「Spaxels」という言葉がある。
これは、Space(空間)とPixel(ピクセル・画素)を融合させた造語で、2012年にArs Electronica Futurelabが発表した論文「Spaxels, Pixels in Space - A novel mode of spatial display」(Spaxels, ピクセル空間:空中ディスプレイのための新しい手法)で初めて導入された。
アイデアはこうだ。LEDライトを搭載したドローンを夜空に飛ばし、コンピューター制御して絵を描く。絵と言っても3Dで、形が移り変わっていく様は映像に近い。
9月8日〜12日にオーストリアのリンツで開催されたメディアアートの世界的な祭典「Ars Electronica Festival 2016」(アルス・エレクトロニカ・フェスティバル)、その2日目の夜を文字通り彩ったのがArs Electronica Futurelab(アルス・エレクトロニカ・フューチャーラボ)とIntel(インテル)の「DRONE 100」だ。
世界記録をもつメディア・アート
「DRONE 100」プロジェクトがスタートしたのは2012年。このドナウ川上空で最初のドローンパフォーマンスを行なった。
1年後、彼らはロンドンのテムズ川上空で、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のプロモーションの一環として、スター・トレックのロゴを作る。これを彼らは世界初の「Dronevertising stunt」(Drone+Advertisingの造語、ドローン広告)とよんだ。
その後も、彼らはノルウェーやアラブ首長国連邦のイベントや、Intelのカンファレンスステージなどさまざまな場所でパフォーマンスを披露してきた。そして2015年、Intelをパートナーに「DRONE 100」は、同時に飛ばした無人航空機の数でギネス世界記録を達成する。
そして2016年、彼らはリンツ、ドナウ川に帰ってきた。初めよりはるかに多くなったドローンたちを連れて。
100台のドローンをオープンな空間で飛ばす、というのはどういうことだろうか。もちろん100台をリアルタイムで手動コントロールするわけにはいかないから、ショーの動きは予めプログラムされていて、すべてのドローンが1つのマシンと通信しながら自動で飛んでいる。
Ars Electronica Futurelabのシニアディレクターであり、「DRONE 100」のSpaxelsを率いるメディアアーティスト、Horst Hörtnerは、その通信方法については「詳しくは教えられませんが」としたうえで、この通信を可能にする独自のソフトウェアには、パートナーであるIntelが大きく関わっていることを語った。
Spaxelsの4人のパイロットたちは、公演中に何かトラブルが起こった際に対処するため、常にドローンの群れをモニタリングしている。万が一、プログラミングされた動きから外れたドローンが観客のほうへ向かっていった場合には緊急着陸させる必要もあるからだ。
オープンな空間でドローンを飛ばすためには、危険は絶対に避けなければならない。
では、100台という世界記録を持つ数字についてはどうだろうか?
もちろん10台を飛ばすより、通信や制御がより複雑になるというテクノロジー的な観点もあるだろう。一方でこの数字は、「DRONE 100」のデザイン的な側面にも影響を及ぼした。SpaxelsチームのAndreas JalsovecはArs Electronicaの取材にこう語っている。
ドローンの数が多くなると、(ショーの)デザインプロセスは複雑になっていきます。そこで私たちはいくつかのアニメーションの方法論を組み合わせることにしたんです。一方では、ドローンは「粒」として扱われます。そしてもう一方では、キャラクターや形のアニメーションとなるように動くんです。アニメーションを制作したら、社内で独自開発したシミュレーション用のソフトウェアにそれを移します。
アニメーションは公演を行なう場所に合わせてGPSに変換され、シミュレーションと同時に音楽やLEDの光り方も合わせて決めていく。
同じくチームのChris Bruckmayrは「DRONE 100」の本質を「メディア・アートのスピンオフ」だと語る。
実際のところ、(「DRONE 100」プロジェクトの)もっとも特筆すべき成果は、100台のドローンの動きをアニメーション的にプログラミングし、無線で通信・制御することができるようになったということです。これはまさに、わたしたちが創り上げたインターフェイスなのです。
日が暮れかけた9月9日の20時ごろ、Ars Electronica Center(アルス・エレクトロニカ・センター)の面するドナウ川上空に、100台のドローンがゆっくりと昇っていく。音楽が始まるとそれに合わせて光の色を変えながら動き始め、さまざまな形を夜空に描いていく(そして最後には、おなじみのIntelマークとあの効果音)。
河岸にはArs Electronica Festivalの参加者だけではなく、街中から多くの市民が詰めかけて、光のパフォーマンスに拍手喝采を送っていた。
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