製造業を中心に、大量首切りが続出しています。日本の製造業は、自動車産業への依存度が高く、働く人の13人に1人、製造業に従事する人の17%が、自動車産業に関係しています。そんな中、主な自動車メーカー7社だけで8000人以上の非正規雇用が解雇という憂き目を見ることになります。自動車産業全体で500万人前後の従業員だとすると、二次下請け、三次下請けにおける解雇なども含めれば、おそらく最小限でも5、6万人になるのではないでしょうか。
日本の非正規労働者は今1700万人を超え、働く人の3人に1人というところまできています。派遣労働者法の改正というのは、小渕内閣のときから進み始め、今度のアメリカ発の金融危機が起こる前から「この改正は、いざとなったら解雇自由、労働者を部品として弾力的に切り離せる仕組みだ」と用心されていたのですが、まさにそれが今、現実に起こっています。
私自身、何度もこのHPや著書などで言ってきたことですが、この現状は、新自由主義に基づく規制緩和は、竹中平蔵元経済財政政策・郵政民営化担当大臣や、経済諮問委員会の元メンバーである八代尚宏氏らの、非人道的な許しがたい失政によるものだと考えています。もちろん、立法府にいる我々も、強く反省をしなければいけません。
しかし、この種のことを指摘されると、竹中氏は、「新自由主義に基づく改革が悪かったのではない。改革が中途半端だからこのようなことが起こる」と言います。テレビで語る彼の語り口は実になめらかで、一般視聴者の耳には、責任逃れの言い訳がシュガーコートに包まれてスルスルと通り過ぎていくようです。
もしいま、1700万人の非正規雇用者も解雇が簡単でない状況にあったら、どうなっていたでしょう? 企業はおそらく、全労働者を同列に扱いながらレイオフをしたり、一時的に家庭待機にしたり、当然のことながら少し賃金を下げたでしょう。そうしないと会社が成り立っていかないからです。結果として、ワークシェアリングが広がっていたのではないか。全員が少し働きを減らし、一人ひとりが賃金を切り下げ、生活を少し切り下げる。それでもみな、生活の糧は守れる。もし日本人が生活水準を1割切り下げたとしても、たぶん発泡酒は毎日飲める。少なくとも餓死する人はいないでしょう。新しいYシャツは買えなくても、古いYシャツを着て、まだ新品同様のジャケットやセーターを着、少し底の薄くなった靴下を大事に履く。それでも生活はできているはずです。そしてそれは、中国や台湾、オーストラリア、ニュージーランドなどのGNPよりもずっと上でしょう。そして、時間が少し余った分で、多分、お父さんは家に帰って食事をするようになる。時間があれば、近所の地域社会でボランティアをして、困った人を助けようとする人も増える、そんなに悲観するばかりではありません。
しかし現実には今、一部の正規の人たちが守られ、非正規が首を切られ、工場宿舎から退去を命ぜられる。政府・地方自治体の緊急雇用対策があるので、その宿舎には解雇後1、2ヶ月は居残れるかもしれません。しかしそれも、永遠ではない。
本来なら連合は、10年前にワークシェアリングの議論をもっと突き進めるべきだと私は思いましたが、それができませんでした。連合自身が、正規労働者の利益擁護団体になっていたという、本源的な反省が今渦巻いています。
これから新年に向けて、残念ですが失業者は増大していくでしょう。それとともに、労働形態論──特にワークシェアについての議論は、勢いを増すでしょうし、私も強く主張していきたいと思っています。しかし、大企業における経営陣と、企業内部労働組合が、自分の利益だけ守ろうとする発想を変えなければいけません。ですから、この議論をやったからといってすぐに効果が現れるというものではない。しかし、議論をする中から影響が出る、それが大きい意味を持つことになる。
こういう中で、トヨタの一時下請けのある部品メーカーの社長の談話が目にとまりました。「注文が少なくなるのだから、自分のところのさらなる孫受けなどに、発注量を減らしたいところなのだが、そこはできるだけ減らすのを避けたい。自分のところにはまだ余裕があるから、下請けをできるだけ守りたい」と。ほっと救われた気になりました。
30人、50人の下請けを潰してはいけないという、確かそんな言葉でしたが、特殊な技術力を持つ中小企業を潰してしまうと、今度注文が増えたときに、発注先がなくなるのだそうです。自分たちのところに少し余裕があれば、できるだけ下請企業の能力を保存しておこうとする根性は見あげたものだと思いました。
私は、日本の自動車産業は、まだ息を吹き返すと思っています。なぜ自動車産業はこんなに波及が大きいかというと、自動車というのは、1年や2年は買わなくていいんです。だから、たちまち対前年度3割ダウン、4割ダウンになるのですが、1年半もすれば、あちらこちらがポンコツになってくるので、また買い始める。
そのときビッグ3は、よほどのことがないかぎり、まだ立ち直れていないでしょう。場合によっては、1社は潰れているかもしれない。そんな中で効率のよい日本の自動車産業は、息を吹き返してくる。だから、もし今、私にお金があったら、迷わず日本の自動車会社の株を買います。