近年、価値共創活動としてのサービスが注目されています。企業収益向上のみにフォーカスしていた過去のマーケティングに対し、企業と顧客が新たな価値を共創する方向へ世界は大きく転換し始めています。この考え方は、サービス・マーケティング分野で研究されているサービス・エコシステム、つまり、企業、従業員、顧客、社会を巻き込んだ持続可能なネットワーク社会に繋がるものです。
モノorサービスから、“モノ&サービス”へ
日本は製造業が強いと言われ続けてきました。そのため、第2次産業、つまり製造業が最もGDPの中で大きな割合を占めていると思う人は多いでしょう。
ところが実際は、第3次産業、いわゆるサービス産業がGDPの約3/4を占めています。日本以外の先進各国でも7割から8割程度、新興国においてもGDPの5割以上がサービス産業から生まれています。
日本に限ってみても、生活する上で必要なモノは揃っていますし、今はモノを購入するよりもレジャーや娯楽、教育や医療といったサービスに多くのお金を払う人が増えています。
つまり、モノから得られる便益よりもサービスから得られる便益に価値を感じている人が多いといえるのではないでしょうか。内閣府の世論調査でも、半数以上の人が物質面の豊かさよりも心の豊かさを重視したいと回答しています。
例えば、テレビが初めて登場したとき、遠くで行われていることや情報を目の当たりにできること(=機能)に多くの人は驚き、それを求めました。その後も、カラーテレビ、液晶薄型テレビと、向上していく機能は多くの人を惹きつけ、購入欲を刺激してきました。ところが、近年の4K、8Kへのテレビの画質の向上は、初めてテレビを見たときと同じような関心や購買欲には至りません。
「人の認知は、与えられた刺激の強さの対数に比例する」という法則があります。つまり、機能追加や性能向上による刺激が強まると、人がその刺激を認知する度合いが上昇しますが、徐々にその度合いは緩やかになっていくのです。
言い換えると、画質の良さや壁掛けができるほど薄い・軽いといったテレビのモノの性能面・機能面の刺激の効果はどんどん弱まっていくということになります。
ただ、「モノには価値がなく、サービスに価値がある」というわけではありません。むしろ、「モノorサービスではなく、モノ&サービスとして一緒に考えること」が大事という方が正しいでしょう。モノもサービスも価値を生み出す手段だということです。
サービス・マーケティングでは、「サービスと価値共創」、「サービス・エコシステム」、「サステナビリティ」が重要なキーワードになります。それぞれ見ていきましょう。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。