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自民党が選挙で勝てなくなった県のこと、知っていますか

背景にある基地問題と、その「ジレンマ」とは

全国で圧倒的な自民党が、全敗するかもしれない県がある。沖縄だ。

選挙のたび、基地問題が最大の争点となるこの島には、日本全土の7割の米軍基地が集中している。

基地の県内移設に反対する翁長雄志知事ら「オール沖縄」の勢いが強く、ここ数年の国政選挙では、自民党が負け続けている。

なぜ、自民党は勝てないのだろうか。BuzzFeed Newsは、沖縄国際大の照屋寛之教授(政治学)にインタビューした。

「これまで沖縄の選挙では、絶えず米軍基地が争点になってきました。それが国政であれ、県知事選であれ、県議選であれ争点にせざるを得なかったのです」

県内の選挙情勢に詳しい照屋教授は、BuzzFeed Newsにこう語る。

「これは、他県にも類を見ない状況と言えるでしょう。本来、県民、市民生活に関わる経済、福祉や教育などが争点であるべきですから」

「なぜ、沖縄では基地が争点であり続けるのか。全国にある米軍基地の7割が過度に集中している現状、戦後70年以上、変わり続けない負担を強いられている、という現状があるからです」

先の沖縄戦では、激しい地上戦の末、20万人以上が犠牲となった沖縄。その半数は民間人で、当時の県民の4人に1人と言われている。

それから70年あまり。政府は、いまも在日米軍基地の7割以上をこの島に集中させ、「安全保障、国策の犠牲」(照屋教授)を押し付けてきた。

「そんな沖縄の選挙では、本土への復帰以前も、1972年の復帰後も、革新勢力が常に『基地の全面撤去』を訴え、対する自民党を中心とした保守勢力は、『段階的縮小と経済振興』を訴えてきたという歴史がありました」

復帰時には、基地関連の収入が県民所得に占める割合が約15%あった。

「この時点で、すでに基地経済からは脱却していると言っても良い状況でした」

沖縄に対して「基地で経済がもっている」という誤解があるが、比率が高かった復帰当時でも15%だ。

その後、徐々に返還された基地跡地の開発が進み、1990年にはその割合はたった4.9%弱に減った。その後現在に至るまで、5%代で推移している。

すると、県民には「基地がないほうが発展できる」という感情が共有され始めていった。「基地は経済発展の阻害要因である」という考えだ。

基地の県内移設を認めるか、否か

その中で大きな転機になったのが、「県内移設」の問題だ。

1996年、日米両政府の合意で、住宅街の真ん中に位置する米海兵隊・普天間基地を、県内の名護市・辺野古沖に移設することが決まった。

これが、新たな基地建設反対運動となった。

「これ以降、県内の選挙では、米軍普天間飛行場の県内移設を受け入れるか、受け入れないかがクローズアップされるようになりました」

多くの住民が県内移設に反対しているのは明確だった。1995年には、3人の米兵が12歳の女子小学生を拉致し、集団強姦する事件が発生。基地反対の声はますます強くなっていた。

さらに、2004年には普天間基地に隣接する沖縄国際大のキャンパスに、米軍ヘリが墜落。反基地感情は加熱した。

また、2009年の政権交代で民主党の鳩山由紀夫首相が、移設先について「最低でも県外」と述べたことも、そうした世論を後押しした。

「2010年の知事選で、自民党の支援を受け立候補した仲井真弘多知事は、知事選でも条件付きでの移設反対を表明しました。もともとは移設推進派ですが、当時の民意を汲み取り、あいまいな反対との立ち位置で、当選を果たしたわけです」

「2012年の衆院選で立候補した自民党議員たちも、全員が『移設反対』を掲げた。4人中3人は小選挙区で当選しました。しかし、この選挙で政権が自民党に舞い戻ると、党本部が県内移設を容認すべきだと圧力を強めるようになりました」

