黄金比に色んな調味料を代入すると調理の幅が格段に広がった【自炊料理家・山口祐加】

和食調理をする際の調味料の黄金比である「醤油:みりん:酒=1:1:1」。この配分を工夫したり、一部を別の調味料に置き換えたりすることで驚くほど自炊の幅が広がります。

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和食の外さない味付けといえば、醤油:みりん:酒=1:1:1というのがセオリー。ただ、毎回同じ味付けだと飽きるよねと思う人がいるのも確か。そこで自炊する人を増やすために活動する自炊料理家・山口祐加さんに簡単にできる味変アイデアをご紹介いただいた。いつもとちょっと割合を変えるだけ、何かを加えるだけで味に変化も生まれ、いつもと違う一皿になるはず!

 

話す人:山口祐加さん

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自炊する人を増やすために活動する自炊料理家®/ 日々のご飯 #今日の一汁一菜 /料理初心者に向けた「自炊レッスン」をパーソナルレッスンとオンラインにて子ども向けに開催中 #子ども自炊レッスン

 

醤油:みりん:酒=1:1:1。黄金比の万能さを改めて感じてみる

▲今回はオンラインでお話を伺った

里芋の煮っ転がし(醤油:みりん:酒=1:1:1)

黄金比をこねくりまわす前に、まずは正面から黄金比に臨んでみようと思う。

今回は里芋を煮ることにした。煮っ転がしである。

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:お店で出てくる里芋は白っぽく、上品で淡泊な見た目というものが多いと思います。これは良い出汁を使い、ゆっくり煮たものですが、家庭で作るなら一度茹でこぼして(※)少ない煮汁で味付けるイメージでOK。濃い煮汁で周りをコーティングしながらさっと火を通し、割ると中は白く、火は通ってふんわりしているけれど、味はしみておらず、煮汁をつけて食べる。口内調味で美味しくいただく、という感じです。

 

※茹でこぼし:料理に使う食材の下処理方法のひとつ。材料を湯がいた後に、その茹で汁を捨てること。

 

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▲外側にはしっかり醤油がしみている

 

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▲割ってみると中が白い。だが、食べるとしっかりと味がついており、うまうま

 

煮汁のベースは里芋10個程度に対して醤油、みりん、酒ともに大さじ1(15ml)と水150ml。

出汁は使わず、シンプルに黄金比に水を加えて煮た。割ってみると中は白いが、塩味、甘味は十分についている。ほくっとねっとり、うまい。

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:昨夜、長いもと鶏挽肉の煮物を作ったのですが、この場合、鶏肉から出汁が出るので他に出汁を入れる必要はありません。ですが、野菜単体の煮物なら出汁を足すと味わいが深くなります。本当は里芋、大根など野菜だけで煮物を作る時には顆粒でも良いので出汁はあったほうが良いですね。

 

炊き込みご飯(醤油:みりん:酒=1:1:1×色んな食材)

黄金比そのものは変えなくても炊き込みご飯の場合、具を変えれば味変は自由自在。今回は「鮭ときのこ」と「鶏肉にごぼう、にんじん」という取り合わせの二品を作った。

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:作り方としては米を研いで炊飯器などに入れた後、最初に調味料を入れ、その後、いつも炊飯する時の分量まで水を足せばOK。米2合に対して、醤油、みりん、酒各大さじ2と覚えておけば間違いはありません。

 

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▲わが家では土鍋でご飯を炊くので、計量カップに調味料を入れ、そこに水を足して分量を調節した

 

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▲鮭は切り身のまま入れて、炊きあがった後に取り出して骨を外し、細かくしてからご飯に混ぜ込んだ。鮭は生を使用。塩鮭を使うとしょっぱくなりすぎるので注意

 

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▲鶏とごぼう、にんじんは刻んだものを炊飯前に入れ、炊けたらそのままざくっと混ぜておしまい

 

