DJが機械に近づき、機械が音楽を知る世界:『欲望する機械(マシン・デジラント)』レポート

ARTS & SCIENCE
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2月17日夜に開催されたライブ・パフォーマンス『欲望する機械(マシン・デジラント)』は、日本とフランスのメディアアートが交差するイベント「第6回 デジタル・ショック―欲望する機械―」の参加プログラムのひとつで、日仏独の3カ国のアーティストが参加した。

日本からはQosmoの徳井直生が参戦、人工知能DJとのバック・トゥ・バック『Qosmo Artificial Intelligence DJ and Human DJ - Back to Back -』を披露した。

互いに触発しあいフロアを沸かせる様子は、人間のDJ同士によるバック・トゥ・バックと変わらない。しかし、途中でエラーが起きる。「ちょっと待ってください、AIが暴走しちゃって...」。そう言い、徳井はフロアに響く音をいったんストップした。どうやら人工知能にもハイテンションになり過ぎてしまうことがあるらしい。私にはそれが、とても人間らしく見えた。

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今年のデジタル・ショックのテーマである「欲望する機械」という言葉が表すのは、人間に近づきつつある機械、そして同時に人間の本性でもある。フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神科医フェリックス・ガタリの著作『アンチ・オイディプス』では、すべての人間は「欲望する機械」であるという。

彼らによれば欲望は単体では存在し得ず、関係性の中から生み出されるもの。また欲望とはそれ自体が事物を生み出す装置でもある。つまり欲望する機械とは、機械の媒介者たる人間そのものであり、彼らを突き動かす欲望こそがテクノロジーの進化をふくめた事物の源泉である。さらに「デジタル・ショック」においては、そのような人間の本性を今度は機械が真似るという、ややアイロニカルなテーマが重ねられている。

ステージの上で「ターンテーブルでテンポを合わせる」「人間がかけている曲を解析し、流れを読んで選曲する」ようにプログラムされ、人間と同じく独立して思考することを目指す人工知能DJは、両者の掛け合いの中から生まれた偶発的なエラーによって、より人間に近づいた(ように見えた)。ドゥルーズとガタリが著作の中で述べるように、人間と自然、機械の間に上下の区別はなく、すべてが対等なのである。

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ドイツから来日したコンテンポラリーアーティスト、Moritz Simon Geist(モーリッツ=サイモン・ガイスト)の作品には、クラシック音楽とロボット工学を学んできた彼自身のバックグラウンドが反映されている。

ステージ上では、カチカチとしたスイッチ音のような音を発生させる装置を備えた音楽ロボット「Tripods One」を使用したライブパフォーマンスが行なわれた。

「Tripods One」は人の手による操作が必要だが、やがては音楽を自分の意志で奏でるロボットが人々を魅了する日が来るのではないだろうか。

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フランスからKangding Ray(カンディング・レイ)名義で参加したDavid Letellier(デヴィッド・ルテリエ)の演奏が始まると、体全体が共鳴板になったかのような振動に包まれた。試しにスピーカーの前に立ってみたところ、鼓動とビートが同期して不整脈を起こしそうにもなりつつ、その一体感が心地よく、しばし恍惚としてその場に立っていた。

2016年に設立20周年を迎えたドイツの音楽レーベルRaster-Noton(ラスターノートン)を主宰するルテリエは、10代の頃から30年以上音楽活動を続けてきた。一方で大学では建築を学び、卒業後しばらく建築家として働いた後にコンテンポラリーアーティストととしても活動している。

これまでルテリエが発表してきた作品は、サウンドインスタレーション『EOTONE』や、3月12日まで六本木ヒルズで開催されている「Media Ambition Tokyo 2017」で展示されている『VERSUS』のように自律運動をする機械などさまざまだが、「音を動きとして表現しようとする試み」が彼の作品の共通テーマとなっている。

「欲望する機械(マシン・デジラント)」は3人のアーティストによるライブであり、人間と機械、ロボットと音楽、数学を軸としたアートと建築、音楽への横断的アプローチを試みる実験の場であった。会場には時間が深くなるに連れ、さまざまな国籍やバックグラウンドの人々で賑わった。願わくば、それが新たな融合を生む場になって欲しい。そう思わせる一夜であった。

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第6回「デジタル・ショック」--欲望する機械

会期:2017年2月10日(金)~3月20日(月・祝)※アンスティチュ・フランセ東京での展示は19日(日)まで
会場:アンスティチュ・フランセ東京、東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)、渋谷WWW、gallery COEXIST-TOKYO、EARTH+GALLERY、座・高円寺、ほか
主催:アンスティチュ・フランセ日本

2月27日以降のプログラム(予定)

2月10日(金)~3月19日(日)@アンスティチュ・フランセ東京
○宇治野宗輝『モーターファミリー・ジャム・バンド』(インスタレーション)
○パトリック・トレセ『ポールという名のロボット(Etude Humaine #1, RNP-J.a)』(インスタレーション)
○サミュエル・ビアンキーニ『ALL OVER』(インスタレーション)
2月11日(土)~3月12日(日)@六本木ヒルズ森タワー52階 東京シティビュー(Media Ambition Tokyo)
ダヴィッド・ルテリエ『ヴァーサス』(インスタレーション)
3月3日(金)~12日(日)@六本木ヒルズ森タワー3階 プレゼンテーションルーム(Media Ambition Tokyo)
ノガミカツキ『Rekion Voice --礫音--』(インスタレーション)
3月4日(土)・5日(日)@アンスティチュ・フランセ東京
CCMC2017 コンテンポラリー・コンピューター・ミュージック・コンサート
3月8日(水)@アンスティチュ・フランセ東京
上映会:ゴブラン特集
3月17日(金)19時 @アンスティチュ・フランセ東京
『Practicable』出版記念ラウンドテーブル 登壇:サミュエル・ビアンキーニ、他
3月18日(土)~20日(月・祝)@座・高円寺
子供向け参加型ライブゲーム『OCTOPOP』
4月7日@Club Sankeys TYO
ライブ「フレンチ・ウェーブズ」
デジタル・ショック賞2017

お問い合わせ:アンスティチュ・フランセ東京(03-5206-2500)
webサイト:詳細

編集部追記(3/2): 本文中で一部誤解を招く表現がございましたので訂正いたしました。