ワシントン州シアトルのアマゾンの倉庫でポーズを取る創業者のジェフ・ベゾス。
Paul Souders/Getty Images
アマゾン(Amazon)は1994年に、書籍の販売からスタートした。そして数十年経ってもこの事業は繁栄を続けており、電子書籍の売り上げを大幅に上回っている。
これはBusiness Insiderが入手した内部文書によるもので、この文書ではアマゾンの書籍販売事業と、より幅広い出版業界全体に関する多くの新しい情報と知見が明らかになっている。
この業界に関する信頼できるデータというのは限られているか、または厳しく管理されているため、書籍販売業界全体を把握するのは難しいことが多い。そのため、特にこの分野でのアマゾンの独占状態に関する反トラスト法上の疑問が依然として残る今、このアマゾンの新たなデータはなおさら注目に値するものになっている。
この内部文書によれば、2022年の最初の10カ月間で、アマゾンは書籍部門で169億ドル(約2兆7000億円、1ドル=160円換算)の総売上高(GMS)を記録している。GMSは、電子書籍やオーディオブックを含む印刷書籍とデジタル書籍の合計売上だ。
これは月間の書籍売上高が約17億ドル(約2720億円)、週当たりでは約4億ドル(約640億円)に相当することを示している。そして、アメリカだけでも、アマゾンはこの10カ月間で約95億ドル(約1兆5200億円)の書籍総売上高を記録しているのだ。
これはアマゾンが約30年にわたって創業時からの事業を繁栄させ続けてきたことを示している。また、アマゾンが2007年に電子書籍リーダーのキンドル(Kindle)を発売した当初の期待に電子書籍が応えていないのに対し、紙媒体の書籍が読書のフォーマットとして存続してきたことも明らかになった。
「印刷された書籍に欠点はありません。私を含め、多くの人は本を手に持って読むことを好む傾向があるのです」と、ジョージ・ワシントン大学出版プログラムのディレクター兼准教授のジョン・ウォーレン(John Warren)は述べている。
アマゾンの「独占力」
アマゾンの書籍事業は長年にわたり、反トラスト法の調査の対象となってきた。2023年にアメリカ連邦取引委員会(FTC)がアマゾンを提訴した際には、アマゾンの書籍部門について言及し、アメリカ書店協会(American Booksellers Association)はFTCと司法省に対し、アマゾンの「独占力」に注目するよう求めた。
今回Business Insiderが入手した文書は25ページあり、機密扱いとなっている。この文書はアマゾンで毎週行われている業務レビューに使用されたものだ。アマゾンは書籍の売り上げを公表しておらず、各小売カテゴリーの収益の内訳も明らかにしていない。
アマゾンの広報担当者のリンゼイ・ハミルトン(Lindsay Hamilton)はBusiness Insiderへのメールで、アマゾンは「競争の激しい書籍販売の環境で事業を展開し続けています」と述べ、近年はオンライン小売業者、全国チェーン、独立系書店が「目覚ましく成長しています」と語った。
アマゾンの全世界での月間書籍売上高。
Chart: Andy Kiersz/Business Insider Source: Amazon internal document
アメリカでの売り上げが半分以上を占める
この内部文書では、アマゾンの書籍事業がいかに大きなものかを示す、いくつかの驚くべき数字が明らかになっている。
以下に、いくつかの際立った売り上げに関する数字を挙げる。
- 世界:2022年1月、アマゾンは20億ドル(約3200億円)強の書籍売り上げを記録した。その後の数カ月で、売り上げ高は約15億ドル(約2400億円)から18億ドル(約2880億円)へと落ち込んだ。
- アメリカ:アメリカはアマゾンにとって最大の市場で、書籍の総売上の半分以上を占めている。2022年1月と8月の売り上げは11億ドル(約1760億円)を超えた。他の月は、売り上げは9億ドル(約1440億円)前後で推移していた。
- その他の市場:海外での大きな市場は、イギリス、ドイツ、日本だった。各国の書籍販売総売上高は、月間1億3000万ドル(約208億円)~1億9000万ドル(約304億円)だった。フランス、イタリア、スペインで構成される地理的グループ「FRITES」での売り上げ規模も同様だった。