醤油とみりん、酒が塩味と甘味のほどよいベースを作り、それが鮭やきのこ、鶏などの香りを何倍にも増幅させる。

和風の味付けを楽しみたい時、黄金比(醤油:みりん:酒=1:1:1)は本当に万能であることが分かる。

この組み合わせだけでも知っておけば、食材を変えるだけで色んな味わいを楽しむことができそうだ。

 

黄金比から“酒”を抜いてみると、どうなるのか。禁断の引き算

煮魚(醤油:みりん:酒=1:1:1/醤油:みりん=1:1)

さて、ここからが本番。黄金比の比率を崩して、可能性を探求していこうと思う。

これまでは醤油:みりん:酒と律義に3品を使わなくてはいけないと思っていたのだが……。

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:酒は蒸発する時に素材の臭みを取り、料理を美味しくしてくれる働きがありますが、みりんにも酒と同じように臭みを取る働きがあります。だから、酒はなければ省いてしまっても問題はありません。一方、みりんには甘味を付加する、醤油のしょっぱさを消す働きがあるので使ったほうが美味しい料理になります。

 

なんと、酒を抜いてもいい、と……!?

ということで、最初は酒を使う、使わないで味がどう変わるかの実験をしてみることに。料理は和食の王道、煮魚。山口さんはブリ、サワラ、メバルやイサキをお勧めしてくださったのだが、ウチの近所のスーパーにはトホホなことにどれもなく、仕方がないので唯一置かれていた浅羽カレイを煮てみることにする。

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:煮魚と聞くとたっぷりの煮汁で中まで味がしみこむように長時間煮るものと思っている人がいますが、里芋同様、濃い煮汁で周りをコーティングしながらさっと火を通せばOK。煮汁が沸騰したところに入れて、片面で2~3分、ひっくり返してさらに2~3分。5分も煮れば十分です。

 

煮魚と聞くと時間のかかる料理という印象があるかもしれないが、実はちゃちゃっとできる一品というわけだ。

そんなわけで、浅羽カレイである。醤油、みりん、酒を等分に使ったもの、酒を使わなかったものをそれぞれ作ってみた。

 

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▲山口さんの教えに従い、5~6分煮て、中身が白い状態で仕上げる

 

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▲醤油:みりん:酒=1:1:1で作った煮魚

 

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▲一方こちらは、醤油とみりんのみで作った煮魚

 

切り身の大小はあっても見た目に大差はなく、そして食べてみたところも、う~ん、私の舌では違いは分からず。正直なところ、どちらも美味しく満足のいく仕上がり。

確かに、醤油、みりん、酒において酒は抜いても、塩味や甘味、コクは出るので、抜いてもいい存在なのかもしれない。

 

みりんの役割をブーストさせるために酢、砂糖を足してみる

続いていじってみるのはみりん。みりんは甘味付加、醤油の角を消すために必要とのことだが、この役割を他の調味料で補うことはできるだろうか。

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:ブリの腹身や鶏のもも肉など、脂が多い素材をさっぱり仕上げる方法として、みりんを半分にしてその分を酢に変えるという手があります。お店で食べる照り焼きはウチで食べるものよりこってり、甘味のしっかり効いたものが多いと思います。それは黄金比に砂糖あるいは蜂蜜をプラスしてあるから。蜂蜜をプラスした場合には照りも良くなります。醤油、みりん、酒が大さじ1ずつの場合なら、砂糖を小さじ1プラスしてみてください。

 

ということで、鶏の照り焼きを3パターン作ってみることにした。王道、さっぱり、こってりである。

 

王道の鶏の照り焼き(醤油:みりん:酒=1:1:1)

まずは黄金比で作った、王道バージョン。

黄金比で作った王道バージョンはいつもの安定の味。これから紹介する、個性の強い2パターンに比べると普通オブ普通だが、まずはこれを作ってみて、その後、割合を変えて自分にとってのベストを模索というのが良いかもしれない。

 

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▲醤油:みりん:酒=1:1:1で作った普通バージョンの鶏の照り焼き

 

鶏の照り焼きさっぱりバージョン(醤油:みりん:酒:酢=2:1:2:1)

