2024年も残りわずか。永田町からもめっきり人の姿が減った年末になって、石破茂首相から来年の衆院解散に関する発言が相次いだ。10月の衆院選で56議席減と大敗し少数野党に陥った状況で、参院選や東京都議選など重要選挙が控える来年も与野党による大決戦となるが、そうしたタイミングを前に「解散あるある」の可能性に言及し続けている。
12月27日に東京都内で行われた内外情勢調査会で講演した際、来年の通常国会で25年度予算案や重要法案が、野党の数が一気に増えた衆議院で否決された場合には「衆院の意思と内閣の意思と、どちらが正しいかを国民に決めていただくことは、当然あり得べきことだ」と述べた。野党に不信任決議案が可決された場合でも、国民に信を問う可能性は「あり得べき」と述べた。
「今、それ(解散)をやるとか、物騒なことを言っているわけではない」とも述べたが、28日に日本テレビ系「ウェークアップ」に生出演した際にも、来年夏に参院選に衆院選を重ねるダブル選に踏み切る可能性を問われて「これはありますよね。ありますよねと言うと、みんなビクッとしちゃうんだけど、同時に(衆参選挙を)やっちゃいけない決まりはないですから」と述べた。
解散権は首相の専権事項といわれ、解散のタイミングはもちろん首相の判断次第。ただ、この石破首相の発言を聞いた野党関係者は「こんなにさらっと『手の内』を明かすものなのか」と、受け止めていた。自民党の関係者からも「今は、解散するかしないかより、どうやって通常国会を乗り切るかを考えておられるはず」としつつ「来年衆院選といわれても。国民のみなさんの支持が党に戻っている実感はない」と、口にした。
1カ月あまりの臨時国会はなんとか乗り切った石破首相だが、半年近い会期がある来年の通常国会は、少数与党に対する野党の攻めも本格化し、臨時国会以上に野党ペースで進む可能性が高い。石破首相の連日の「解散あるある」発言は、野党へのけん制もあるかもしれないが、「解散カード発言乱発が過ぎると、逆に野党を勢いづかせる可能性もある」と話す人もいた。
ただ、石破首相は臨時国会を乗り切ったことで「妙な自信を深めている」ともいわれている。もともと政界きっての論客で知られるが、臨時国会の予算委員会では「最初はいいことを言っているようで、全部聞いたら何も答えていない」と評された「石破構文」が話題になった。1カ月あまりの会期だった臨時国会は論戦の機会も限られていた。通常国会はそうはいかず、野党との激突が激しくなるのは避けられない。
「解散あるある」は、時に首相の求心力を下げかねない。石破首相の前任で、政局好きといわれた岸田文雄前首相は、衆院解散の可能性をちらつかせながら踏み切らない「寸止め」が続いた。2021年衆院選と2022年参院選で大勝し、「黄金の3年」を手にした岸田氏には、戦略的に解散に踏み切るチャンスも手にしたが、自ら解散風を吹かせながら自ら火消しに走り、結局、首相就任直後に初めて臨んだ21年衆院選の後は解散に踏み切らないまま、今年8月、自民党総裁選不出馬を表明し、退陣に追い込まれた。
国会を長く知る関係者は「解散風は、吹かせて、いかに絶妙な緊張感を保たせるかが大事」とした上で、石破首相の発言について「毎日解散、解散という総理も珍しい。野党をけん制しようとして、足元を見られなければいいのですが」。
来年、石破首相には、まだ解決していない国民民主党との「年収103万円の壁」引き上げをめぐる交渉や、日本維新の会などほかの野党との距離感、予算案を通すための「数の力」の足し算、引き算の計算に頭を悩ませることになる。本当に来年、衆院解散するとなれば、1年の間に2度も衆院選が行われることになる可能性もある。また、過去に2度行われ、いずれも自民党が勝利した衆参同日選挙が最後に行われたのは1986年(昭61)で、40年近く前。その時からは選挙制度も変わり当時を知る当事者はほとんどいない。
10月の衆院選で自民党が少数与党になったことで、先の読めない場面が続くようになった2024年の日本政界。「熟慮」をアピールする石破首相にとって、先の展開を熟慮する年末年始になりそうだ。【中山知子】