事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

石破茂総裁による不記載議員の自民党非公認は二重処罰・一事不再理違反?

偽の論点で浪費するのはやめるべき

石破総裁の不記載議員非公認は二重処罰・一事不再理違反?

デイリースポーツ 2024.10.05 八代弁護士 石破首相の裏金議員公認は「当たり前」 公認外しは「許されない二重処罰」 野党批判で揺れる首相が「理解できない」

自由民主党の石破茂総裁が政治資金パーティーをめぐる政治資金収支報告書への過少記載または不記載が行われたことで党規による処分を受けた党員の一部に対して、今年10月に行われる衆議院総選挙に非公認とする方針が示されました。

この事に関して「二重処罰だ」「一事不再理の原則に反している」といった批判が一部において行われていますが、本件では妥当しない架空の争点だと思います。

刑事終局処分・自民党党紀委員会の処分、有権者との関係の選挙

自民党党紀委員会の審査結果、不記載・裏金議員

党紀委員会の審査結果について記者会見 | 記者会見 | ニュース | 自由民主党

自由民主党規律規約

これまでに本件に関して一部の者が起訴や起訴猶予となった以外はほとんどが刑事終局処分として不起訴となっており、自民党の党紀委員会の処分としては上掲画像の通り、離党の勧告、党員資格の停止、党の役職停止、戒告といった処分が為されています。

対して、有権者を向いた選挙に関する扱いでは意味合いが異なるでしょう。

そもそも、自民党の幹部が選挙が行われる都度、誰を重要視するのか?という候補者調整を決めて来たので、今回の扱いもその一環でしかない。

解散時期が現在の体制が決まってからかなり早期に設定された事に伴って不記載問題に関連する議員の扱いをどうするかが決まるのも遅くなってしまった、とは言えますけど、解散総選挙なんていつもそうだったでしょう。

むしろ今回みたいに総理が交代する事が想定されていたのだから、通常の総選挙よりは予め予測は出来るはずのものだった。ただ、石破総理になることは予測不可能だった。

じゃあ今回の扱いが正しいのか?は分かりませんが、少なくとも一事不再理の原則や二重処罰の禁止の問題だとしてさも一般法理で物事の正誤を決するには、事案が違うだろうと思います。

同一の事実に基づき複数の異なる性質の不利益取扱いが為される例

例えば同じ交通事故の事実でも行政罰と刑事罰と民事賠償が併存する事があるわけで、『一つの事実に基づいて複数の制裁乃至は不利益な扱いを受ける事』は、世の中にあり触れてます。

  1. 付加点数評価、その先の免許停止等の行政処分
  2. 罰金や懲役等の刑事罰
  3. 民事賠償
  4. 業務中の社用車による事故の場合、組織による処分

今回の不記載議員の非公認も、このような別側面からの不利益取扱いであって、「追加の処分」ということではないでしょう。現に党紀委員会が開かれて審査の結果として選挙における非公認が決定されたのではなく、石破総裁が幹事長らと相談して決定したとされています。

他、最高裁大法廷昭和33年4月30日判決では、法人税法第 43 条の追徴税と罰金とを併科することが憲法第三九条に違反するかが争われた事例であり、追徴税の性質を分析した後に「追徴税のかような性質にかんがみれば、憲法三九条の規定は刑罰たる罰金と追徴税とを併科することを禁止する趣旨を含むものでないと解するのが相当」としているように、何でもかんでも憲法39条後段を持ち出して一事不再理効・二重処罰の禁止が妥当するという主張をするのは、憲法の趣旨にもそぐわないことになります。*1

党紀委員会の処分による非公認ではない選挙における非公認

自由民主党規律規約第23条1項は党紀委員会が行う議員の処分の種類が書かれており、同項の5号に「選挙における非公認」がありますが、【党紀委員会による処分としての非公認】ではない非公認の例なんていくらでもあったはずです。*2

例えば、県連が特定者の非公認を党本部に要望した例もあります。

「後藤田氏を非公認に」 自民徳島県連が申し入れ可決 [徳島県]:朝日新聞デジタル

もっとも、後藤田氏はその後、自民党本部により公認が決定されました。*3

政治資金パーティーの報告書不記載による追加の処分に見える言動に注意すべき

  1. 「党紀委員会の処分として非公認とされた人」
  2. 「非公認まではいかないが党紀委員会からそれ以外の処分を受けた人が今般の選挙で非公認になった人」

なお、仮に①②のような人が居た場合、②の方が見た目上、まるで重い処分を受けたように見えますが、今般の処分で「非公認」の処分を受けた者は居なかったので、問題にはなりません。

ただし、まるで追加の処分に見えるような言動を石破茂総裁をはじめとした自民党党幹部が発したならば、党員や有権者からの見た目としてよくないので、石破氏による発信方法の問題としてその辺りは今後どうなるのか。

解散総選挙の日程の希望を総理就任前に表明した際に「選挙管理委員会の準備のため」などと口走った例もあるため、注意が必要と思われます。

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*1:二重処罰等に関する条文・判例

*2:当初稿では党規律規約9条と書いて画像もその部分を掲載していましたが、今般の処分理由である23条のものに差し替えました。

*3:後藤田氏、衆院選徳島1区公認 2区・山口氏、比例・福山氏 自民本部発表 2021/10/11 19:40

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