さっぱりバージョンはたれがさらっとしていて冷めても粘度が変わらない。糖分を気にしていたり、脂っこいものが苦手だったりしたらこちらだ。これなら脂を強く感じずにさらっと食べられる。

 

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▲醤油:みりん:酒:酢=2:1:2:1で作ったさっぱりバージョン

 

鶏の照り焼きこってりバージョン(醤油:みりん:酒:砂糖=2:2:2:1)

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:砂糖をプラスするやり方の他、みりんを砂糖に変えるという手もあり、ダイレクトな甘さの、お店っぽい味になります。昔から活躍されている料理家さんの中には砂糖を使う方も多いようですね。

 

残念ながら私の写真の腕では違いが見えにくいのだが、こってりのたれは冷めてくるとねっとりと粘度が高く、甘味もしっかり。お店の味が好きな人ならこれだろう。

 

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▲醤油:みりん:酒:砂糖=2:2:2:1で作ったこってりバージョン。たれの粘度がお分かりいただけるだろうか

 

甘味付加としてのみりんの役割を増幅させたり、逆にさっぱり感を演出させたりするために砂糖や酢を足してみるのはかなり面白い。残念ながら今回、みりんを抜く、ということはしなかったのだが今後、みりんを抜いてその分を100%砂糖に置き換えたりするとどうなるのかなど、探求していく余地は大いにあると感じた。

 

醤油を塩、味噌、ナンプラーなどに置き換えるとどうなるだろうか

きんぴらごぼう(醤油:みりん:酒=1:1:1)

黄金比のうち、酒は抜いても良く、みりんはうま味、甘味として大事と考えると、残るのは醤油である。醤油の役割を塩分付加と考えると、醤油を他の調味料に変える手があるとのこと。

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:醤油を塩、味噌、ナンプラーなど他の塩分を足す食材に変えることで味わい、見た目は大きく変わります。味噌汁を作らないので味噌が余っている、調理方法が分からなくて使い切れていないナンプラーがあるという人なら、ぜひ、試してみてください。

 

というわけで、まずは和食の副菜として定番のきんぴらごぼうを醤油と塩の2バージョンで作って比較してみた。醤油バージョンはいつもの通り、ごぼうとにんじんを炒めてから混ぜておいた黄金比調味料(醤油:みりん:酒=1:1:1)をプラスして作った。

 

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▲醤油で作ったきんぴらごぼう

 

きんぴらごぼう(塩:みりん:酒=お好み:1:1)

塩バージョンはしょっぱくなりすぎるのが怖く、みりんと酒を混ぜたものを用意し、それを入れてから、味見しつつ塩を入れた。

当たり前だが塩バージョンは見た目からして違う。醤油バージョンにあった香りの奥深さがない分、サラダ的にぱりぱり食べられる感じがあり、これはこれで美味しい。

 

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▲こちらは塩バージョン。明らかに色が違う(当たり前か)

 

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▲左は醤油味で、右が塩味。並べてみると違いが分かる

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:塩分の量は食材の1%が目安。食材が600グラムの場合には小さじ1(6グラム)です。

 

その比率で考えると今回は少な目だったと思うが、私的にはそれで正解。いつものきんぴらごぼうより野菜の味が引き立つ、ほんのり甘い出来上がりで、これは定番にしたいと思った。

 

醤油→味噌で作る鮭のホイル焼き(味噌:みりん:酒=1:1:1)

続いては醤油を同量の味噌に変えて鮭ときのこのホイル焼きを作った。ホイルにきのこ、鮭をのせてたれをかけて包み、フライパンで焼くだけと簡単な料理でもあり、これはお勧め。洗い物が少なくて済むのも良い。

 

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味噌をみりん、酒と混ぜる。味を見て味噌の分量は調節しても良いと思う。

 

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合わせ調味料を鮭にかけてアルミホイルで包み、

 

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▲しょっぱくなりすぎるため、塩鮭でなく生鮭で作るべし

 

