明がもたらす公害である「光害」。ある研究によると,北米では人口の80%が,日本では人口の70%が,夜空が明るすぎて天の川を見ることができない地域に住んでいる。また別の研究よると,光に照らされた地表の面積は毎年約2%拡大しているという。
光害は天体観測に支障をもたらすだけではない。この10年間,夜間の無駄な照明が動物と植物,そして世界を結びつけている生態学的関係を大きく混乱させていることが明らかになった。例えば,夜空が明るくなるだけで,ヨーロピアンパーチという魚のメラトニン(「夜」を告げるホルモン)の濃度が低下し,生殖ホルモンの濃度が変化する可能性が示されている。また,科学者が暗視ゴーグルでアザミの一種を観察した実験で,周囲の光が夜行性の花粉媒介昆虫の往来を妨げていることが確認された。
光害が深刻化している一方で,夜の闇を守る活動も盛んになっている。国際ダークスカイ協会は2001年以降,世界中の200カ所近くの地域を「星空保護区」に認定している。フランスでは2019年に可決された法律によって営業目的で電飾や看板を一晩中点灯し続けることが禁じられた。米国でも複数の州が星空を守る法案を検討している。だが,依然として光害について知らない,あるいは関心がない人が多く,社会の意識を高める必要があるだろう。
再録:別冊日経サイエンス273『まだ見ぬ宇宙を捉えろ 新鋭望遠鏡の世界』
再録:別冊日経サイエンス268『猛暑・感染症・野生動物 変わる世界とどう向き合うか』
著者
Joshua Sokol
受賞歴のあるフリーランスの科学ジャーナリストで,Science誌,Atlantic誌,New York Times紙などに多数寄稿している。ノースカロライナ州ローリー在住。夜空の環境に関する彼の記事はアリシア・パターソン財団の2021年フェローシップを得て作成された。
原題名
Saving the Night Sky(SCIENTIFIC AMERICAN October 2022)