AI競争にしのぎを削るビッグテック、原子力企業にも食指
(CNN) サム・アルトマン氏は、人類に明るい未来を約束する企業の会長だ。
その企業は同氏が共同で創業し、現在最高経営責任者(CEO)を務める人工知能(AI)開発企業オープンAIではない。オクロという原子力技術を開発している企業だ。アルトマン氏を含む多くのIT企業トップは原子力技術について将来のAIの進歩に必要だとしている。
私たちのデジタル生活を支えるために電力を大量に消費するデータセンターが急増し、ビッグテックが未来だと評するAI技術もますます増えていることから、エネルギー需要はまもなく供給を上回りかねない。AI技術で私たちの生活や仕事のほぼすべてを革新しようとしているテクノロジー企業にとってこれは問題となるだろう。
IT業界のトップらが原子力エネルギーについて気候に配慮した未来に不可欠だと言及する一方で、業界の専門家の中には、そうした投資が自社の事業運営能力を守るにとどまらず、実際により広範な人々にどれだけの利益をもたらすのか疑問に思う向きもある。
ジョージ・ワシントン大学で原子力エネルギーと政策を専攻するシャロン・スクアソーニ研究教授は「テック企業は自社の利益に目が向いていると思う。原子力提供事業者が一般向けに原子力発電所を追加販売できるかどうかは別の問題だ」と指摘する。
どこかからより多くのエネルギーを調達する必要があることは明らかだ。米国のデータセンターの電力需要は2020年以降50%増加し、現在では米国のエネルギー消費の4%を占める。UBSのアナリストは今月初め、この数字は30年までに9%に増加する可能性があると述べた。JPモルガンのアナリストは、米国の全体的な電力需要は30年まで年間13%から15%増加すると予想しており、電力は「はるかに希少な資源」になりうるとしている。
データセンターの電力需要は、ビッグテックの持続可能性の約束を覆す恐れもある。
ビッグテックは、太陽光や風力などの他の再生可能エネルギー源と比較して、原子力エネルギーの信頼性の利点を指摘する。マイクロソフトは9月、1979年に部分的な炉心溶融が発生したペンシルベニア州スリーマイル島の原子炉を再稼働させる契約を締結。2028年までに別の原子炉も再稼働させることでAI事業の加速を目指している。アマゾンとメタもデータセンターの将来の原子力発電を確保するための契約締結に取り組み始めている。
アルトマン氏が原子力エネルギー分野で投資する先はオクロだけではない。オクロとは異なる種類の技術を使用している原子力スタートアップのヘリオンエナジーにも投資している。フェイスブックの共同創設者で現在アサナのCEOを務めるダスティン・モスコビッツ氏、リンクトインの共同創設者リード・ホフマン氏、億万長者のテクノロジー投資家ピーター・ティール氏のベンチャーキャピタル、ミスリルもヘリオンエナジーに投資している。
また、原子力に向かう動きから利益を得ようとしているテック企業のトップはアルトマン氏だけではない。
マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏が支援し会長を務めるテラパワーは、ワイオミング州に新たな原子炉を建設する初期段階にある。グーグルは22年に原子力スタートアップのTAEテクノロジーズへの2億5000万ドル(約390億円)の資金調達ラウンドに参加。アマゾンは10月に原子力スタートアップのX-エナジーへの5億ドルの資金調達ラウンドを主導した。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏もカナダの原子力スタートアップ、ジェネラル・フュージョンに投資している。
原子力推進
すでに議員らは原子力発電の拡大を支持する姿勢を見せている。バイデン大統領は7月、超党派の支持を得て、原子炉の新規建設をより容易で安価に、かつ迅速に認可・建設できることを狙いとした法案に署名した。そして昨年の国連気候変動会議、COP28で米国は20カ国以上とともに50年までに世界の原子力発電容量を3倍にすることを誓約した。
一部の専門家は、気候変動対策に役立つ高価でもクリーンなエネルギー源を推進するには、テクノロジー業界の投資が不可欠だとの見方を示す。
ジェネラル・フュージョンは自社技術の実証段階だが、核融合は原子を分離するのではなく結合するため、核分裂よりもさらに安全な選択肢になるとみており、「開始するのは非常に困難だが、停止するのは非常に簡単」だと述べた。
しかし一部の専門家は、規制に抵抗することで知られる業界のリーダーらによる原子力への多額の投資について懸念を表明している。リーダーらは規制が安全性向上を目的としたものであっても、計画を遅らせかねないとなれば戦う可能性がある。
憂慮する科学者同盟の原子力安全担当責任者、エドウィン・ライマン氏は「国民を守るために本当に不可欠な安全のルールが実際に打撃を受けるのではないかと強く懸念している」と述べた。
アルトマン氏のオクロ
13年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の卒業生2人によって設立されたオクロは、「地球規模の豊富で手頃な価格のクリーンエネルギーを生産する」先進的な原子炉を開発しているとうたう。同社の社名は、アフリカ・ガボンのオクロ地区にちなんで名付けられた。科学者によると、同地には約20億年前に地球で唯一の天然原子炉が存在していた。
オクロは、より少ない燃料でより大きな出力を生み出すことができる、いわゆる「高速炉」を建設している。つまり、小型化・低価格化を実現できる。また、他の発電所の使用済み核燃料をリサイクルできるという。同社はこれらの小型原子炉の電力をデータセンター運営者などの顧客に直接、場合によっては現場で直接販売する計画だ。
オクロが建設を目指す小型で高効率の原子炉は、このイメージ図に描かれた三角屋根の建物内に格納される可能性がある/Gensler
しかしスクアソーニ氏によれば、現時点でこの小型モジュール原子炉は「すべて理論」であり、実際に電力を生成して販売するまでには長く高額な道のりが待ち受けている。
米国の最近の原子炉新設の取り組みは遅延とコスト超過に悩まされている。ウクライナでの戦争をきっかけにロシアからの濃縮ウラン輸入が制限され、新たな原子炉を稼働させる十分な燃料の入手にも苦労している。
ゲイツ氏のテラパワー
ゲイツ氏のテラパワーは6月、原子炉「実証」プラントの建設を開始し、30年までの稼働開始を見込んでいる。規制当局の完全な承認を待っているため、ワイオミング州ケメラーの建設現場は現在、非核要素に限定されている。
テラパワーによると、その設計は従来の原子炉よりも小型かつ単純であり、冷却には従来の水ではなくナトリウムを使用する。ワイオミング発電所は、退役予定の石炭火力発電所付近に建設されており、同発電所に依存してきた電力会社パシフィコープに電力を供給する計画だ。
2025年に退役予定のワイオミング州ケメラーにある火力発電所/Natalie Behring/AP
同社によると、オクロの設計と同様にテラパワーの原子炉には「受動的な」安全機構が組み込まれる。問題が発生した場合は自動的に冷却するよう設計されており、1986年のチェルノブイリ原発事故のような大惨事を回避できる。
しかしテラパワーや他の原子力スタートアップにとって、次世代の設計が実現可能であるだけでなく安全でもあることを国民に納得させる道のりはまだ長い。
スクアソーニ氏は「業界は規制緩和やプロセスの迅速化を推進しているし、トランプ政権は間違いなく物事を迅速化し、規制の一部を撤廃しようとするだろう」と述べた。