この動きの背景には、日米間の合意がある。

当初は、2014年までに移設先の基地を完成させる約束になっていた。それが現実的に難しくなった以上、政府としては、工事を早急に進める必要があったのだ。

自民議員たちは容認に「転向」

「2013年には、県選出の自民党議員全員が辺野古容認に転じてしまった。自民党県連も、です。その年の暮れには、仲井真知事が辺野古の埋め立てを承認した。多くの県民は、これに失望しました。裏切られた、と感じたのです」

これを機に、沖縄の保守勢力の一部は革新勢力と合流し「オール沖縄」を結成。2014年の知事選で、翁長知事を誕生させた。

「自民党県連の重鎮で、その前の2010年知事選では仲井真さんの選対本部長をやっていた人が、『移設反対』を掲げて知事選にでたという衝撃は大きかった。そんな翁長さんは、いままでの保守・革新の垣根を越え、『オール沖縄』を旗印に双方の結集を呼びかけました」

「その『イデオロギーよりもアイデンティティ』『基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因である』との主張は多くの共感を呼んだ。2010年の県知事選挙では仲井間陣営を支援していた地元大手スーパーやホテルチェーンなど経済界の一部が呼応し、翁長氏の支持に回ったのです」

「結果、10万票の差をつけて勝利しました。有権者が100万と少しの県ですから、これは紛れもなく圧勝でしょう」

なぜ翁長氏は圧勝したのか

しかしなぜ、翁長氏の訴えがそれほど浸透したのだろうか。照屋教授は、3つのポイントがある、という。

「一つは、自民党に裏切られたという失望感です。もう一つは、政権交代時に『基地が沖縄にあるべき理由がない』と明らかになったこと。また、基地が『経済の阻害要因』であると、県民が感じるようになったことは大きいでしょう」

照屋教授が例に挙げたのは、泡瀬ゴルフ場だ。

米軍専用のゴルフ場だったが、2010年に返還され、2015年4月にはイオンモールが完成した。

40人程度だった雇用は、2千人近くに膨れ上がった。年間1千万~1800万人の集客を見込む規模で、周りにはマンションも立ち、返還後の風景は一変したという。

「それ以外にも、返還が進んだ那覇新都心や北谷町などでは、同様に商業開発が大きく進んでいる。基地より商業地などのほうがいいじゃないか、と実感できるようになったのです」

「基地を受け入れつつ、発展もしていこうという保守勢力、自民党のかつての訴えは、もはや通用しなくなった」

こうして、沖縄の自民党は勝てなくなった。全国区で自民党が圧勝していても、だ。知事選の1ヶ月後にあった衆院選では「辺野古容認」に転じた自民党の4候補が「オール沖縄」候補に全敗した。

2016年の参議院議員選挙でも、当時の島尻安伊子・沖縄担当相がやはり、「オール沖縄」に敗北した。照屋教授は言う。

「このように、辺野古への移設建設に対しては、これまでの選挙で明確に反対の意思が示しされてきたのです。その民意は尊重すべきものではないでしょうか」

逆風になった米軍ヘリ事故

では、今回の選挙情勢はどうなのだろうか。

翁長知事になって3年が経ち、辺野古移設が撤回されていない、という現状がある。移設に関して国と争った裁判でも、県側が勝利しているわけではない。

沖縄タイムスが4月に実施した世論調査では、翁長知事の支持率は58%。2015年4月の70%に比べ、低下している。

それでも、オール沖縄が強い情勢にある、と照屋教授はいう。

琉球新報が9月に実施した直近の世論調査でも、県内移設に反対している人は80.2%を超えている。ここ数年、ずっと7〜8割で推移しているのです」

「辺野古は撤回できないあきらめ感があったり、翁長知事に『早く移設の承認を撤回するべきだ』という声が出たりしていることも事実です」

「ただ、政府のやり方があまりにも強引だ、基地を押し付けているのは自民党だ、という感情を抱えている人はいまだに多い。オール沖縄には、まだ勢いがあります」

照屋教授によると、序盤の情勢調査でオール沖縄と自民党が競り合っていた1区や4区などの選挙区では、ヘリ事故が勝敗を左右する可能性があるという。

「2016年に起きたうるま市での20歳女性殺害事件や、オスプレイの不時着事故に加え、選挙期間中に米軍ヘリが炎上する事故が起きたことは、自民党には間違いなく逆風です」

普天間基地のある2区とその移設先となっている3区では、終始オール沖縄の候補がリードしている。最新の情勢調査(産経新聞、10月17日)では、自民党が「全敗の危機に立たされている」との結果も出ている。

それによると、自民党を比例の投票先に挙げた人は全国最下位の21.5%だった。

沖縄から自民党議員がいなくなる?

