トップメッセージ

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「持続可能な社会の実現」に向けてVISION 2030を推し進める

グンゼグループは、創業の精神である「人間尊重」「優良品の生産」「共存共栄」を企業理念として掲げ、お客さま起点の事業運営を行っています。これは1896年(明治29年)の創業における成り立ちに由来しています。
当時の日本の大企業は、渋沢栄一に代表されるような資本家によるオーナー企業が大半でしたが、グンゼは、地元の多くの小株主から出資を受け、公器としての意味合いが強い企業としてスタートしました。創業128年を経た現在は、知名度が高いアパレル事業のほか、機能ソリューション、メディカル、ライフクリエイトの計4事業を展開し、「優良品」を提供することによって企業価値を高めています。
グンゼグループでは、変えてはならない創業の精神を「経糸」に、時代に対応することを「緯糸」に位置付け、未来へ向けて新たな価値を創出していきます。

大きく変わる市場環境の下で、企業として勝ち残る

ここ数年、外部環境の変化の激しさを実感していますが、今やそれが当たり前の時代になったのではないか、とも感じています。社会経済活動は、アフターコロナで立ち直りつつありますが、世界情勢はウクライナ、イスラエル紛争など地政学的な問題が継続し、対立の先鋭化など複雑さを増しています。一方で、環境問題への対応は喫緊の重要課題と認識しています。
日本は、もともと国土が狭く、資源も乏しい中で、2023年から2030年までに人口が約800万人減少することが予想され、企業活動にとっても今や切羽詰まった状況にあると言えます。片や足元では、企業には、賃金と物価を定常的に上昇させる取り組みを行うことで、国内経済の好循環を発生させることが期待されていますが、企業の持続可能な成長のためには、原資となる収益改善を継続的に実現できるかが重要です。人口減少は市場の縮小と、労働人口の減少をもたらします。そして採用活動において企業が選ばれる側になります。私たちは今、企業として「選ばれるか」「勝ち残れるか」の分かれ目に立っており、この急激な変化に対して覚悟を持って任に当たらなければなりません。
企業が勝ち残るためには、競争力が最も重要です。競争力とは「世の中に認められるかどうか」ですが、グンゼの競争力は「ここちよさ」の提供にあります。保有するコア技術は「ここちよさ」を実現するための手段ではありますが、技術だけがあっても生き残れるわけではなく、「ここちよさ」を実現する価値を提供し続けることが重要だと考えています。

中期経営計画「VISION 2030 stage1」2年目の評価

2030年のありたい姿である「VISION 2030」では、新しい価値を創造し「ここちよさ」を提供することを目指しています。そのための基本戦略として「VISION 2030 stage1」では、「新たな価値の創出」「資本コスト重視の経営」「企業体質の進化」「環境に配慮した経営」を掲げており、これらは「取引先・お客さま」「株主・投資家」「従業員」「社会・環境」の4方向のステークホルダーに、バランスの取れた価値を提供することを意図しています。
「ここちよさ」の捉え方は人それぞれですが、「取引先・お客さま」には、長らく取り組んできたさまざまな特徴のある製品やサービスがここちよいと認めていただき、継続してご利用いただいています。「株主・投資家」に対しては、利益還元を経営の重要政策として、連結ROEが株主資本コストを上回るまで総還元性向100%を継続する方針を掲げ、2024年3月期は、6円増配の1株当たり153円の配当としました。また「従業員」に対しては、賃上げや福利厚生の充実など働く環境の改善に取り組み、「社会・環境」に対しては、プラスチックフィルム分野の基幹工場である守山工場(滋賀県守山市)のサーキュラーファクトリー®(資源循環型工場)への転換や、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)取得の建屋建設を進めるなど、事業活動を通じた社会課題の解決に取り組んでいます。
「VISION 2030 stage1」では、これら4方向のステークホルダーに対して着実に取り組みを進めました。ただし、目標にはまだ届いていない状況であり、私は十分とは考えていません。中期経営計画の最終年度となる2024年度では、各事業において、自働化とDX推進による生産性向上の取り組みやグローバル最適生産体制によるコスト競争力の強化、原材料調達網の拡充を強化した上で、引き続き市場のさまざまな変化を捉えた新たな価値の創出に取り組んでいきます。

特徴ある事業を通じて、社会に「ここちよさ」を提供する

グンゼグループは、アパレルからプラスチックフィルム、メディカルに至るまで、事業が多岐にわたります。それらをひとくくりにまとめることは難しく、各々の事業特性を活かしながら、全社シナジーを生む事業ポートフォリオ戦略を実行しています。私は、それぞれの部門が事業環境に柔軟に対応し、競争力をつけていくことで、社会に「ここちよさ」という価値を提供できると考えています。
一例を挙げると、「機能ソリューション」セグメントに含まれていたメディカル事業を2023年度から独立区分し、成長けん引事業であるという位置付けを明確にしました。それに先立ち、メディカルグループの販売部門であった株式会社メディカルユーアンドエイとグンゼメディカルジャパン株式会社を統合し、2022年10月に「グンゼメディカル株式会社」を設立。さらに、2023年4月には、メディカル事業部の研究、開発、薬事、管理部門が合流し、研究から販売まで一気通貫に運営できる医療機器専業の組織体制としました。現在はキャリア人財を積極的に採用するなど、メディカル業界に見合った独自の事業体系を確立しています。
次期中期経営計画「VISION 2030 stage2」を2025年5月に発表予定ですが、次のマイルストーンに向けて、メディカル事業は、生体吸収性製品を中心とする革新的な医療機器の提供により、新たな企業価値を創造し、グンゼグループの成長戦略の柱としてリードしていきます。
具体的には、1収益性の高い自社製品比率の拡大による持続的成長、2創傷領域(WOUND)や胸腹部領域(Surgical)向け製品の販売強化など領域別ポートフォリオ戦略の推進、3企業としてのプレゼンスを向上させる新製品開発および新規領域への挑戦、という3つの事業戦略を掲げています。これらの戦略を加速させるため、2025年2月竣工を目標に、創業の地である京都府綾部工場敷地内に新工場(第三工場)を建設し、開発力強化のための研究開発施設を増強します。新工場では、需要が拡大している癒着防止材の増産体制を整備します。
加えて、今後医療・半導体分野での大きな需要増が期待されるエンジニアリングプラスチックス分野は、2025年3月完成を目標に、主力である江南工場(愛知県)を拡張します。また、グンゼグループの中で現在最も環境問題に積極的に取り組んでいるプラスチックフィルム分野において、サーキュラーファクトリー®の本格稼働と合わせて、サーキュラーメーカーに変革するための基礎となるリサイクルセンター設置を進めるなど、成長事業への投資を強化していきます。

