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アインシュタインも悩ませた「量子もつれ」とは?
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2022年のノーベル物理学賞は、「量子もつれ」を実験的に検証し、量子情報分野を創始した研究者3人に授与されました。量子力学は非常に難解な学術分野ですが、ここでの研究成果が現代の半導体技術の源流であり、超伝導技術や将来の量子技術にも繋がっています。

粒子と波の性質をもつ量子

加藤 拓巳 量子は難解な概念と思われがちですが、それは、そもそも、量子が日常の経験とはまったくかけ離れているからです。

 一般に、量子とは、電子や陽子、中性子など、私たちの目で見ることができない非常に小さな粒子全般を指すことと思われています。しかし、それは単に小さいだけでなく、「粒子」と「波」の二面性をもっているものを意味しています。

 例えば、分子などはビー玉のような球体を使って表すことも多いので、分子を粒子状にイメージしている人は多いと思います。そうしたビー玉状の粒子は、例えば、転がっていって、別の粒子とぶつかると、それぞれ別の方向に弾け飛びます。

 一方で、光とか音は波状に描かれることも多いので、波動というイメージをもっている人が多いと思います。そうした波は、ぶつかると、粒子のように弾け飛ぶのではなく、互いの勢いを強めたり、弱めたりしあいます。

 実際、音を重ねて大きくしたり、逆に、音で音を打ち消す技術があります。つまり、波はぶつかって弾けるのではなく、干渉するということです。

 私たちは、粒子と波の性質は、まったく異なるものと、日常で見たことや経験から区別しています。

 ところが、量子の世界では、同じものが、あるときは粒子の性質を見せ、あるときは波の性質を見せるのです。そのようなものを「量子」と呼びます。その奇妙な性質を端的に表すものとして「二重スリットの実験」があります。

 平面の板にふたつの隙間(スリット)を開け、離れたところからたくさんの量子を打ち込みます。それが粒子であれば、隙間をすり抜けて直線的に進んだものが板の後ろの壁に当たり、隙間と同じ模様を描くはずです。

 ところが、実際には、壁に縞模様が広がるのです。それは、量子が波のように隙間をすり抜けて広がり、干渉しあい、強弱がついたことを示しています。縞模様を作り出している、壁にぶつかった量子ひとつひとつは粒子なのですが…。

 では、ミクロの世界では、量子は常に波の性質を示すのかというと、実は、そうではないのです。非常に不思議なことに、量子がどちらのスリットを通っているかを調べると、干渉効果は失われて、壁に描かれる模様は粒子のような結果を示すのです。

 粒子が現れたり波が現れたりする現象は理解しがたく、気持ち悪さが残ります。しかし、私たちの理解のしやすさに合わせて自然法則ができているわけではありません。世界が量子からできている以上、私たちが住んでいる世界は、量子の自然法則にしたがうことになります。

 実際、現代エレクトロニクスを支える半導体技術は、量子力学を源流としています。そして、次世代を拓く様々な技術も、量子力学から生まれる可能性が高いと考えられます。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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