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匿名のキャリアSNS「WorkCircle(ワークサークル)」が急成長している。
グーグル、アマゾン、マイクロソフト、セールスフォースなど外資ITをはじめ、国内ではソニー、LINEヤフー、楽天、リクルートなどで働く、いわゆる“ハイスペ”人材が会員だ。
SNS内には外資系社員のみが参加できる「プライムラウンジ」も。
勤務先のメールアドレスで会員登録し、給与情報コーナーに書き込むには給与明細や源泉徴収票の提出が必須。
こうして確保した情報の信頼性の高さと、匿名でコメントを書き込める気軽さがウケて、
「○歳までにいくら稼いでた?」「この会社、本当にこれくらいの年収いく?」
「資産形成どうしてる? どんなポートフォリオ?」「RSU(株式報酬)っていつが売り時?」
「産休で仕事から離れるんだけど、男性は本音ではどう思ってる?」
など、生々しい会話が日夜繰り広げられている。
2023年3月のリリースからほとんど広告費をかけていないにもかかわらず、5500人超のユーザー(2024年1月)を獲得した背景には、レイオフや買収時の貴重な情報交換の場になっていることがある。
グーグルのレイオフにともない日本でも退職勧奨があったことをきっかけに、グーグル日本法人の従業員300人ほどが一気に登録。さらにBroadcom(ブロードコム)がVMware(ヴイエムウェア)を買収した際は、「VMware日本法人で働く従業員の約半数にあたる500人超が登録した」(冨成俊亮・代表取締役)というから驚きだ。
証明済み「給与データベース」に注目集まる
WorkCircle(ワークサークル)の企業別ユーザー数。
WorkCircle HPより。
WorkCircleで最も盛り上がるトピックが「給与」と「転職」だ。
中でも前述の、書類証明を経た給与情報が集まる「給与データベース」は、以下の項目が“丸裸”になるとあって、人気を集めている。
会社名/職種/ジョブタイトル/グレード・レベル/専門領域/期間/給与詳細(基本給/賞与/株式報酬)/コミッション/サインオンボーナス/社会人歴/職種の経験年数/会社の在籍期間/年齢/性別/国籍/最終学歴/英語力
外資系のほか、サイバーエージェントやNHK職員の書き込みも。
自身のデータを提出しなければデータベースの詳細を閲覧できない仕組みで、2023年9月のリリースからすでに200人超のユーザーが情報を公開している。
交渉下手な日本人を奮い立たせるデータ提供したい
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DM(ダイレクトメッセージ)機能もあり、代表取締役の冨成俊亮さんは「リファラル採用に活用してほしい」と言う。
冨成さんは、10歳で単身留学を決意しイギリスへ。大学卒業後に帰国し、楽天やリクルートHDでキャリアを積んだ。いま大きな課題だと感じているのが、日本の賃金の低さ、ビジネスパーソンの交渉力のなさだ。
「海外で育って思うのは、日本人はキャリアアップが下手で、自己評価が低すぎるということです。企業にうまいように使われ過ぎている。
給料も低すぎますが、『企業と賃上げ交渉しよう』という発想すらない人が多いのではないでしょうか。
給与データベースやWorkCircleでの情報交換で、自身と同様のスキルを持つユーザーの給料やグレードを把握することが、企業と交渉したり、転職する助けになればと思っています。
自分の競争力を上げるために何をすればいいのか知って欲しいですし、WorkCircleを通じて、究極的には『日本のGDPを上げたい』と思い起業しました」(冨成さん)
実際、外資系企業の人事評価のタイミングで会員登録者が増える傾向があるそうだ。
投稿を分析して企業人事に提供することも検討
「労働組合のような役割を担えれば」と話す冨成さんだが、まさにグーグル日本法人による退職勧奨や、BroadcomのVMware買収では、当該企業の社員らが情報収集して、今後の身の振り方を考える場として機能した。
退職勧奨は誰が、またどの部署が対象か分からないのが通常だが、WorkCircleで「対象になりました」など名乗りを上げる人が多く、全体像が見えていった。退職金が人によって差が大きいことも分かった。
日々更新される情報に困惑する気持ちを共有できたことも、社員の心の安定につながっただろう。
そんなWorkCircleのメンバーは代表取締役の冨成さんと、創業者でエンジニアのテリー・フィリップ・ドリューさんの2人のみ。採用と広告にアクセルを踏むため、UB Venturesらを引受先とした第三者割当増資で1.3億円を調達した。
今後、長期的には、同じ会社のユーザーのみが利用できる「プライベートサークル」内の投稿を分析して、当該企業や競合他社の人事などに提供することも検討中だ。
「感情やキーワードを分析し、離職率の高さや人材流出の原因の特定などに役立ててもらいたいんです。
人事担当者や経営陣の中には『こんなSNSを利用する社員の声なんて聞きたくない』という人もいますが、一方で、『ぜひ参考にしたい』という声もある。
プラットフォームとしては働き手の待遇改善に役立ててもらうのが第一ですが、企業サイドからも『組織をよりよくしていくためのツール』だと信頼してもらえるように成長させたいですね」(冨成さん)