昨年5月以降、政府から京都市内の家庭に届いた布マスク。マスク不足が解消された後だったこともあり、京都市役所に寄贈する動きが広がった。その数は約9700枚。当時、庁内に積み上がっていたいわゆる“アベノマスク”は有効に使われたのか。追跡した。
22日、京都市伏見区の砂川小職員室を訪れると、「非常用」と記された段ボールがあった。中には約80枚の布マスク。寄付を受けて市役所から配布された30枚に、政府から届いた児童、教職員用の残りを加えて保管していた。中村理恵校長は「災害時の備蓄用に重宝しています」。
毎朝、校門に教員が立ち、忘れた児童には不織布マスクを渡す。「寄贈された善意の布マスクは大切に使わなければ」と、備蓄しているそうだ。同小は災害時の避難所になっており、中村校長には「災害で供給が止まれば、繰り返し使える布マスクはありがたい」との思いもある。
市は集まった布マスクのうち、約8千枚を「マスクを忘れた児童のために」と市立の幼稚園、小、中、高、総合支援学校に一律30枚を配った。だが、市教委はすでに計34万枚余の不織布マスクを各校に配布済み。布マスクは役立っているのか。市教委担当者は「使途は各学校に任せている。布マスクがどれだけ使われているかは把握していない」。
ということなので、現場に聞いた。「布マスクは小さく、子どもの顔にぴったり。在庫はほとんどない」とする幼稚園や「校内でマスクのひもが切れたりした場合に渡している」という中学校などから、感謝の声が聞かれた。一方、「機能面に劣る布マスクを嫌がる保護者もいる。児童には不織布製を渡し、布は残っている」とする小学校もあった。
市内の小学校で担任を務める50代女性教員は、マスクが汚れている児童を見つけ、布マスクを手渡そうとしたことがある。だが児童に「いや、このままで大丈夫です」と断られたという。「子どもにとっては恥ずかしかったのか…。不織布製は何枚あってもありがたいが、アベノマスクはもういらない。その予算を生活に困っている児童の家庭支援に使えなかったのか」と嘆く。今は不織布マスクを渡し、校内でも布マスクはほとんど使われていないという。
業界団体の日本衛生材料工業連合会によると、昨年春に比べ、マスクの出荷量は2倍以上、生産能力は3~4倍に増強され、「全国に緊急事態宣言が広がったとしても、マスク不足の心配はない」という。この状況下で、政府が“スガノマスク”を配布することはないだろう。
全国への布マスク配布に費やされた税金は約260億円。有効活用する学校もあり、全て無駄だったとは言い切れない。ただ記者が、アベノマスクを着用する子どもの姿を街中で見掛けたことは、一度もない。