日本のマンガ:日本のマンガ、またはコミックの市場は、独自の項目として表示されるほどの大きな規模だった。アマゾンは毎月3500万ドル(約56億円)以上のマンガを販売しており、これは約1万1000冊に相当する。
販売数は以下のようになっている。
- 世界:アマゾンはこの期間中、毎月平均1億7500万冊の本(印刷版とデジタル版の両方を含む)を販売した。2022年1月には1億9300万冊以上の販売を報告したが、他の月は1億7000万冊に近かった。
- アメリカ:アメリカの市場では、この期間中にアマゾンは月平均8700万冊の本を販売した。2022年の最初の10カ月間で、アマゾンは印刷版4億5650万冊とデジタル版4億1980万冊を販売した。
- その他の市場:日本では、アマゾンは月間約2500万部を販売した。イギリス、ドイツ、およびFRITESの市場では、月間1100万部から2100万部の間だった。
さまざまなシグナル
アマゾンの2022年最初の10カ月間の書籍のGMSが170億ドル(約2兆7200億円)近くであったことを考えると、通年ではおそらく200億ドル(約3兆2000億円)以上の書籍を販売したことになるだろう。
アマゾンは書籍ビジネスにおいては強力なプレーヤーであるが、アマゾンが市場にどのような影響を与えているのかは判断が難しい。業界データプロバイダーのサーカナ(Circana)によると、2023年の世界の書籍販売は2019年から8.8%増加している。またアメリカ書店協会は、2023年に会員数が11%増加し、独立系書店が新たに200店オープンしたと報告した。
小売業者が発するシグナルはまちまちだ。バーンズ&ノーブル(Barnes & Noble)は2024年に50店舗を新規にオープンする予定で、これは過去15年間で最多の新規開店数となる。しかし、コストコ(Costco)は最近、休日やその他の特別な機会でない限り、書籍の販売を中止することを決定した。またオーストラリアのオンライン書店のブックトピア(Booktopia)は生き残りに苦戦している。
電子書籍と印刷書籍
今回のアマゾンの内部文書で注目すべきデータの一つは、印刷書籍と電子書籍の収益の差だ。
2022年の最初の10カ月間で、アマゾンは77億ドル(約1兆2320億円)以上の印刷書籍を販売したが、電子書籍のGMSは約21億ドル(約3360億円)だった。
また、2つの書籍のフォーマットの平均販売価格の差も注目に値する。この文書によると、印刷書籍の平均販売価格は約15ドル(約2400円)であるのに対し、電子書籍は約4ドル50セント(約720円)だったのだ。
アマゾンは電子書籍のパイオニアだったが、このデータは、デジタル書籍がかつて多くの業界専門家が予測したほどには急速に成長していない可能性があることを示している。
またピュー研究所(Pew Research Center)が2022年に行った調査によると、アメリカでは依然として紙媒体の書籍の読者が電子書籍の読者をはるかに上回っており、過去12カ月間に紙媒体の書籍を読んだと答えた成人が65%だったのに対し、電子書籍を読んだと答えた人は30%だったことが明らかになった。
ジョージ・ワシントン大学のウォーレン准教授は、かつて電子書籍が市場の80%近くを占めると予想されていたとBusiness Insiderに語った。しかし、多くの人が依然として紙媒体の書籍を好んで読んでいるため、この予測は大きく外れることになってしまったが、それでもウォーレンは、デジタルのフォーマットはほとんどの出版企業の収益の「ますます重要な部分」になってきていると述べた。
アマゾンのコメント
アマゾンの広報担当者のハミルトンは、Business Insiderへのメールでのコメントの中で、今回の内部文書とアマゾンの書籍事業について触れながら、別の考えも述べた。
「アマゾンには書面でナラティブ(物語)を作る文化があります。つまり、いつでも何千もの文書が社内を行き来し、ある時点の情報を、さまざまなレベルのレビューと正確さで提供しているのです」とハミルトンは述べている。
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