フライパンで焼いたら完成。

食べてみると、これは不思議な味わいで、新しい。醤油で作ると角の立った塩味が先に口内に広がるが、味噌で作るとまろやかな塩味で、まるで田楽味噌のような香りが鼻に抜ける。それが鮭の香りと絶妙にマッチしている。

鮭の上にたれをかけただけだと焼いている間に垂れてしまうので、丁寧に作るならたれを鮭に絡めてから調理したほうが味が全体に馴染んで良いかもしれない。

 

豚肉となすの炒めもの(ナンプラー:みりん=1:1.5)

続いては醤油の代わりにナンプラーを使ってみる。料理は豚肉となすの炒めもの。ナンプラー1に対してみりんを1よりちょっと多めに使った。

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:ナンプラーは塩味が強いので、みりんと1:1だとみりんが負けるので、少し多めにしてください。ナンプラーに独特のうま味、香りがあるので酒は使わなくても大丈夫。なすなど味の濃い夏野菜や豚バラ肉、海老、きのこなどに合います。

 

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▲余りがちなナンプラーの使い切りレシピとして覚えておきたい

 

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我が家ではなすは甘めの味付けで食べることが多いのだが、ナンプラー風味はきりっとした味で、ビールが欲しくなる感じ。豚バラ肉を買い忘れたため、ウチにあった生姜焼き用の脂身の少ない豚肉を使ったのだが、適度に脂がある肉のほうがもっと美味しかっただろうと反省した。

ここまで醤油とみりん、酒の配分をいじったり、他の調味料に置き換えたりすることでどんな味わいになるか可能性を探ってきたわけだが、醤油の部分が最も遊び心を反映させやすい、融通が利くと感じた。醤油の役割は「塩分付加」であるから、この役割を持つ他の調味料を代入すれば、味わいは無限に広がるだろう。

 

おまけ:黄金比はそのままに、ちょっとしたスパイスを加えれば味わいはさらに無限に

イワシ煮(醤油:みりん:酒=1:1:1+生姜)

最後に香り、スパイスなどを加えて味変する方法を試してみよう。一般的なのは生姜やニンニクなどを加える手だろう。

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口:魚であれば黄金比の調味料に生姜、もしくは梅干しを入れるだけで変化します。

 

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今回は黄金比調味料+生姜にトライしてみる。まず黄金比調味料に刻んだ生姜を入れて……

 

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そこにイワシを入れて煮れば完成。

 

ここで作ったのは生姜を入れて煮たイワシ。イワシだけでなく、ニシンやブリ、サンマなどのいわゆる青魚と生姜、梅干しは相性抜群なので、ぜひ、試してみてほしい。

生姜、ニンニクなどの香味野菜はその都度切るのが面倒なので、まとめて千切り、みじん切りなどにして冷凍しておくといつでも使えて便利だ。

 

肉じゃが(醤油:みりん:酒+カレー粉)

香りという点ではカレー粉もお勧め。

 

f:id:Meshi2_IB:20220412150714p:plain山口さん:肉じゃがにカレー粉を入れると子どもが好きな味になります。カレー粉自体には塩分が含まれていないので純粋に風味づけとして使えますよ。肉じゃがなどの煮物では1:1:1の調味料に10倍の水と覚えておくのが分かりやすいですが、そこまで厳密に量らなくても具にひたひたの水、あるいは出汁を入れると考えても良いです。

 

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▲黄金比にカレー粉を足して作った、カレー肉じゃが

 

口にした瞬間、カレーの香りがブワッと広がり、噛んでいくと奥から和風の味わいが追いかけてきて、美味しい。 個人的には、男爵いものほくほく感とカレー味の肉じゃがという意外性も楽しい。

 

以上、黄金比調味料を味変するノウハウを山口さんに教えていただいた。これを参考に、自分の舌の感覚に相談しながら外したり、加えたりでいつもと一味違う! にチャレンジしてみたい。

 

書いた人:中川寛子

“真山知幸”

住まいと街の解説者。30数年不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他、まちをテーマにした取材記事が多い。主な著書に『この街に住んではいけない』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』『東京格差 浮かぶ街、沈む街』(ちくま新書)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

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