11月30日、東京・新橋にて、インディーゲーム開発者向けカンファレンス「Indie Developers Conference 2024」が開催されました。本稿では、「未経験からBitSummit Awardを獲得するまでの道のり」と題されたセッションのレポートをお届けします。本セッションには、ワンダーランドカザキリより、個人ゲーム開発者、譽田潔(ほんだ きよし)氏が登壇しました。
未経験からBitSummit Awardへ
譽田氏は個人ゲーム開発者。3DCGデザイナーの経験を活かして、ボクセルアートが特徴的なゲームの開発を行っています。デザインのみならずプログラムに至るまで、今までほぼ一人で開発を担当してきたとのこと。
また譽田氏は40代からゲーム開発を開始し、約10年間のキャリアを積み、日本最大級のインディーゲームイベント「BitSummit」にて、2024年出展作品の最優秀賞に当たる「BitSummit Award 朱色賞 <大賞>」を『CASSETTE BOY』という作品で獲得しています。
譽田氏のゲーム開発に至るまでのバックグラウンドについて。中学、高校生時代にコンピュータ「X68000」を購入し、プログラミングの勉強を開始、その後CGの専門学校に入学。ビデオプロダクションやデザイン会社勤務、CGの専門学校講師を経て、ゲーム開発に必要な基本的なスキルを身につけていったそう。以後、ワンダーランドカザキリという従業員2名の株式会社を設立し、ウェブサイトの制作やシステム開発事業の傍らで、個人ゲーム開発を開始しました。
個人ゲーム開発のキャリアは、スマホ向けゲームのリリースからスタート。ボクセルアートのダンジョン攻略アクションゲーム『ブロッククエスト』にて、TGS初出展しました。続いて、ボクセルアートのローグライクダンジョン攻略ゲーム『ダンジョンに立つ墓標』をスマホ向けに配信。本作では別事業で繋がりのあった映画会社とやりとりを行い、当時上映中の映画とのコラボも実現したとのこと。第三作目ではボクセルアートのダンジョン構築ゲーム『BQMブロッククエストメーカー』をリリース。当初はスマホ向けに開発されたゲームであったものの、イベント出展にて得たコネクションをもとに、中国へのパブリッシュやニンテンドースイッチ版への移植が実現したそうです。
そして現在開発中の最新作『CASSETTE BOY』にて2024年「BitSummit Award 朱色賞 <大賞>」を獲得しました。本作は「シュレディンガーの猫」からヒントを得た、グラフィックの特徴を活かしたパズルアドベンチャーゲーム。一見2Dに見えるグラフィックは実は3Dのボクセルアートであり、カメラをぐるぐると回しながら、秘密の通路などを見つけ、パズル攻略を行う作品です。
なお過去作から本作に至るまで、譽田氏は「良いゲームのアイデアを考えた上で、グラフィックをデザインする」のではなく、「先に魅力的なグラフィックを作り、その後どうしたら面白いゲームになるか考える」といった逆転の発想で開発を行っているとのこと。
一つ一つのイベント出展が大きなチャンスに繋がっていく...イベント出展の重要性
そんな譽田氏がゲーム開発においてなにより重要視しているのは「イベント出展」。初期作『ブロッククエスト』を東京ゲームショウに出展した際、目の前でプレイするユーザーの反応を直接見たり、メディア取材を受けたことが大きな開発の原動力となったといいます。以降は、「BitSummit」や「デジゲー博」、「TOKYO SANDBOX」など、多くのイベントに積極的に出展し続けています。
譽田氏はイベント出展を経験するたびに、ゲーム制作の上で重要となる要素を数多く実感していると紹介しました。
まず、ユーザーの反応が直接得られることです。ゲームプレイの様子を観察すると、自身の想定とは全く異なるユーザーのプレイなど、思いがけない発見に多く出会い、レベルデザインやUIを改善するきっかけに。中には無償でバグを探してくれる「謎のデバッカー」も存在し、開発の助けになることもあったといいます。個人開発ゆえに陥ってしまいがちな「独りよがりの開発」の防止や、「暗中模索していたゲーム開発の悩み」を解決するきっかけにもなります。またモチベーション維持の効果もあり、イベントの締め切りが目標となるため、継続したゲーム制作が可能になるとのこと。
また、業界関係者との出会いのチャンスも。Xbox、PlayStationをはじめとするプラットフォーマーや流通業者、パブリッシャーなど、普段はなかなか接点がない業界関係者と話せる機会があります。出展をきっかけにニンテンドー3DSへの移植や、『BQMブロッククエストメーカー』が中国配信が実現したという実例もセッションでは取り上げられました。
また、メディアとの接点を持つ機会にも。イベントにはメディア関係者も訪れるため、ゲームを取り上げてもらうチャンスが広がります。一度名刺交換した上で、記事を掲載してもらうことができれば、その後は開発者側からプレスリリースを送ることができるため、媒体に継続的に取り上げてもらうきっかけに繋がるそう。イベント出展時に、メディアに紹介されたゲームがSNSで注目され、認知度向上につながったほか、試遊したプレイヤーのポストがXにて拡散され、ゲーム作品の知名度向上に繋がった経験もあったとのことです。
そのほか、譽田氏はイベントで知り合った他の開発者や業界関係者と交流を深めることで、プロジェクトを共同で進めるきっかけにもなったとのことです。なお人脈形成のコツは、名刺をもらった相手と必ずFacebookでつながり、顔と名前を覚えておくこと。ゲーム業界の関係者はFacebookを使用していることが多く、繋がりをもつことで後々の連絡や協力がより円滑に進む、と紹介しました。
このように、たとえ小規模な開発プロジェクトであった場合でも、イベントに出展することで、ゲームのフィードバックを得られるだけでなく、業界関係者やメディアとのコネクション、別ハードへの移植や海外展開などの大きなチャンスが得られるという経験がセッションでは語られました。
また、譽田氏は「なにかチャンスがあるならとにかく全部話を聞く!聞いてみて、いけるなら実行しよう」とイベント出展の心構えを伝えました。その時には意味がなさそうなことであっても後々何かに繋がっていると考え、受けた案件について、一度金額の試算などをしてみてもよいのではないかとアドバイスを述べました。
一方で、営業のお話が多いことは事実なので、自分なりにフィルターをかけていくことも重要。譽田氏はイベントを通じて広告を打ってもらう案件が来た際、自身のゲーム開発の予算や規模と合っていないため、断った事例もあったそう。「良さそうな話」が来ても、プロジェクトが最後まで進むことは稀なので、あまり一喜一憂しない姿勢がゲーム制作やイベント出展継続のコツだと話しました。
セッションでは、40代未経験からゲーム開発をスタートした譽田氏の経歴や、イベント出展により、ゲーム開発のスキル向上やコネクションを深め、2024年に「BitSummit Award 朱色賞 <大賞>」を受賞するに至った、独自の体験談が語られました。