こうした情勢は、自民党関係者に焦りを与えている。

前回は、小選挙区で負けても比例復活できた自民党の4候補。今回は比例順位が4位まで落とされている。選挙区で全敗すれば、「沖縄から自民党議員がいなくなる」可能性すらあるからだ。

2018年には、米軍基地の移設先である名護市の市長選や、那覇市長選、さらには知事選を控えている。衆院選の結果は、そうした選挙にもつながる。

ヘリ事故のあった東村を擁する沖縄3区。自民候補者の陣営関係者は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

「北のミサイルではなく、南のヘリが落ちてきた。逆風になるという危機感を覚えている。政府の対応次第では、『自民党は基地問題に関心がないのか』と思われてしまう」

負担軽減のはずが…

そもそも、今回事故が起きた「北部訓練場」は政府と与党自民党にとって「基地返還」の象徴的な存在だった。

もともとは7500ヘクタールだったが、このうち2016年12月に約4000ヘクタールが返還されているからだ。

ただ、これは無条件の返還ではなかった。残された場所にヘリパッド(ヘリ着陸帯)を6ヶ所、新規建設することが条件となっていた。

ヘリパッドの運用が始まると、オスプレイやヘリコプターが飛行する頻度は以前よりも増加した。そして、恐れていた事故まで起きてしまった。

安倍晋三首相が「沖縄の本土復帰後、最大規模の返還」と強調し、「負担軽減」と説明してきたにもかかわらず、起きた事故。

かねてから反対の姿勢を示していた住民たちは「これでは負担増」だ、と不満をあらわにし、「ヘリパッドの使用停止」を求めている。

地元・東村議会も臨時会を開き、「これ以上の基地負担は我慢できず、満身の怒りをもって抗議する」と政府への強い批判を込めた決議を全会一致で可決した。

語らざるを得ない「基地問題」

これまで、基地問題については「あまり語ってこなかった」(陣営関係者)3区の自民候補者だが、ヘリ事故を受け、語らざるを得ない状況にもなっている。

10月16日夜に開かれた、自民候補者の青年部大会。

参議院議員や県議、仲井真・前知事らが応援に駆けつけるなか、候補者は「率直に申し上げます」と、ヘリ事故に言及。事故後すぐ、自民党の岸田文雄・政調会長と現場入りし、対応ぶりをアピールした。

「普天間の危険除去のため、辺野古で仕方ないと私どもは容認をした。高江のヘリパッドも返還のためはやむなしとして動いている。国にはアメリカ政府にちゃんと申し上げているよう、強く、強く申している」

さらに翁長知事や、事故を機に反対攻勢を強めているオール沖縄を、こうけん制した。

「我々は基地についてちゃんとものを申しながら、振興を進めている。一部の人は反対反対ばかり訴えて、本当に振興のことを考えているのか」

沖縄の自民党が抱える「ジレンマ」

事故を受け、沖縄県議会では「ヘリパッドの使用停止」などを求める決議を全会一致で可決した。

2016年末のオスプレイ事故時には抗議決議に反対していた自民党が、今回の事故ではオール沖縄と足並みをそろえた。そこには、焦りが見える。

先ほどの陣営関係者は、こう語る。

「私たち沖縄は、諸手を挙げて基地に賛成しているわけではないのだと、政府や党本部にしっかり、伝えていかないといけない。たとえ同じ自民党であっても、です。これは、沖縄のジレンマですよね」


BuzzFeed Newsでは【基地に反対しているのは、誰なのか。 沖縄の抱えるジレンマと選挙戦】という記事も配信しています。