熊本に、高野連に属さない高校生チーム誕生の動きがある。スーパーを展開する株式会社「鮮ど市場」がこの8月、18歳以下(U18)、15歳以下(U15)を対象とした野球アカデミーを創設する。

同社は社会人野球の熊本ゴールデンラークス(以下、ラークス)を運営。プロ野球選手も輩出している。U18は将来的には日本野球連盟(JABA)加盟を目指し、社会人チームとして活動する。

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アカデミー創設により、ラークスを頂点としたピラミッドをつくる。12歳以下には、サッカーなども教える総合的なスポーツ教室を提供。幅広い年代をカバーするが、中でも「U18」が注目される。いわば、ラークス・ユース。ラークス監督でもある鮮ど市場の田中敏弘社長(49)は「今は高校野球しかレールがない。じゃあ、ユース制にしたら、もう1本、レールが敷ける。事情はいろいろあるが、高校野球からドロップアウトした子がいる。野球をやりたくてもできない子に環境を与え、励まし、応援するのは、我々の仕事です」と意義を強調する。

背景には、ラークスが取り組む活動がある。選手たちはスーパーの店頭に立ちながらプレーするが、今年から新設の「社会貢献推進本部」に所属。主にオフ期間に行ってきた野球教室などを、今後は年間通して実施していく。社会貢献活動を業務の柱とする。

田中社長は青写真を描く。U18がチームとして確立すれば、JABAに加盟。ラークスとは別の社会人チームとして登録し、都市対抗や日本選手権を狙う。甲子園は目指せないが、高野連に属さないゆえの利点もある。いわゆるプロアマ規定の対象ではないため、現役プロ野球選手の指導も可能。過密日程、球数問題などの議論も起きないだろう。もっとも、田中社長は「高野連に対抗する気は全くない」。自らも社会人野球で活躍。あくまで「社会貢献の理念を遂行しながら、僕が育った環境であるJABAで活動する」ためだ。

選手は高校に通いながら社会人野球でもまれ、技量を磨く。卒業後は「鮮ど市場入社、ラークス入団」が既定路線ではない。むしろ「大学でも活躍して欲しいし、プロに行く選手も出てくれば」と期待する。「スポーツで熊本を元気に」が社長の信念。野球への接し方は1つではないことを教えてくれる。【古川真弥】

◆JABA加盟には 社会人野球には「会社登録」と「クラブ登録」の2種類があるが、いずれも20人以上の選手を登録しないといけない。まずは所在地を置く都道府県の野球連盟に所属した後、JABAに加盟申請する。高校生でも、高野連所属の野球部に属していなければ、JABAのチームでプレーできる。

◆熊本ゴールデンラークス 株式会社「鮮ど市場」の硬式野球部。05年に設立され、06年から熊本市を本拠地に活動開始。07年、都市対抗初出場で1回戦勝利(2回戦敗退)。日本選手権にも出場した。08年にも都市対抗出場。16年「鮮ど市場ゴールデンラークス」に改称。今年から旧称に戻し、本拠地を練習グラウンドのある合志市に変更した。出身プロは香月良仁(ロッテ)川崎成晃(ヤクルト)島井寛仁(楽天)竹安大知(阪神→オリックス)。

◆田中敏弘(たなか・としひろ)1970年(昭45)1月5日生まれ。熊本市出身。九州学院3年時の87年、夏の甲子園出場。明大、日本通運に進み、97年には三塁手で社会人ベストナイン。00年引退。01年に父が創業した鮮ど市場に入社。05年、野球部設立に尽力し初代監督に就任。09年に退任も、12年から再び指揮。09年から社長。

○…ユースチーム創設は、鈴木大地スポーツ庁長官(52)も提唱する。プロ野球団が自前で高校世代のチームを持つというもの。選択肢を増やすことで「甲子園で燃え尽きてもいい」というマインド一色に染まるのを避けられると考える。「プロのユースなら、将来は自チームの主力になる可能性がある選手たち。当然、無理をさせることはなくなる」。既に個人的に話した球団もあり「ちょっと乗り気になっている」という。