「かがやき」が最初じゃない! 半世紀前に上越で起きた「通過」事件

開業した北陸新幹線の速達型列車「かがやき」は、新潟県内の上越妙高駅や糸魚川駅をいずれも停車しない。ホームの安全柵の向こうを超スピードで通過していく速達列車を苦々しく思う人も多い。だが、「通過」はこれが初めてではない。今から半世紀前、特急列車の停車を喜び、町民が出迎えた目の前を列車が通過してしまうという珍事件が北陸線能生駅(現糸魚川市)であった。

「能生騒動」が書かれている藤崎一輝著の「仰天列車」
仰天列車S

「能生騒動」として有名になった事件は、1961年10月1日に起きた。朝日新聞は10月3日の紙面で「ぬか喜びの特急停車」との見出しで報じた。鉄道ライター藤崎一輝著の「仰天列車」(2006年・秀和システム刊)では、「能生駅の珍事」として漫画入りで取り上げている。

同日のダイヤ改正で、大阪と青森を結ぶ特急「白鳥」が新しく走ることになった。時刻表に「白鳥」が能生駅に停車する時刻が掲載されたものだから、今まで準急も止まらなかった田舎の駅に特急が止まると、町民は喜びに沸いた。婦人会が歓迎の踊りを練習し、「ミス能生」まで選出するお祭り騒ぎに。町では時刻表を印刷して各方面に配ったほどだ。

待望の列車が能生駅に停車した午後2時34分。婦人会の40人がそろいの浴衣姿で踊って出迎え、機関士に花束を贈呈した。

ここまでは良かった。だが、ドアは開かぬまま「白鳥」は目の前で発車してしまったのだ。いったい何が起きたのか。

金沢鉄道管理局が、当時は単線のために生じる4分半の待ち合わせ時間で客扱いをすると思い込み、駅掲出の時刻表に上り列車の停車時刻を記載してしまった。さらには、一部の市販時刻表にも時刻が掲載されたのだった。

当時の小笠原忠治能生町助役は「当町だけでなく青海、糸魚川など近くの市町村も大喜びだっただけに残念だ。とにかく停車するのだから今後は何とか乗り降りをさせてくれるよう国鉄本社に運動するつもり」(朝日新聞)とコメントしている。

なお、能生駅は2015年3月14日にJR西日本からえちごトキめき鉄道に移管されたことに伴い、新設された快速列車の停車駅になった。