2023年7月、ローマでの猛暑の中、水をかぶって涼む人。
Remo Casilli/Reuters
- 2023年は、1850年以来最も暑い年になったと発表された。
- 古代の氷床コアや木の年輪などから得られたデータを分析した科学者によると、世界がこれほど暑くなったのは10万年ぶりのことだという。
- 温室効果ガスによる汚染が暑くなった主な原因だが、その他の要因についても調査が進められている。
2023年の灼熱の夏を乗り切った人なら、昨年が観測史上最も暑い年だったと言われても驚かないだろう。だが、気温上昇を追跡している気候科学者にとって、高温状態がさらに高まっていることは衝撃的なことだ。
欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービス(C3S)が2024年1月9日に発表したところによると、地球の平均気温は、産業革命前(1850~1900年)の平均より摂氏1.48度上昇したという。最新の平均気温は2016年の記録を上回った。そして最も憂慮すべきことは、前年比での上昇幅が観測史上最大となったことだ。
C3Sのカルロ・ブオンテンポ(Carlo Buontempo)所長によると、この10万年で世界がこれほど暑くなったことはないという。つまり、都市や農場など、現代社会のあらゆる地域で、これほどの暑さに耐えたことはないということだ。
ブオンテンポ所長は1月9日の記者会見でこう述べている。
「環境リスクの評価方法を根本的に見直すべき時が来た。というのも、もはやこれまでの歴史は、我々が経験している前例のない気候の比較対象ではなくなっているからだ」
灼熱の暑さは自然災害を増加させ、2023年の世界経済に2500億ドル(約36兆円)の損害を与えたと、保険会社のミュンヘン再保険(Munich Re)が推計している。
記者会見では、C3Sの科学者が熱気を帯びた記者からの質問に答えた。その中から特筆すべき3つの回答について紹介する。
2023年がこれほど暑くなったのはなぜか?
主な原因は、輸送やさまざまな産業分野でエネルギーを得るために化石燃料を燃やすことで大気中に放出された温室効果ガスだとブオンテンポは言う。これらのガスは熱を取り込み、その大部分が海に吸収される。
記録的な暑さのもうひとつの要因は、太平洋の海面水温が高くなる自然現象「エルニーニョ」だ。7月上旬に始まったこの現象によって、7月と8月が年間で最も暑い月となった。エルニーニョは今年の1月か2月にピークを迎えると予想されている。そのため、2024年は2023年よりもさらに暑くなると科学者は予想している。
しかしC3Sの気候科学者は、これらの要因の他にも、さらなる調査が必要な要因もあるという。太平洋を越えて広がる異常な海洋熱波、一時的に過去最低を記録した南極の海氷面積、そして2022年に太平洋のトンガ近くの海底火山噴火によって大気中に噴出された水蒸気(強力な温室効果ガス)などだ。また、海運業界による温室効果ガス排出量削減の取り組みが、逆効果となって気候危機を悪化させているのかどうかについては、まだ不明だと科学者は指摘した。
10万年前の気候がなぜ分かるのか?
人工衛星からの最新データ、1850年から記録されている地球の気温、そして世界各地の深海堆積物、サンゴの骨格、木の年輪、氷床コアから得られた「古気候を表すプロキシ(代理)データ」を分析していると、C3Sのサマンサ・バージェス(Samantha Burgess)副所長は答えた。
「今回よりも前に地球の気温がこれほど高かったときには、人工衛星がなかった」
何万年も前の大気がどのような状態だったのか記録を作成するために、科学者たちは古代の氷床コアやその他の自然資源を用いて二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの濃度を測定した。
これは世界的な気候変動目標が達成不可能であることを意味するのだろうか?
そうではない。2015年の「パリ協定」で定められたように、各国は地球の平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5度に抑えることを目標としている。2023年の平均気温はその閾値に危険なほど近かったが、1年のデータだけでは目標達成に失敗したとするには不十分だ。長期的なトレンドを見る必要がある。
国連の気候変動政府間パネル(IPCC)のガイドラインによると、世界の平均気温が産業革命前のレベルを1.5度上回る状況が少なくとも20年間続けば、署名国は約束を守らなかったことになる。
「1.5度を超える可能性は高い。これはシステムにおける基本的な物理学であり、システムに組み込まれた温暖化の量だ。しかし、実際には1度のほんのわずかな部分が重要になってくる」とバージェスは述べている。
しかし、この10年で排出量が急減しなければ、1.5度という目標は達成できないと言う科学者もいる。