「新しい価値」を創造するグンゼグループのサステナビリティ

事業が多岐にわたっていても、グンゼグループは製糸会社が発祥のモノづくりメーカーであり、すべての事業において製品・サービスを差異化し、「優良品」をつくるという共通のDNAがあります。
その意識が、社員にいかに浸透しているかを改めて認識した事例をご紹介します。
2020年初頭、新型コロナウイルス感染症の流行により、日本国内ではマスクが飛ぶように売れ、店頭で長期にわたって品切れになったことを覚えておられると思います。アパレル事業の技術を有するグンゼとすれば、この時、間髪をいれずに布製の生地を用いたマスクを製造・販売し、利益を出してもよかったはずです。ところが、アパレル事業の現場では、着けた時に「肌にやさしいか」「フィットしやすいか」「耳が痛くなりにくいか」などの品質に徹底的にこだわったため、「肌着屋さんがつくった肌にやさしい布製マスク」を発売したのは5月になってからのことでした。その後も品質向上に取り組み、さらに夏向けマスクの開発など、「ここちよさ」を提供し続けたことでお客さまから評価され、自社ECでのヒット商品となりました。この姿勢こそ私たちのスピリッツであり、倫理観だと思います。この取り組みを全社的に紹介し、社内のシナジー効果が生まれました。
2030年に向け、継続してグンゼグループが目指すべき方向と考えているのが、気候変動を中心とした環境課題への取り組みや、人的資本の強化など、サステナビリティへの取り組みです。持続可能な経営に欠かせない人財戦略には、私たちの創業の精神が息づいています。創業者の波多野鶴吉は「善い人が良い糸をつくる」「心が清ければ光沢の良い糸ができる」の信念のもと、生糸の品質を向上させるために、工女(従業員)に対する教育の充実を図りました。「表から見れば工場、裏から見れば学校」と言われたほどで、人を大切にする、人を育てる、人を活かすという経営理念は不変のものとして引き継がれています。
現在はジョブ型雇用や中途採用が増え、終身雇用のスタイルが変わりつつあり、時代に合った施策が必要です。女性活躍や働き方改革は当然のことですが、経営参画意識の向上や、処遇制度の改革、および主体的なキャリア形成支援にも取り組んでいきます。
私はもっぱらプラスチックフィルム分野を歩んできた人間ですが、今後は、そうしたスペシャリストに加えて、事業部門の人事交流など、将来の幹部育成につながる人財教育を進めていきます。

グンゼグループのDNAを継承する

経営人財の育成方針について尋ねられたとき、教科書的には一定のセンス、知識、経験、スキルの蓄積が必要と答えます。しかし、これらは後からの努力でも習得できます。私が経営を行う上で絶対的に必要なものと考えているのは、健康と、資質につながる性格です。健康と性格は持って生まれたものであり、それまでの生い立ちに大きく左右されます。急に努力してもなかなか変わるものではありません。ただどちらも経営という仕事をする上では非常に重要です。このスクリーニングを経て競争が始まりますが、ここで自分に不足するスキルを習得する努力が重要になります。ジョブ型雇用が増えて、一生涯一つの会社に勤めるスタイルが変わってきていますが、柔軟に対応しつつ人財を育成していきます。
私の座右の銘は「人事を尽くし、天命を待つ」です。ややもすると他人任せの姿勢に誤解されかねない言葉ですが、まずは自分に与えられた業務を一生懸命やることの重要性が伝わると考えています。業務においては、小さなことでもいかに競争力を磨くかが重要です。社内での競争力を高めつつ、お客さまに対してはグンゼの競争力を見極めていただけるよう、取り組んでほしいと願っています。仕事というものは、一生懸命取り組んでもなかなか順調に進むことはありません。しかし、常に相手より一歩先にいけばいいのではないでしょうか。一気に上を目指すだけではなく、一歩ずつ着実に歩み続ける業務の積み重ねこそが、2024年に創業から129年目を迎えたグンゼグループが、さらに長期にわたって継続していくために必要なことと考えています。

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ステークホルダーの皆さまと紡ぐ共創価値

私たちは、これからも「変革と挑戦」を進め、「未来を創造する新たな製品・サービス」を提供することにより社会に貢献するという強い意思を持ち、顧客満足と企業価値向上に取り組んでいきます。そして社会的利益と経済的利益の両立を目指すサステナブル経営を通じて、50年後、100年後も継続する企業であり続けたいと考えています。
皆さまの一層のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。