川崎フロンターレMF中村憲剛(40)が、1月1日の天皇杯決勝ガンバ大阪戦(国立)をもって現役を引退する。

そんな中村の“親友”、クラブマスコットの「ふろん太」が、ラストマッチを前に日刊スポーツへ独占手記を寄せた。18年間全ての苦楽を共にしてきた相棒が、おごらず、飾らず、前向きな、等身大の中村の姿を明かした。

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ケンゴと出会ったのはもう18年前。ひょろっとしてて、とてもプロのアスリートになるようには見えず、頼りない感じだった。ま、今もパッと姿だけ見たら、頼りないけど。どんどん成長して、日本代表にも選ばれて有名になっていっても、僕らが触れるケンゴは今も昔もそのまま。誰かと比較したり、自分の物差しや判断基準と違う人がいても、それを一方的に批判したりはしない人。いろんな人の意見を聞いて、自分なりに解釈して前に進む人。みんなに感謝して、自分の言葉でありがとうを伝えられる人。そして18年前に「結婚したいと思ってる大切な彼女がいる」って僕に話してくれた時から、今でも変わらずただの奥さん大好き人間。「足を向けて寝られないどころか、頭が上がらない」って、いつもいつも言ってる。きっと僕にも頭が上がらないだろうと、僕は思ってる。

1年目の開幕戦でメンバー入りした時からケンゴは、ヒロキ(伊藤宏樹=現強化部)と僕と「今日は何人来てくれるかな」「どうやったら等々力を満員にできるかな」って話し合っていた。今では当たり前のようにたくさんのみんなが来てくれるようになったけど、雨の予報が出てるとき、寒いかなってとき、平日のとき、チームの調子が悪いとき…。もう18年にもなるけど、いつもいつも気にかけて連絡してくる。「チケットの売れ行きどう?」「明日はどんな感じ?」って。僕はそれを見て、たくさんのみんながスタジアムに足を運んでくれることは当たり前じゃない、努力を続けなくてはいけないんだって、毎回あらためて心にとめている。

14年のW杯ブラジル大会でメンバーから落選したケンゴの涙は、今も忘れられない。自分自身はもちろん、周りの期待も感じていただけに、ケンゴの落胆はすごかった。もう、全てを投げ出して辞めてしまいたいってくらいに取り乱して、そういう思いを僕にラインしてきた。3時間くらいだったかな。夜中にずーっとやりとりをして、いろんなことを僕にぶつけてきたけど、きっとあの時はスマホを持ちながら、たくさん泣いていたんだろうな。

ケンゴは40歳での引退を決めた5年くらい前から、「なんとか優勝したい」ってよく口にするようになった。もちろん、ずっと前から「優勝したい」って言い続けてたけど、「引退するまでにどうしても」って言葉を使い始めたのは、今思うとその頃からだったのかな。「自分が優勝したい、プロサッカー選手としてそういう経験をしたい」っていうよりは、ケンゴらしく「フロンターレのためにも優勝したい」って言い方をいつもしてた。

17年の初優勝のときは、「やっとだね。いつもありがとう。優勝おめでとう」って言ってくれた。大泣きしてたケンゴの姿に注目が行きがちだけど、僕は(ここだけの話)試合終了の笛が鳴る前にピッチに入ってた。いつもそばにいてくれるボランティアスタッフの「行け。いいから行け」って声に反応して、走り始めてしまったから。どっかでその話を聞きつけたケンゴは「早くピッチに入ってたらしいな」って、「ま、今回は許してくれるでしょう」って笑いあった。「1回でもいいから優勝して引退したい」って言ってたくせに、数時間後には「1回優勝したら、2回、3回と優勝したくなるよねぇ」、「そうだよねぇー」って、また笑いあった。

去年の11月、ケンゴは前十字靱帯(じんたい)を損傷した。病院から「ダメだった」って連絡が来たけど、次の瞬間。取り乱してた僕と違って、「ここから復活したらすごいでしょ?」って、とっくに切り替えてた。リハビリ中はまさに一喜一憂で、「今日はすごく順調だった、こんなこと出来た!」って連絡の時もあれば、「今日は痛くてできなかった。思った以上に順調に進んでない」って言ってくる日もあった。

結局、僕はケンゴが楽しそうにピッチでプレーをしている姿を見るのが大好き。復活して等々力のピッチに戻ってきた時、ただただそう感じた。背番号14番だったり、いつものお気に入りのスパイクだったり、姿や形でインプットされてるのもあるけど、どんなに遠くからピッチを眺めても、22人の中ですぐにケンゴを見つけられる。僕にはいつも光り輝いて見えるんだ。

僕は引退の話を聞くまではひそかに、21年シーズンにベストイレブンとMVPを取ったらカッコいいなって、1人で大いに盛り上がってた。それくらいの可能性を秘めた選手で、まだまだやれるってことは、フロンターレのサポーターのみんなは分かっていると思う。そのタイミングでの引退。「まだまだやれるよ」って何度も何度も思ったけど、ケンゴが決めたならそれがベストのタイミングだよね。

うれしいことに、まだ天皇杯が残ってる。ケンゴがプレーをする姿をまだ見られる。ケンゴはいつものように、試合に出場するための準備、チームメートとの競争を、最後の最後まで楽しんでると思う。いい準備をして、いつものようなプレーを僕たちに見せてほしい。中村憲剛っていうフロンターレの歴史に残る選手のプレーを、目に焼き付けるんだ。(ふろん太)